これからの瑠東さんの話をしよう
それは全てのオタクが夢見た美少女―――
以前、『二都物語』の記事を書きながら考えていた。こんな200年近くも前の本をお勧めしている場合ではない。もう令和だぞ。この激動の時代を生き抜くために必要な本が、どこかにある。
『瑠東さんには敵いません!』1巻読みました。めちゃくちゃ良かったです。ということで……令和に現れた唯一無二の美少女瑠東かなめさんとオタク系美少女JK和村千紘さんが繰り広げる日常の先の、2人のこれからの話をする。
相崎うたう先生の新刊『瑠東さんには敵いません!』。見てくださいこの可愛い表紙。
いますぐ買ってくれ。作者は『どうして私が美術科に!?』で有名な相崎うたう先生。
このインタビュー記事は一読に値する。私は黄奈子ちゃん推し。2巻の口絵やばすぎ。
瑠東かなめは完璧美少女である。文武両道 才色兼備、学校一の人気者。一分の隙もない完璧超人……なのだがその正体はイタズラ大好きおふざけ大好きのお調子者。それが真の瑠東かなめだ。なるほど、裏の顔を持つ優等生は古今東西創作のネタになり続けてきた。美少女とその秘密を共有することはまさしく「全オタクの願い」。彼女から授業中にこっそり自撮りに誘われ(図1)LINEを送られ挙句の果てには一緒に絵しりとりを始める。
図1.授業中自撮りに誘ってくる美少女 瑠東かなめさん.かわいい.全ての始まり.
(第1話 より).
全校生徒の羨望を集めている彼女の真の姿を知っているのはたった一人。瑠東さんが真の姿を見せる相手はオタク系女子高生の和村千紘さん。
この世のオタクはいつまでも瑠東さんと出会うことを夢見るであろう。まさしく王道ど直球の設定、可愛らしいイラストと相まって最高純度まで洗練された美少女4コマという趣きを感じる。
ここから1話の試し読みができる。お願い読んで。
1巻の表紙を見比べてもわかるように、どうびじゅがメインキャラ5名を中心に美術科の日常を描いた一方で、今作は瑠東さんと和村さんの2人の関係性に焦点を絞って物語が進む。もちろん文美ちゃんのような魅力的なサブキャラも登場するが、物語上では瑠東さんの別の側面を引き出すためある種の引き立て役、あるいは2人の関係性に変化をもたらす役と見なすことができる。少なくとも現時点の進行上では主人公とヒロインたる2人に対しその他の登場人物は脇役に徹している。
このように本作は2人の関係性を中心に進んでいく。1巻では和村さんがファーストコンタクトを経て、謎多き優等生の瑠東さんと距離を詰めていく様子を丁寧に描いている。
ちなみに私は7話の瑠東さんの自宅で料理をする回と続く8話での体育祭の回が一番好きです。ちょっとした非日常がちょっとした関係性の変化を生み出していく描写がめちゃくちゃ上手いと思います。良すぎる。着実に2人の仲が深まっているのがわかるのも良い……。関係性のエモさで言うと4話の瑠東さんが和村さんのために作ったノートや11話の相合い傘も外せない……。
さて、瑠東さんと和村さんの関係性を語る上で重要なコマが図2 である。
図2.第1話7ページ目より.訝しむ和村さんと誤魔化す瑠東さん.和村さんの顔と表情も良い.2人の関係性に魅力的な謎を生み出した.
和村さんは瑠東さんに自分を選んだ理由を尋ねている。瑠東さんは一瞬戸惑い、はぐらかすようたたみかけた。和村さんも誤魔化されていることを感じながらも一旦は疑問を棚上げし瑠東さんとの関係をスタートさせる。他にも瑠東さんが優等生の仮面をかぶり続けていることなど、いくつかの残された謎が彼女の魅力を高め、その後のストーリー展開の楽しみを与えてくれる。
和村さんはその後も何度か自身が選ばれた理由を質問するのだが、その度に瑠東さんにはぐらかされる。和村さんが元々瑠東さんに苦手意識を持っていたことと対照的に、瑠東さんは和村さんと親しくなる以前から和村さんのことをとても良く観察していたことが作中で明かされていた。
以上のような和村さんに対する瑠東さんの節々の振る舞いが示唆し、様々なイベントを通じて瑠東さんと交流を深めてきた和村さんに一巻最終話、強烈で鮮麗な事実が提示される。(ネタバレ!)
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そう、瑠東さんは和村さんの事が好きなのだ。
「私ね。わたしのことで頭いっぱいになってほしいからイタズラするんだよ。好きだから イタズラするの」
「小学生の動機じゃないですか」
「そうかも!」
――――――― p110 より
う、うひゃーーー!すごい破壊力。クールに返せる和村さんが強すぎる。
おわかりいただけただろうか。瑠東さんは本質的に和村さんしか見ていない。瑠東さんはThe オタクな和村さんを見初め、和村さんは瑠東さんに選ばれる。我々読者はオタク的振る舞いを見せる和村さんに共感を覚える一方で、我々が瑠東さんに選ばれることはなく、我々が和村さんに成り代わることはない。和村さん普通に美少女だし。
和村さんはエクリチュールを超えた何かを持ち、瑠東さんはそれを見出した。それも、瑠東さんの心の内に密かに大きな感情をもたらす程のものを。席の前後から始まるGirl meets Girl こと『瑠東さんには敵いません!』はまさしく桃源郷だ。先述した相崎先生とくろばU先生の対談でのフレーズ『「尊い」とは「見えざる関係性」のこと』がここにも活きてくる。終盤に明かされた瑠東さんの巨大な感情。それを意識しながらもう一度読み返すと、瑠東さんの一挙手一投足が、ぎこちないながらも進んでいく2人の秘密の関係が、あまりに愛しいものになる。
瑠東さんが何故和村さんを選んだのか。恐らく遠くない未来でこの理由が解き明かされ、瑠東さんと和村さんの関係性がまた一歩進む。私たちはいつの日か来るであろう「その時」を待ち望むしかない。「どうびじゅ」では日常の中で繊細に揺れ動く少女たちの感情と関係性を見事に描き出していた。きっとこれからも今作で2人の関係性にまだ見ぬ彩りを加えていくのだろう。真実がどうあれ、瑠東さんの本当の気持ちが語られた時、瑠東さん自身が和村さんに敵わなくなるのかもしれない。なぜなら「その時」は和村さんが2人の関係性を前に押し進めることを決意した時であり、瑠東さんは遥か以前から和村さんを相手として選んでいたのだから。さりとて2人の物語はここで終わることはない。時が来たとしてもそれは、2人の新たな舞台の幕開けに過ぎないのだから。「その時」が訪れ、瑠東さんと和村さんの青春は更に輝きを増す。そのまばゆい光はこの不安定な世の中を強く照らし出してくれるはずだ。
オタク×優等生の関係性に新たな可能性を生み出した『瑠東さんには敵いません!』。彼女たちのこれからを見守り、まだ見ぬ日常に身を焦がす。爽やかな風と共に青春を駆け抜ける2人の美少女の輝く未来に希望を託す、それこそが新しい時代に向けての大切な心構えなのではないだろうか。
まとめ
要するに美少女2人がいちゃいちゃしています。可愛い。本誌追おうかな。冷静に考えて追ってないのはどうかしている気がしてきた。ごめんなさい。今度買いに行きます。