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[空想]シン仮想美術館とネオ・キュレーター 4/4

新人「これまでのアーティストは、たぶん一般大衆に向けて創作することが多かったと思うんスよ。そっちに合わせるとどうなります?」

部長「素人の好みに合わせてしまうと云うことか」

新人「しかも、その素人さんは、作品を買ってくれるわけではないんス」

部長「そうだな」

新人「ところが、NFTの時代になれば、アーティストは自分のコミュニティのメンバーを相手にすることになります。買ってくれるのは彼らですし、彼らは理解者でもあるからです。これまでの経緯やさまざまな事情も彼らはすべて知ってくれてます」

部長「アーティストが自分の理解者を想定して創作出来ることになるというわけか……。もしそんなことが実現するなら。そりゃあ、作品の質がかなり変わってくるだろうな」

新人「部長も、そう思いますか?」

部長「ケーキ屋だって、出店する場所に合わせて作るケーキが変わるんだ。都会の一流店でバリバリ仕事してても、地方の親のケーキ屋を継げば、生クリームも使えん。単価が三四割も違うからな」

新人「部長の実家は、ケーキ屋っスか?」

部長「いや、バイトしてただけだ。話の腰を折るな!
 そこまでわかってるなら、art3.0は、それだと云えばよかったじゃないか。仮想美術館は、そのart3.0で行きましょうと、どうしてそう云わなかったんだ?」

新人「そこが矛盾するんスよ。
 美術館という器とか仕組みは、大衆を想定したもんでしょ? アートシーンが、コミュニティ中心に回るようになれば、美術館そのものが衰退するじゃないっスかね。オワコンっス」

部長「仮想現実の美術館でも、ダメか?」

新人「大衆を想定したものなら、同じっス」

部長「我が社の社運がかかってるんだぞ」

新人「でも、沈み行く船っスよ。美術館は」

部長「何か妙案はないのか?」

新人「無くは無いですけど、仮想美術館のコンペで、そこまで根本的なところからプレゼンして、わかってもらえますかね?」

部長「もったいぶらずに云え!」

新人「フェルメールの窓を例にすると、窓を通過することで、タイムスリップしましたよね」

部長「それはおもしろい趣向だと思うぞ」

新人「いろんな名作に、そういう時空を越える出入り口をつけてしまうんスよ。作品が制作された過去に飛ぶだけじゃなく、未来にも飛ぶ」

部長「未来? ああ、今のNFTの作品か……」

新人「そういうことっス。
 NFTのアーティストや作品って、一般の者からすると、すごくわかりにくいんスよ。誰がどんな作品を作ってるのか。自分で探さなきゃならないっス。
 部長なんか、紅白歌合戦観ても半分以上、知らない歌手やバンドじゃないっスか?」

部長「もちろんだ。レコード大賞とったグループが初耳だったこともあるぞ」

新人「それは広告代理店の人間としてどうかと思いますけど、まだ紅白歌合戦の出場者なら数百万人には名前が知られてます。
 NFTだと、そのスケールがもっと細かくなるんス。広い世間とどうやって接点を持つのかということは、今のアーティストの根本的な課題なんス」

部長「古典の名作から、NFTのアーティストや作品にリンクを張ってやるということか?」

新人「そうっスね。作品のテイストが似ているということでリンクを張ったりとか、アーティストの生き様がオーバーラップするとか、革新性に共通するものがあるとか……」

部長「私はヘンリー・ダーガーに思い入れがあるんだが、そういう自閉的なアーティストなら、NFTにはたくさんいそうだな」

新人「ダーガーって、女の子に戦争させてるあの作家っスか?」

部長「そうだ。よく知ってるな」

新人「アニメの先駆者みたいなとこがありますからね。でも、部長に少女趣味があるとは知りませんでした」

部長「オレが共感しているのは、ダーガーの人生の方だ!」

新人「なるほど、ぼっちのほうっスか。そういうタイプのアーティストは、増えてくるかもしれないっスね。リアルでは、ずっとぼっちで、でも、ネットにはたくさん作品を上げてるとか。ネットだと百万人に一人の変わり者同士が出会うチャンスもありますから」

部長「そういうマイナーなアーティストは、検索しても出てこないが、ダーガーからなら、リンクが辿れる……、確かに良さそうだ」

新人「ただ、そういう仕組みのサイトのイメージが、大英博物館やルーブル美術館のようなものでいいのか? といことッス」

部長「いや、そこは違うんじゃないか。逆だよ。典型的な従来型の美術館のほうが大衆には馴染みがある。そのほうが入り口としてはいい」

新人「そこまで理解していただけると有り難いっスけど、リンク張るだけじゃ弱いでしょ。さっきの話に戻ると、やっぱりロールプレーが必要じゃないですかね?」

部長「…………」

新人「そのワイルドなガイドさんに、NFTの世界の案内も頼みたいわけっス」

部長「…………」

新人「そのArt.note氏って、NFTのアートの紹介も出来ますかね? 誰かの解説書で勉強するとかじゃ遅いっスよ。リアルタイムで何が起こっているのか、誰が今クールなのか、肌で感じられないと」

部長「NFTの話をしたことがないから、断言は出来ないんだが、Art.note氏の解説を見ていると、どうも駆け足なんだよ」

新人「駆け足?」

部長「ゴッホの話をしていても、デュシュンの話をしていても、本当に語りたいのはその先にあるという感じなんだ」

新人「個々の作品やアーティストじゃなく、アート全体の先を見ているってことっスか?」

部長「私にはそんな気がしてならないんだ」

新人「もしそうなら、理想的じゃないっスか!」

部長「やはり、Art.note氏の協力が必要か……」

新人「というか、この企画、そのArt.note氏を招聘出来るかどうかに、かかってるんじゃないスか?」

部長「 ? 」

新人「自分で云っといて何ですけど、空飛ぶスクーターで美術館の中を飛び回るとか、それがタイムマシーンになって過去にも行けるとか、誰でも思いつくようなアイデアだと思うんスよ。
 確かに、初心者の関心を引くには、そういうのもあっていいと思いますが、それだけじゃ、美術館や美術作品を使ったテーマパークを作ろうとするようなものっスから」

部長「Art.note氏に、仮想美術館の監修をやってもらえというのか?」

新人「そういうことっス! 空飛ぶスクーターのガイド役にも最適ですけど、それだけじゃもったいなっス」

部長「そりゃあ、そうだが……。それじゃあ、我々は失業するじゃないか」

新人「我々には、せこい小細工があるじゃないっスか! たとえば、時空を越えるスクーターで、ルネサンスの頃のフィレンツェに飛んで、そこでピザを注文するとか。そういう仕掛けを考えるのは、我々の仕事っス。もちろん、当時のピザが宅配で届くということっス。
 ベネチアン・グラスとか伝統工芸品もいけそうっスね! 伝統工芸品なんて、当時の町の店で観た方が、絶対、欲しくなりますよ!」

部長「確かに、仮想現実の成功の秘訣は、現実との境界が無くなった時だともいうが……」

新人「『最後の晩餐』なんか、人気メニューになるかもっス。注文が殺到したりして~」

部長「『最後の晩餐』が? まさか、縁起でもない」

新人「世の中には、ホラーファンもいるんスよ。マニアの集まりなんかでは、きっと歓迎されますよ。そして、実際に事件が起こったりするんです! 『最後の晩餐』殺人事件っス!」

部長「脅かすなよ」

新人「そうやって話題が話題を呼ぶんス。そういうのをバズるというんス! 企画書にはバズりそうなアイデアをできるだけ並べておいた方がいいっスね。案外、我々のプランが選ばれるかもしれませんよ。なんだか行ける気がしてきたっス。オレはそっち頑張りますから、部長はなんとしても、そのArt.note氏を説得して下さい!」

部長「キミの話を聞いていて、仮想美術館を立体アルバムのようなのにしてはいけないということがよくわかった。求められているのは、過去にも未来にも連れて行ってくれる動的な存在……、いわば船ということだな。
 そう考えると、確かに普通の学藝員では手に負えないかも知れない。過去にも未来にも自在に飛べる新しいタイプの学藝員が必要ということか……」

新人「そういうことっス。そのArt.note氏には、『超時空学藝員』になってもらうっス!」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 そんなストーリーを妹に送った。ふざけたドタバタのやりとりだが、一通りの内容は盛り込んだつもりだ。大きなプロジェクトなので折衷案になるかもしれないが、その折衷案の中に、このストーリーのアイデアが含まれていて、それが世界から注目されれば、こんなに痛快なことはない。後は、甥がどうプレゼンするかだ。

甥っ子、あとは頼んだゾ!

オレはこれから、Art.note氏を説得する……


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「Art.note氏」の仮想モデル

ながら/NagaraDengaku さん https://note.com/artort

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