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[暮らしっ句]冬至[鑑賞]

「もうすぐ冬至」編

 筆箱の どんぐりかろし 冬至来る  奥田順子

 ドングリって見かけると拾いたくなるよね、とか。でも、持って帰っても結局、その辺に置いておくか、引き出しや箱に入れてそのままになるんだよねえ、という、一見すると、あるあるネタ。
 ところが、「筆箱」というのがクセもので、もしかして、子供の頃に使ってたヤツ? という疑問がわく。
 もしそうなら、作者はタイムカプセルを開けたことになります。出てきたドングリは、ン十年前、半世紀くらい前のものかもしれません。

 ドングリの寿命って、ご存知ですか? 発芽出来るのは一週間以内に湿った場所に落ち着いたものだけ。乾燥した場所だとアウト。この句にはそんな影はありませんが、そういう厳しい現実もある。

 ところが、昔の筆箱から出てきたというのではあれば、生まれることが出来なかったことよりも、時空を超えた! という印象になります。
 実際、中学の遠足の時のだ! とかなると、思い出すというより、自分がその時間に飛んでいきますよね。すっかり年取った今の方がウソみたい。

 先日来、四次元のことをちょっと考えてましたが、我々だって、高次元の存在に、ひょぃとつまみ上げられて、箱にほうりこまれれば、未来に行けるんでしょうかね。行きたいですか?


 丈長き 影法師ゆく 冬至かな  山本丈夫

 暮れの陰鬱な空気の中を徘徊する、怪人影法師!


 帰宅せし 部屋に冬至の 暗さかな   稲畑廣太郎

 初夏だと明るいうちに帰路につけることがあり、それだけでうれしくなりますが、これはその反対。いつもより早い時間に帰宅したのに、すでに真っ暗だった。家族も誰もいなかったようです。
 今なら、ネットでも見れば何のことはないわけですが、昔なら、暗さを受け止めるしかなかったでしょう。
 でも、考えてみればそれも悪いことばかりじゃありません。気持ちが沈む練習になるし、周囲を見渡して明るい材料を探そうとも思う。それも大事な生きる術ですよね。


 柚子の寄附 募る銭湯 明日冬至  前原マチ

 冬至といえば柚子風呂! この方もおそらくそれを期待して、銭湯に行かれたのではないでしょうか。すると、そんな貼り紙があった。
 これ、柚子の費用を工面するためにお金を募ってるんでしょうか?
たぶん違いますね。柚子を下さい! ですね。

 思わず、応用を考えてみたくなりました。
 さみしいので「ぬくもり募る」とか、退屈なので「やること募る」とか。
 ただし、さみしい時に幸せな人たちを見るのは逆効果だそうです。余計に落差を感じてつらくなるんだとか。ま、人それぞれですけど、わたしの場合は、不幸な時に優しい人(動物)が現れたり寄り添ってくれる話が薬かな。そういうのは、スクラップしてあります~


長電話 三つつづきぬ 冬至かな   堀米洋江

友だちと 長く話せる 冬至来て   塩路彩奈

 日が短くなって、家で過ごす時間が増え、それが長電話に……という、風が吹いて桶屋が儲かるというような話ですが、そんな説明がなくとも、すっと状況がわかるというのが、俳句のいいところですね。
 たぶんこの俳句を見た瞬間に、皆さん、自分の長電話事情を連想されたと思います。そういえば、わたしも!とか。逆に最近、長電話しなくなったなあ、とか。
 あらためて考えれば、長電話できる相手がいることも、話題があることも、幸せなことですね(嫌な相手とか、愚痴でなければ……)。
 わたしの場合は、長電話というか長話をすることさえ、めっきり減りました。でも、その代わりがこのnoteかもしれません。

 え? だから話が長いのか……  失礼しました~


出典 俳誌のサロン 歳時記 冬至



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