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世界を変えるSTEAM人材~シリコンバレー「デザイン思考」の核心~
「STEAM(スティーム)教育」という言葉を聞いたことはありますでしょうか。おそらく教育関係者の皆さんは一度は聞いたことがあるのではないかと思います。
Science(サイエンス):科学
Technology(テクノロジー):技術
Engineering(エンジニアリング):工学
Arts(アート):芸術・教養
Mathematics(マスマッティクス):数学
STEAMとは上記の5つの領域の頭文字を取ったものです。本書ではそのSTEAMを学び、体現する人々を「STEAM人材」とし、下記のように定義しています。
STEAM人材とは、まず第一に、人間を大切にするという思想(=ヒューマニズム)を核に探求を続ける21世紀の新しいヒューマニストです。第二に、STEAM人材は、次々とイノベーションを起こすイノベーションマインドセットを持ち合わせています。そして、第三に、STEAM人材は、様々な領域を越境し、デザイナーとしての発想でこれまでにない活動を構築しています。
ここからSTEAM教育について説明をしていきたいと思うのですが、STEAMを語るにはまずSTEM(ステム)について理解をする必要があります。
STEMとSTEAM
STEMはSTEAMのA(Arts)を取ったもので、STEAMという発想はSTEMをベースにできています。
言うまでもなく、21世紀はテクノロジーの時代です。第4次産業革命(IT革命)を経て、AI、ビッグデータ、IoT、ブロックチェーン、などの高度テクノロジーによって我々の生活はすでに数十年前とはガラッと変わりました。日本ではSoceity 5.0とも呼んでいますが、今後もこの流れは加速度的に進んでいきます。
ゆえに、今まで以上に学校教育の中にSTEMを取り組むことは必然であり、国全体の科学技術リテラシーを高め、実社会に応用できる知識や技能を習得するという教育アプローチは国家存続をかけたプロジェクトだとも言えると思います。
実際アメリカでは1990年代よりSTEM教育の重要性は広がり始め、その流れは世界に波及していきます。
上は2013年に当時のオバマ大統領が「すべての国民にコンピュータサイエンスを学ぶ機会を」と言ったスピーチ(1分程度)ですが、テクノロジーにおいて世界を席巻するアメリカの本気度が反映されていると言えます。
一方、同2013年ごろからアメリカではSTEM領域の学力向上を図る目的意識をベースにしながらも、さらにそこに芸術・人文(Arts)という新しい要素を加えたSTEAMという概念が、子供たちの学びの在り方を変えて、これからの人材育成のカギになるという考え方が徐々に広がりを見せていきます。
従来、科学とアート(芸術・人文学)は対極にあると考えられていましたが、「対象物の特性をつかみ取る」「意味を昇華させる」「3次元で考える」「体を使って知覚する」など、これまで主に芸術家が使ってきた技術的なスキルの多くが、科学・数学・エンジニアリングといったSTEM領域の学びに有用だと指摘され始めているからこそ、今世界にSTEAM教育が普及していると言えます。
スティーブ・ジョブスとSTEAM
私はSTEAMの話をするときはいつでもスティーブ・ジョブスのことを思い出します。
彼は「Appleはテクノロジーとリベラル・アーツの交差点にある会社だ」と言いました。
有名な話なのでご存知の方も多いと思いますが、彼は大学に入ってからも自分の興味のあること以外を学ぶ意義を見出せずに大学を辞めてしまいます。ただ、中退した後もCalligraphy(日本でいう書道)の授業はこっそりと出席し、自分の中に内在する芸術性を高めていき、最初のマッキントッシュ(PC)を作るときに、これまでのかくかくした字体とは一線を画す流麗な「フォント」を組み込みました。
また、それまではパソコンと言えば、一部のオタク用か業務用でしかなかった存在でしたが、1998年に発売された「iMac」はその麗しい流線型のフォルムと鮮やかなボンダイブルーという非常にエポックメイキングな「作品」としてセンセーションを巻き起きしました。iMacの登場により一般の家庭にPCが流布されたといっても良いのではないかと思います。ちなみに、私が初めて買ったPCはこのiMacでした。
ジョブスが単なるtech-nerd(テクノロジーオタク)だったら、こんなにイノベーティブなフォントもパソコンも誕生しなかったはずです。彼の中に存在した芸術性がイノベーションを引き起こし、世界を変えたと言えます。だからSTEMではなく、STEAMだと私は思うのです。
本書ではスティーブ・ジョブスの他にも、民泊の草分け的な存在であるAirbnbの創業者の二人や他にも様々なイノベーターの話が出てきます。
イノベーターのマインドセット
彼らのようなイノベーターたちが備え持っているマインドセットは以下の3つだと書かれています。
① 型にはまらない think out of the box
② ひとまずやってみる give it a try
③ 失敗して、前進する fail for forward
これらは私が自分の生徒たちに伝え続けているメッセージでもあります。critical thinking(批判的思考力)を養うために、「常に様々な視点から物事を捉えること。先生の言っていることや、教科書ですら鵜呑みにするな」と常に唱えています。また、「経験に勝るものなし」とも言っています。そして「失敗しなさい。失敗した分だけ成長できる」とも。
本書にも書かれていますが、人は誰でもイノベーターになれる素質を持っています。
これも有名な話ですが、ノミ(蚤)の実験の話を聞いたことがありますでしょうか。ノミのジャンプ力は大体2メートルくらいあると言われていますが、コップに入れたノミたちにふたをしてしまうと、当然ジャンプしてもそのふたにぶつかりそれ以上飛べないことを学習します。その後ふたを外しても、本来持っていた跳躍力を出せないまま、コップの高さまでしか飛べなくなるといったものです。
これは人間にも同じことが言えると思います。
「君は頭がいいね」とほめ続けた子は、能力が生まれつき決まっていると考え「固定的マインドセット」を持つようになり、一方「すごく頑張ったね」とほめ続けられた子供は正解した結果そのものよりも、到達するまでのプロセスを重視することを学び、能力は努力次第で伸ばせると考える「成長型マインドセット」を発達させます。
教育次第でだれでもイノベーターになれるのです。我々教育者は、そしてすべての親はそのことを知るべきです。
デザイン思考
そして、最後に本書のサブタイトルにもなっている「デザイン思考」について書きたいと思います。
近年この「デザイン思考」という言葉はいろいろなところで聞くようになってきました。とりわけビジネスの世界ではデザインの重要性が増していると言われています。
「デザイン」というと、どうしてもアートの中の一分野というように聞こえてしまいますが、今では「デザインとは、世にあるすべてのもの対象にしている」とも言われており、「Life Design」(人生をデザインする)なんて言葉もよく聞きます。
そして、近年デザインが重視されているのは、決して商業的な理由だけでありません。その背景には、人間を大切にするというヒューマニズムが深くかかわっているのです。
デザインとは、色や形を決めたり、見た目を美しくするだけではありません。デザイナーの仕事は、売れるもの、ユーザーに受け入れられるものを作ることです。そのためには何よりも人間を深く知りたいと思うヒューマニズムが基本になるのです。
その前提に立ったうえで「デザイン思考」とは何かを考えます。
本書では、デザイン思考とは、思いがけない発想ができるようになるためのトレーニングの場、発想法を身につけるための「道場」だと述べています。これはつまり、空手道を極めようとするものが、何年も道場に通って型を修めつつ、師範の思想を発見し、体得してくプロセスのようなものです。
そこでは、試行錯誤が繰り返され、抽象化と具体化、分析と統合、仮説と検証と言った相反する活動を繰り返しながら、少しずつ解を見つけていくしかありません。まさに「道場」ですね。
また、本書には上記のようなデザイン思考を取り入れたSTEAM教育を実施しているシリコンバレーの先進校の事例がいくつか取り上げられていますが、長くなってきたので今回は割愛させていただきます。興味がある方はぜひ本書をお読みください。
私は根っからの文系人間なので、STEMとは縁遠い人間です。しかしながら、今後の社会を担う子供たちと接する教育者としてSTEMの重要性はよく理解していますし、生徒たちにも伝えています。
私が生徒の力になれるのはSTEMよりもむしろA(芸術・人文学)の部分であり、これまでにも多くの生徒の後押しをしてきています。
毎度自分の生徒の自慢ばかりで恐縮ですが、うちの学校の生徒たちは様々な分野で結果を残しています。STEMの分野においては、国内外の学会やコンクールで多数賞を受賞していますが、それ以外の分野においてもダンスで全国制覇をしたり、映像制作で賞を受賞、e-sportでも全国大会で優勝したりしています。スピーチやプレゼンテーションでの受賞記録も年々増えていき、生徒たちの努力と才能、創造性などに毎回驚きます。そして、先月音楽会がコロナの影響で中止になったため、生徒主体の代替企画として希望者がだれでも参加できる「歌謡祭」を開催し、Youtube Liveで放映をしたのですが、そこで披露される生徒たちのパフォーマンスがあまりにもレベルが高いものばかりで感動しました。素直にものすごいポテンシャルを感じました。
現在日本は経済的にも社会的にも閉塞感が漂っていますが、それらを打破できる人材を社会に送り出し、日本に、そして世界にイノベーションを起こしてほしいと本気で願っています。