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題:亀井俊介著 「日本近代詩の成立」を読んで

新聞で知り読んだ本である。著者は和歌を含めた古来の日本の詩歌を、また近代の俳句、短歌を含めた日本近代詩の歴史の全貌を論じたいとの野望を持っていたが、自らが選択した近代の詩人のみを論じ語ることにしたとのこと。全部で16章から成り、著者が選択し限定した詩人たちであっても、相当な数にのぼる。なるほど、全貌といかずとも日本の近代詩とはこういうものであったのかと知ることができる。昔、高校で習った懐かしい詩もある。また読んでみたい詩人も結構いるのである。著者のそれぞれの詩に対する語りは分かり良く、また感覚的にも納得できる部分が多い。感想文では簡単な近代詩の流れと、私が関心を持った詩集を紹介したい。

なお、本書は500頁を超えてる大作である。日夏耿之介の「明治大正詩史」を参考にしているし、訳詩が多いために外国の詩人も結構登場する。ただ、斜め読みしたためか日本の近代詩とは海外からの導入であり、日本古来の詩歌はどこに行ったのか、それらの相互の関係が良く分からない。漢文には若干触れているが、日本古来の伝統的な感性は短歌や俳句の表現の内へとすべてが押し込まれてしまったのかとも思われる。この日本古来の感性的な観点も含めて論じているとなお良かったと思われる。つまり本書の内容の範囲外であるが、「記紀歌謡」から「万葉集」に「古今和歌集」へと至る内在化された心の思いと表現の変遷と同等の、もしくはそれ以上の革新的変化が近代詩に起こった、そのことがまさに「新体詩抄」に始まったはずである、著者もきっとそうであると言いたいに違いない。

まず、「新体詩抄」の意義から始まる。明治15年(1882年)に三人の選者によって「新体」の詩を訳したのである。新体とは行訳などの伝統的詩歌とは異なった形式であり、シェークスピアなどの生や死など訳詩14編と創作詩5編を掲載している。著者によると内容は粗いが日本近代詩の出発をしるす歴史的な詩集なのである。そして、これを契機に詩人たちは近代にふさわしい思想と表現を追求することになる。パトリック・ヘンリーなどの影響を受けながら「自由」を追求することになる。更に森鴎外編集による本訳詩集「於母影」によって美的要素も追求することになる。この「於母影」は「新体詩抄」より格段に作品の質が良くなっているらしい。著者の言葉によれば「意思世界」と「情感世界」がリズムよく表現されているとのこと。

次に北村透谷の「蓬莱曲」がホイットマンと同様に言葉自体に宿る生命を表しているとする。著者が「予言詩人」と呼ぶ「告げる人」であり「自己の歌」を歌うのである。原初的な人間の力を原初的な言葉で捉え直す詩人である。島崎藤村の「若菜集」を著者は日本近代詩の最初の金字塔として称賛する。内村鑑三の訳詩集「愛吟」はそれまで置き去りにされてきた思想を含んだ詩集なのである。また、著者は正岡子規が詩歌に革新をもたらしたとする。「あやめ会」の詩人たちとは日米英三カ国の詩人クラブである。こうして著者は「上田敏」の翻訳詩集「海調音」を取り上げる。この「海調音」は雑誌ではない、初めての単行本詩集である。秋の日の/ギオロンの/ためいきの、とは懐かしい。

更に著者は永井荷風の「珊瑚礁」を官能と憂慮を表現している詩集として取り上げる。訳詩として引用している伯爵夫人・マチユウ・ド・ノアイユ作「九月の果樹園」はその通りに感覚的かつ官能的に濃密である。異端詩人なる岩野泡鳴は口語自由詩へと移る。泡鳴五部作として「発展」、「毒薬を飲む女」、「放浪」、「断橋」、「憑き物」があるとのこと。確かに引用されて詩を見る限り、後半にかけて抒情的となり良い。堀口大学の翻訳詩集「月下の一群」はフランス近代の詩人66人、340作品を掲載している。いわば現代詩の入り口となる。「月下の一群」は引用詩を見る限り良い。萩原朔太郎が高貴な美意識と芸術性を主張したそのことを、これらの詩は表現している。

こうして本書を眺めていると、近代詩の輪郭が見えてくる。北村透谷の「蓬莱曲」、永井荷風の「珊瑚礁」、および泡鳴五部作はぜひとも読んでみたい。なお、吉本隆明の「初期歌謡論」が古事記などに含まれる古代歌謡を詳細に論じている。吉本隆明にとって重いテーマではないが、「共同幻想論」や「言語にとって美とはなにか」以上に、最高の著書であると思っている。特に、音のリズム、5、7音に比較して、4音を強調している点と枕詞の解読が良かったと記憶している。

以上

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歩く魚
詩や小説に哲学の好きな者です。表現主義、超現実主義など。哲学的には、生の哲学、脱ポスト構造主義など。記紀歌謡や夏目漱石などに、詩人では白石かずこや吉岡実など。フランツ・カフカやサミュエル・ベケットやアンドレ・ブルドンに、哲学者はアンリ・ベルグソンやジル・ドゥルーズなどに傾斜。

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