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もっとくわしく弁証法的行動療法(DBT)「6つのDBTスキル」と「治療プロセス」

弁証法的行動療法(Dialectical Behavior Therapy(DBT)) には、事前評価、個別療法、スキルトレーニング、相談という4つの要素があります。

DBTのプロセス

以下は、DBTの治療プロセスの各ステップで何を期待するのかについて、簡単な概要をご紹介します。

事前評価

DBTをする前に、療法士は事前評価を実施して、クライアントの懸念についてよく認識し、DBTが最良の治療コースであることを確認します。また、DBTとは何か、治療中に何を期待するのかについても話し合います。

個別療法

DBTセッションは通常、毎週40〜60分ほどです。療法士は必要な場合、クライアントの生命に安全なプランを作成します。それは、症状改善に役立つ新しいスキルを学ぶのに役立ちます。

スキルトレーニング

DBTにおいて、スキルトレーニングは必要不可欠で、個人もしくはグループで実施することもあります。グループでは経験の共有などをおこないますが、グループセラピー特有のピアサポートではなく、スキルの学習に焦点を当てています。

以下にある4つのスキルなどが、DBTスキルトレーニングで教えられています。

・内省、内観的視点
・心的ストレス耐性
・対人スキル
・エモーショナルレギュレーション


上記のスキルを学ぶことは、日常生活でのより良い対処などに役立ちます。

DBTコーチング

DBTは多くの場合、学んでいるスキルを統合するために、セッション間のコーチングが含まれます。ここで言うコーチングは、マインドの使い方に重点を置いています。

DBTスキル

DBTは、クライアントの問題の主な原因の1つが「適応スキルの欠如である」と考えます。そのため、問題のある行動を特定し、その行動を、ゴールを達成するために必要なスキルに置き換えることを主要な解決策と捉えています。

アクセプタンススキル

クライアントは、世界、自分自身、そして他人をあるがまま(事実やデータとして)受け入れる方法であるアクセプタンススキルを学びます。

アクセプタンススキルには、内観、内観的視点と、心的ストレス耐性が含まれます。

内省、内観的視点
このスキルは、非判断的で好奇心旺盛な視点で自分自身と自分の環境を観察する方法です。より客観的に自分自身と環境を観察し、そこから体の内外で何が起こっているのかを認識することができます。

心的ストレス耐性
自己破壊や人間関係の破壊的な行動につながった衝動を管理するのに役立つ行動を特定し、これらを乗り切るのに役立つ自己鎮静と気分転換の行動に置き換えます。

チェンジスキル

DBTのクライアントは、感情、行動、人間関係をより効果的に管理できるようにすることで、人生に変化をもたらすレベルのスキルを学びます。

エモーショナルレギュレーション
感情の調節は、否定的な感情によって引き起こされるストレスを軽減し、肯定的な感情を増やすための様々な認知および行動戦略に焦点を当てています。

対人スキル
極端な感情が調節不能になると、人生における重要な関係に悪影響を及ぼす可能性があります。

クライアントは、自分自身と相手を尊重する方法で、自身のニーズを含む人間関係の問題に、より効果的に対処する手段を提供するコミュニケーション、自己主張、トラブルの解決スキルを学びます。

コンティンジェンシーマネジメント

コンティンジェンシーとは、不確実性や偶然性、思いがけない事象などを意味する言葉で、それをマネジメント(管理)するということです。

つまり、クライアントが望ましい適応行動を示す時に、療法士は賞賛と認識を提供し、クライアントの人生に好ましくない行動に対しては、賞賛を差し控えたりすることを含みます。

エクスポージャー

エクスポージャーは、不安の原因となる状況に段階的に触れることで不安に慣れ、それを解消していくという方法です。

DBTでは、エクスポージャーによるストレスを回避するための思考、行動、感情、および関連する状況に注意を払うことを意味します。

クライアントはセッション時に療法士の助けを借りて、経験を避けるのではなく分析し、段階的に発生させていきます。

療法士はクライアントと協力し、内省、内観的視点の指導、心的ストレス耐性、エモーショナルレギュレーションの戦略を活発にします。

クライアントはエクスポージャーに関連するストレスをより効果的に軽減、容認する方法を学ぶことで、エクスポージャーの回避や不適応な行動に頼る必要がなくなるのです。

認知修正(考え方の変化)

認知修正は、クライアントの人生に役に立たない、もしくは、破壊的な思考の変化を支援するためのスキルです。

緊急時の認知修正の明確化は、クライアントの行動が、環境や他者の反応にどのように影響するかを確認するように教えることに焦点を当てています。

認知修正は、クライアントが状況に関する信念や仮定を再構築し、不適応な思考を変える方法を学ぶのに役立つのです。

チェーン分析

クライアントが自分の行動を理解するのに役立つ主な戦略の1つがチェーン分析です。

チェーン分析では、問題のある行動につながったクライアントの思考、感覚、感情、行動の詳細な分析をおこないます。

例えば、チェーン分析によってクライアントの行動に問題があることを特定した場合、それらの問題行動につながったリンクやイベントをさらに特定するのに役立ちます。

リンクの例は次のようになります。

・朝8時に起きて、すぐに「今日は仕事に行かなければならない。この仕事を失いたくない。」と思いました。

・お腹に違和感を感じ、頭が痛くなり始めました。

・シャワーを浴びて、仕事のために服を着ました。

・シャワーを浴びている間、自分の仕事がどれだけ嫌いか考えました。

・少し吐き気がし始めました。

・コーヒーを入れるために台所に行きました。

・その間、仕事をクビになって家にいることができる元同僚について考え、うらやましく思いました。

・仕事のストレスを解消するために、その元同僚とお酒を飲むのは良い考えだと思いました。

・仕事のノルマを心配し始めました。

・頭痛がひどくなってきました。

・以前、上司との会議で「あなたはここ最近、仕事のチャンスをずっと活かせてない。私はそれがすごく心配だ。」と言われたことを思い出しました。

・会議のことを思い出した時、怒りを感じ始めました。

・仕事が好きな上司にとってはチャンスでも、仕事が嫌いな私にとってはチャンスではなかったし、それを心配されても気分が悪いと思いました。

・元同僚から「今日の調子はどう?」とメールが入りました。

・私は「よく分からない」と返信しました。

・元同僚から「君の感覚は正しいよ。無理をしないで休めば?」と言うような内容の返事が届きました。

・胃が痛くなり、頭痛がしてきて、すごく辛い感覚になりました。

・「君の感覚は正しい」という言葉を見た時、とても安心しました。とりあえず職場に電話をして、病欠と伝えます。

・職場に電話をして、上司に「今日は病欠をします」と伝えました。

・私は家に元同僚を招いて、お酒を飲みました。

・その間、次の出勤日のことを常に考えていました。もしクビになったら?と考えると、仕事に行くのが怖くなります。

療法士はクライアントと協力して、「仕事に行く」から「家にいる」という決定につながる各リンク(行動、思考、感情)を特定します。

次に、そのチェーンを中断または切断するために集中する必要があるリンクを特定し、クライアントが望ましい動作を変更するのをサポートするのです。

DBTの4つの段階

DBTには4つの段階がありますが、これらの段階は必ずしも階段状に進むものではありません。

状況に応じて治療段階やタスクの再検討のために、前の段階に戻ることもあります。

ステージ1
行動を安定化するには、問題を軽減する「行動のコントロール」が必要です。

生命への安全性は、このステージ1で取り組む最も重要な要素であり、自己または他者への致命的な危険を防止するための措置を講じます。

また、治療を妨げる可能性のある行動パターンもここで取り上げていきます。

ステージ2
ここでは、トラウマ的な経験の処理、不適応な思考、信念、行動に対処する方法に注力します。

ステージ3
クライアントが自分自身を信頼し、ゴールの設定をすることができたら、細かな日常生活の問題解決のサポートに焦点を当てていきます。

ステージ4
最終段階は、さらに内省、内観的視点を深め、クライアント自身の本当の幸せに向けて協力し合うことを目的としています。

DBTの利点

研究では、DBTについて多くの利点が示されています。

・自傷行為の減少
・課題へのより良い対処に役立つ
・人間関係の改善
・物質(薬物など)使用の減少
・うつ症状の軽減
・問題解決スキルが高まる
・生活の質の向上

DBTのリスク

DBTは安全で効果的な治療法と考えられていますが、クライアントが考慮すべき点がいくつかあるかもしれません。

・DBTは時間とコストがかかる可能性がある
・ドロップアウト率が高い
・感情、フラッシュバック、疲労が起こる可能性がある

初回セッションで期待できること

最初のセッションでは、クライアントと療法士が協力をして、短期セッションのゴール設定をします。

療法士によるクライアントのプロファイルとして、クライアントについて尋ねることがあります。これは、自傷行為や自殺未遂などの致命的な行動に関して、最初に対処する必要があるためです。(高レベルな療法士ほど、クライアントへの質問は少ないはずです)

クライアントの治療への期待を知るために、DBTに関する基本的な情報を提供する場合があります。この情報を提供する理由は、未知の情報に対するクライアントの不安や感情的なストレスを軽減するためです。

提供される情報には、次のようなものがあります。

・療法士とクライアントの役割
・どこまでのサポートができるか(範囲)
・セッションの構造
・セッションの頻度と時間
・料金と予約のキャンセル、キャンセル料の有無
・利用可能なサポートやリソース

DBTの治療期間

DBTの治療期間は、クライアントのニーズによって異なる場合があります。

一般的には、約6~12ヶ月でDBTを完了しますが、一部のクライアントは、治療の初期段階で数ヶ月かかることもあります。

1つの治療が完了したとしても、さらなる課題に直面した場合、将来的に再び治療をおこなう必要がある可能性があります。

研究によると、DBTは境界性パーソナリティ障害(BPD)、自傷および自殺行動、摂食障害、うつ症状、物質(薬物など)依存症、心的外傷後ストレス障害(小児期の性的虐待など)に有効であることが示されています。

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鈴木一弘
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