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明かり差すニュータウンの傍らで#37「もっともっと」

 今日の我が町─明乃浦あけのうら市は、微妙な曇り空の下で朝を迎えていた。
 おまけに午後からは雨が降るという。こんな曇り空では洗濯が面倒になってしまう。感想の部分が特に、だ。

 ガス会社は「ガス衣類乾燥機をぜひ」とCMを流しているが、それを導入したい所だ。リースなら手頃に済む、ともいうので、いっぺん検討したい所だ。
 それで私の洗濯がもっと便利になるなら安いものだ。

 さて、私はいつも通りの道をスクーターで走っていた。出勤の前に、だ。
 こんなやや曇り空の日には、決まって何かが出て、それと戦う。私の脳内には、そんな胡散臭い法則が生まれていた。
 戦った後は職場に遅刻しそうになる。よって、このままでは勤務態度が不良と受け取られかねないので、近頃は家をもっと早めに出るようになった。

 ああ、まだ多少残っていた眠気が寒さで強制的に吹き飛んだ。私は住宅街を抜け、駅へ続く通りに出ようとしていた。
 「今日はいける」そう思った時だった。
 私の目の前に、敵が現れたのは。

 せっかくここまでうまくいっていたのに。なんだか腹が立ってきた。
 そして私は「今日はいつもよりもっともっと上を目指そう」と思った。

 私はスマートフォンに付けたブローチを回し、魔法少女に変身した。
 お決まりの「女体化→衣装生成」の流れを済ませてから、名乗り口上に及ぶ。
 この時、私はいつもと違ってウィンクを決めた。「もっともっと可愛くありたい」と思ったからである。普段は可愛げなどないくせに。
 そして肝心の台詞も変化した。

 「ちょっとの愛と勇気と希望をぶっ放す!『マジカルフラペノワール』見参!」
 以前は「炸裂させる」と言っていたのを「ぶっ放す」と改めたのである。
 これで前よりもっと言いやすくなった。根本的な考えやニュアンスは変わらないと考えるので、きっと大丈夫だ。

 いよいよ敵と戦う訳だが、私は「いつもよりもっともっと早く終わらせたい」と思うようになった。

 しかし、いきなり必殺技を決める訳にもいかない。
 ヒット・アンド・アウェイの考えで敵の攻撃をよけつつ、自らも攻撃を相手に当てる。
 この身体になってからは多少動きやすくなっているので、こんな戦いには便利だ。

 大分魔力も貯まった。いよいよ必殺技を放とうという訳だが、攻撃はもっともっと強くなるとまずい。
 周囲に多大なる影響を与えてしまうのだ。
 私個人が持つ魔法のみでは周辺修復に及べないので「明乃浦市で謎の破壊跡」とテレビのニュースで取り上げられ、様々な憶測を読んでしまう。

 慎重に相手を狙い、私は必殺技をぶっ放した。
 「『アグレッシブフラペリズム』!」
 無事、相手に命中した。反動で周囲に余計な傷をつけることなく、勝利を収めた。

 変身を解き、再び駅へ向かう。
 「ぶっ放す」って、中々いい感じだな……と思いながら、駅への道をスクーターで走る。

 駅へついた所で、次の電車まであと5分程だ。これなら到着にも、職場にも充分間に合う。
 「早く家を出よう」ともっと努力した成果が出ているのであった。

(了)(1,217文字)


あとがき

 何だか曇ってないっすね(笑)
 「もっともっと」をキーワードに制作した今回。「もっと」の安売りになってないか不安です。
 名乗りの所は「何だか『炸裂させる』ってしっくりこない」という理由で変更のタイミングを検討していたのですが、無事変更できてすっきりした思いです。


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