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突然ショートショート「夜に着替えて」
私たちの町に夜がやってきた。私はそれを切なくも楽しくも感じる。
たくさん誰かの為に頑張った「日中」が終わりを告げ、自らが一人で過ごせる「夜」がやってくる。
それと共に、私も「昼」を脱ぎ捨て、「夜」に着替える。
「昼」の太陽の元で頑張ったスーツを脱ぎ捨て、己の体をシャワーで洗い流し、「夜」の深い青色をしたフリフリのワンピースに着替える。身バレを防ぐための舞踏会みたいな仮面も欠かせない。
防音仕様の部屋、カメラとライトの準備もばっちりだ。
「皆さーん、今日も元気いっぱいに頑張ります!」
「夜」に着替えた私は、どの事務所にも属さない個人アイドルとして可愛く歌う。こんな私を見てくれる誰かの為に。
……あれ?だけどもこれ、誰かの為に頑張ってるよね。
どうやら私は、常に誰かを向いて頑張る運命の元に生まれてきたらしい。
自分の時間といえば寝ている時があるけど、20秒で爆睡だから自分を向く余裕もない。
まあいいや、こうして歌ってるのが楽しいし。
……ん?今度は「歌ってるのが楽しい」私を向いたよね、一瞬。
ちょっと安心した。ちゃんと「自分を向く」ことができたのだから。
(了)(470文字)
あとがき
最初、帰りの電車から見える夕暮れ空を見て書き出したのが本作です。
日中から夜に変わる様子を、「着替え」というワードに落とし込んでみました。
常に誰かのために頑張り、気づかぬ内に自分を向く主人公。とっても素敵ですが、たまには自分のために頑張ってみて…なんてのも、いいかもしれません。
つまりは「ご褒美」ですね。自分へのご褒美、ってことです。