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夜明けのすべて 感想メモ
前々から気になっていた『夜明けのすべて』
やっと観る事が出来たので、熱が冷めやらぬうちに感想メモを残したいと思います。
ネタバレ注意です!
月に一度、PMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなる藤沢さんはある日、同僚・山添くんのとある小さな行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。だが、転職してきたばかりだというのに、やる気が無さそうに見えていた山添くんもまたパニック障害を抱えていて、様々なことをあきらめ、生きがいも気力も失っていたのだった。職場の人たちの理解に支えられながら、友達でも恋人でもないけれど、どこか同志のような特別な気持ちが芽生えていく二人。いつしか、自分の症状は改善されなくても、相手を助けることはできるのではないかと思うようになる。
藤沢さんは私なのか?PMS症状に身に覚えがあり過ぎて辛い
藤沢さんの症状が私と似すぎていてびっくりした。
個人差が大きいPMS症状。私も藤沢さんみたいに、些細な事に敏感になって感情のコントロールが出来なくなる。
怒りに任せて相手に捲し立ててしまう。
捲し立てた後は、そんな自分に腹が立つし自己嫌悪に陥る。
それなら言わなきゃ良いだけなのだが、タガが外れると自分が自分じゃなくなったみたいに口を止められない。
藤沢さんは、普段は周りにお菓子を配ったり、困っている同僚にお節介気味に手を差し伸べたりと、気遣いの人なのだ。
藤沢さんが泣き叫ぶ時の心の中は、私も知っている。観ていて辛かった。がっつり感情移入してしまった。
藤沢さんが序盤で和菓子を買いに行くシーンで、「甘くないお菓子ってありますか」と店員に聞き、店員が他の店員に「甘くないお菓子ってありましたっけー?」と確認を取る場面。
店員さんの言い方がぶっきらぼうに聞こえてちょっとチクっとしたのだが、PMSの症状が出て不安定になっている藤沢さんにそう聞こえた、という描写なのかなと思った。
症状が出ると、相手の何気ない仕草や言葉にどうしても敏感になってネガティブに捉えてしまう。
栗田化学で働きたいです。
私の大好きなpodcasts番組でパーソナリティがそう言っていたが、私も全く同じ気持ちになった。
家族を自死で亡くしている社長は、見えない傷を抱えているからこそ藤沢さんや山添くんの生きづらさにそっと寄り添えている。
でも社長だけでなく、他の社員の温度感も心地良いのだ。2人の症状に理解があるのはもちろん、
山添くんがどら焼きを買ってきた時、皆びっくりしつつも「おまえ!成長したな!」とか余計に褒め過ぎなかったり。
飲みに誘ってくる先輩社員が、そこにいる皆に声を掛けていたり。(パニック発作があるから誘わない、子育てで忙しいだろうから誘わない、という余計な気回しをしていない)
後は、中学生から「会社の良いところはどこですか?」と聞かれた時に、皆パッと出てこなくて、「駅からもっと近ければいいんですけど」と小さな不満を答えるシーンも好きでした。笑
会社大好き!社長の方針バンザイ!みたいな雰囲気では無いけれど、きっと皆栗田化学が好き。共に働く同僚に寄り添って、成長を見守る社員の方々なんだと思う。
あんまり若い社員はいなくてベテラン社員が多そうな職場だったけれど、働きやすい環境だから辞める人が少ないんだろうなと想像がつく。
こんな会社で働きたい...
「夜明けについてのメモ」を手帳に書き記したい
「夜が存在しなければ、地球の外の世界に気づくこともできなかっただろう。」
私や藤沢さんがPMSと付き合っているように、他の誰かも見えない何かを抱えている。
悲しい事や、辛い事は無いにこしたことは無いのだけれど、もし夜の中を過ごす人に出会ったら。
地球が自転している限り、朝は必ずやって来るから。そっと傍にいて、夜をやり過ごせる相手になれたらいいなと思う。
2人が協力して造り上げた移動式プラネタリウム、私の街でも上映してほしい...
(追記)好きなポイント
・藤沢さんが山添くんの髪を切るシーン
「藤沢さんて前は美容師だったんですか?」「いや違うけど」「じゃあもともと目指してたとか?」「全然」「それでよく人の髪の毛切ろうと思いますね」
というクスッとするやりとりからの、大失敗。
怒りを超えて笑っちゃうぐらいの失敗に、山添くんも爆笑するしかなくて、ずっと張り詰めていた山添くんの心が緩んだ瞬間。私も笑いました。笑
・この髪を切るシーンの前後
お互いの症状を知るために、本人に聞くのではなく、当事者ブログを読んだり主治医に聞いてみたりする2人。藤沢さんも、ブログを読んで何かしたいと思い、電車に乗れない山添くんに自転車をゆずる。
山添くんも彼なりの気遣いで、PMSで感情が爆発しそうな藤沢さんに1人の時間を作ってあげたり。
不器用で突拍子がなかったりするんだけど、助けたいって気持ちがあるのが伝わってきて温かい気持ちになった。
・山添くんの変化
栗田化学を見下し、PMSとパニック障害を同列に語るなとまで言えてしまっていた山添くん。
最後は自らどら焼きを皆に配ったり、お酒の誘いに応じたり。山添くんが心を開いて変わっていく姿が微笑ましいし、山添くん!!と肩を叩きたくなる。
山添くんの「栗田化学に残る」という決断に涙する前職の上司。彼も山添くんの変化を実感し、居場所を見つけた事に安堵したのだろう。この上司も、他の同僚や元カノも、皆良い人だった。
・恋愛関係にならない
映画では2人は恋愛関係にならないし、藤沢さんは栗田化学を退職して実家へと戻る。(介護のため)
同僚でもなくなってしまうのだが、山添くんは割と退職することをさらっと流していたように思う。それはきっと、彼にとって藤沢さんとの関係がこんな事で終わると微塵も思っていないからなんだと思う。
どの登場人物にも他者への気遣いが感じられて、私も人に優しくしたくなる。
相手が辛い時には手を差し伸べ、自分が辛い時には助けを求められる、そんな支え合う関係を築きたいなと思う。
映像の質感や、音楽などもすべて心地よくて、好きなポイントを挙げだしたらキリがないのでこの辺で。
もし気持ちが沈んでいる人がいたらそっと教えてあげたいし、私も辛い時は何度でも観て心を温めてもらいたい、そんな映画でした。