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【TOLOPANの真髄に迫るvol.43】ルセットの基準となる五味の「甘味」について

甘味とは人間にとってのエネルギー源である。
疲れた時に糖質を摂取したくなるのは、体内の甘味に対する感度が鈍くなり多く摂取しようとする本能的なものだ。

ボクシング時代は減量が苦しくて、試合後のご褒美はいつもパフェを食べていたことを思い出す。



甘味のもととなる糖は砂糖だけでなく、果糖、転化糖、ブドウ糖、水あめ、麦芽糖、乳糖など多数ある。今挙げたのは製パン用糖類の甘味度の高い順だ。

蔗糖(砂糖)は温度変化に左右されないが、ブドウ糖や果糖は温度が上がるにつれて低減する。また蔗糖はブドウ糖より焦げにくいのに、パン生地に加えた場合には蔗糖が酵素により速やかに果糖とブドウ糖に分解され、果糖の影響が現れるため、蔗糖の方がクラストカラーが強くなる等の条件でも変化があることは非常に面白い。



「甘味」を使ったパンは、大きくいくつかに分類できる。甘味中心のときはスイーツパン、塩味やうま味を加えたものを調理パン(料理パン)、砂糖を入れないが発酵で澱粉の分解を活用して甘味を引き出すハード系のパン。

甘味は病みつきの要素。
しかし現代では健康を考慮し、それを抑制していく方向にあると思う。

そのため、甘味の五角的には4や5という高評価であっても甘味を前面には出さない味わいにすることが多い。他の味で抑制させたり、引き出した甘味というのが重要になる。

苦味や酸味は味の中心にはならないが、抑制効果や香り、味の余韻につながるものとして利用していく。

例えばトロパンのパンオショコラ。
バターの折り生地にチョコレートを2種類入れている。これにより普通は重く感じる所に、2つのポイントを作っているのだ。一つは端っこのチョコレート部分。あえてほんの少し見せることでベイクチョコの部分ができて、少しの苦味が生まれて余韻になり、重く感じにくくなるのだ。さらに五感でいう視覚効果もある。チョコレート=甘いとまず脳にシグナルを送るという仕組みだ。

そしてチョコレート選びでは、少し甘味がオンなものと酸味があるチョコレートを選ぶことで甘味を中心にしながら不均一さを出す。パリパリ食感は、軽くチョコレートのバトンにあたると甘味がきて酸味がきて苦味で終わる。そうしてコントラストを演出する。

このパンオショコラの五角の評価は、甘味3、塩味0.5、酸味1、苦味1、うま味1となる。


トロパンのヒガシヤマのようなモチモチした食感や、太白胡麻油を使ったフォカッチャ等も「甘味」がメインのパンだろう。これはネクター効果のようなもので、砂糖は入っていなくても舌の滞在時間を伸ばすことによって甘みの持久力を上げている。モチモチで咀嚼させることによる唾液分泌を促し、甘味を演出するという方法もある。

クロパンのように、ライ麦が100%で目詰まりしているパンにはサワー種のような酸味が有効的だといえる。日本の食文化では、甘味とうま味を中心と考え4〜5としたところに酸味が2〜3の構成にすると食べやすくなるだろう。




人間がエネルギーとして必要な糖質を、酵母も同じように必要としている。そう考えると改めて酵母も人間も、同じ「生物」なのだなと実感する。そして甘味とは生命の源だと感じるのだ。

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