【TOLOPANの真髄に迫るvol.32】柔らかな酸味と強い旨味のTOLO流ライ麦パン
トロパンのクロパンとはライ麦パンのこと。
今はどこの国でも見られるライ麦パン。
もともとは、小麦の育てられない環境だからこそ生まれたパンであり、それが地産地消の始まりになった。
ドイツ式、デンマーク式などそれぞれの国の独自の様式を守りながら進化を続けたライ麦パン。
現代においても、地産地消のスタイルやその気候、風土にあわせてアレンジをし、より美味しく味わえるように変化して進化し続けている。
地産地消は、今やどこの国においても当たり前になった。素晴らしい考え方が流行していると思う。
「流行」とはいつか消えてしまうもの。
しかし、地産地消の流行はサステナブルだ。
ただ、サステナブルな流行といえど地産地消だけをひたすら追い続けていては、お店の個性が霞んでいってしまうのではないだろうか。
幅広い流通と溢れる情報がある現代において。
それも特に都会では、「地産地消」プラス厳選された海外のものを組み合わせることが重要なのでは、と僕は考えている。
今回のクロパンは、実はある本から刺激をもらって生まれたものだ。
それは、「BREAD」という本。
日本のパン業界の重鎮であるドンクの二瓶さん、ベッカライ・ブロートハイムの明石さんがおすすめしていた本である。
僕はこの本との出会いでライ麦パンに興味をもった。そして、まだまだ発展途上のライ麦パンと一生向き合っていきたいと思った。
トロパンでは3種のライ麦パンを出している。
「オールライのクロパン」「ギネスとカカオニブのクロパン」が100%ライ麦のパン。「東山のノワレザン」は全粒粉とライ麦が半々のパンだ。
ライ麦粉の特徴はグルテンを形成しないこと。ライ麦タンパクは、水溶性塩溶性アルブミン、グロブリン、アルコール可溶性のプロラミン(小麦のグリアジン)、アルカリ可溶性のグルテリン(小麦のグルテニン)で構成されている。ライ麦粉には約8%のペントサン(五炭糖の炭水化物)が含まれ、可溶性のペーストが水といくつかの糖質分解酵素に溶解しコロイドとなり、ゲル化する。
ライ麦粉にはアミラーゼが多く含まれている。アミラーゼとはデンプンを等しく分解する酵素で、多く入れるとねっとり感が薄れる特徴がある。これはクラム構造を壊すことにもつながってしまう。それを抑制するために酸の役割をするサワー種を使用する。
ライ麦デンプンの糊化温度は小麦デンプンより10°C低い。時間をかけて焼成するため、厚めのクラストが作られる。栄養の部分でも、ビタミンB群、必須アミノ酸、食物繊維が豊富であり、結果GI値が低く血糖値の上昇が緩やかになる。
ライ麦が体にいいというのは、実はこういった経緯があるのだ。
またパンの製法においては、デトモルト方式というドイツで開発された3段階方式のうち、1段階方式をトロパンでは取り入れている。それを最近は2段階方式に変えており、いずれは3段階にしていく予定だ。
デトモルト方式を簡単に説明すると、1段目で酵母の増殖、2段目で酢酸は少し、3段目で乳酸をメインに行うものだ。トロパンは1段目をルヴァンリキッドと併用し、酢酸でハンク乳酸をメインに温度と硬さを作っている。
この製法をとっているのは、酸っぱいパンが苦手な人にも食べやすいようなライ麦パンにしたかったからだ。柔らかい酸味と強い旨味を引き出しつつ、わかりやすい美味しさに仕上げている。
また、より親しみのあるライ麦パンに近づけるためにフルーツやナッツを一緒に練り込んでいる。
今後はもっと酸味を出してスモーブローにしてもいいなと。そのときは相性の良いキューカンバージャム(キュウリ、クミン、キウィ、パクチー)で食べられるような味と食感を目指したいと思う。
フランスパンをわかりやすくした、ドンクとブロートハイム。
ドイツパンの本物を教えてくれた、ビオブロート。
進化し続けるパン屋であるトロパンは、40年後もそう呼ばれる唯一無二な愛されるお店でありたい。
先人にいつも感謝しながら。
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