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【TOLOPANの真髄に迫るvol.27】吸水にこだわったジューシーなぶどう食パン
僕は子供の頃からレーズンの入ったパンが好きだ。
少しだけレーズンの入った棒のパンをスーパーで買ってはトーストして、ネオソフトをたっぷり塗っていた小さい頃を思い出す。
母親と初めてパンを作ったシュトレンも、レーズンがたっぷりと入って美味しそうだから作ったのだった。
修行先のデュヌラルテに入るときだって、きっかけはレーズンだった。山ぶどうがこんなにたくさん入ったパンをどうやって作っているのかに興味が沸き、自分では解らず門をたたいた。
レーズンパンの魅力。
レーズンとは干しブドウであり、その分糖度が上がり甘味度が増す。そしてレーズンはパンの水分を吸って膨潤し、咀嚼した時に甘味からさらに酸味がでる。ここでパンのブドウ糖とのマリアージュが生まれ、クラストのメイラード反応とキャラメル化から生まれるしっかりと焼かれたパンの香りがレーズンに絡み合って抜群の相性になる。
あわせるモノとしては、カレンズが沢山入ったハードのパンであればゴルゴンゾーラと洋梨がよく合う。少し大きめのサルタナであれば、トーストしてカレーをのせてチャツネ代わりにもなる。
このように、あわせるモノは無限にも広がる。
そういう魅惑の世界に連れていかれるパン。
それがレーズンのパンだ。
トロパンでは「レーズン食パン」ではなく、
「ぶどう食パン」と呼んでいる。
レーズンがフレッシュなぶどうのように戻り、とてもジューシーになるためこの名前がふさわしいのでは、と思ったのだ。
まずは下準備のところから。
トロパンのぶどう食パンにはサルタナレーズンとカレンズを使用している。
(サルタナ60%、カレンズ40%)
まずサルタナレーズンをカルヴァドス、ハチミツ、水、ラップで浸透圧をかける。ここで二日以上は漬ける。
カレンズはしこむ前日に冷蔵庫に入れ、柔らかい状態から締まりのある固い状態にする。理由はミキサーのアームでのつぶれを無くすため。つぶれが出ると、糖分の含まれた汁がでて底の焦げの原因になるからだ。
次にこだわっているのは吸水の量。
レーズンが生地水分を吸うことを考え、トータルで120%〜125%の水分が入っている。ヴァシナージュ(足し水)を行う商品には全て足し塩をしている。最初の配合に上乗せしても良いのだが、後塩方法をとりグルテンの引き締め効果を後半に持ってくることで少しのミキシングタイムの短縮に繋げている。もしヴァシナージュするパンに塩が上乗せになっていなければどうか?食感としては独特のテイストにはなるが、きっと味がぼやけて水っぽく感じてしまうはず。
そして劣化対策。
食パンの風味を考え、牛乳4%、バター5%を配合。対策としてもう一つ、少しの上白糖をいれている。上白糖を使用している理由としては、1%の転化糖と1%の水分が含まれているから。これでパン酵母が少量でも食いつきが良くなるのだ。
分割や成形の時は、なるべく触らずレーズンが潰れないように意識。焼成の理想としては、上は薄皮なのにしっかりと焦げ茶色、脇は少し対流を弱めにし白っぽく茶色に、底は脇の所よりも茶色にし、伝導は少し強めて芯部への火通しにこだわっている。
食べ方としては、そのままむしってやわらかな中に独特なモチモチ感を味わってもらってもいいし、少しその食感を楽しむために周りだけカリッとトーストして冷蔵庫から出したてのバターを薄くスライスしてのせて食べると幸せを感じられるはず。
僕個人の意見だが、ブドウパンには安心感と癒しの効果を感じている。パンを始めて24年、ヴィーニュというブドウ畑に感動し魅せられ、意欲とやる気を高めていけてるのだと思う。
「ライ麦畑で捕まえる人になりたい」とホールデン、僕は「ブドウ畑で人を捕まえる人になりたい」とサリンジャーに伝えたい「キャッチャーインザグレープ」のパン職人だ。