【TOLOPANの真髄に迫る vol.12】チェ・ゲバラと大判焼きが生んだモダンなあんぱん
モダンな、あんぱん。モダアン。
まず形は大判焼きの形にしたい。
日本人なら、この形から「あんこだ ! 」と。中身が見えなくても想像しやすいのでは、と考えた。
次にモダンといえる為に、「現代的な」に合うモノ作りを考える。
何故このような、流れで進めているかというと、先に名前と形を決めたからだ。
すこし、小説と似ているのかもしれない。
お題がある方が中身を決めやすい。
「現代的な」生地作り。
まずはデュヌラルテでの修行を生かし、卵なしのブリオッシュ生地で。
デュヌラルテの基本はバターが80%以上110%未満。
これでスーシェフ時代の開発は行っていた。
グルテンが薄く伸びることから、皮目は薄く、揚げたような食感に。内層のしっとりを保ちスポンジ状に仕上げるのに、必要なバターの量だった。
トロパンでは50%。
後で派生させる事を考え、特に甘いものにプラスすることからの数字だった。
80%以上と比べると無難に仕込みは行えた。
既存のあんこを合わせてみる。
食感も、味も、無難にまとまっている。
次はブールノワゼット(焦がしバター)を10%配合してみる。
ポイントは、熱い状態では加えられないこと。
ブールノワゼットが丁度良いのでは、焼成時にピークを過ぎる。と仮説を立てる。
酸化の事を考え、当日仕込む直前にブールノワゼットを作り、良い香りのまま入れなければならない。それも、氷にあてながら。当時はまだショックフリーザーがなかったのだ。
冷凍庫の一番冷えるところに入れ、ホイッパーで3分おきに混ぜながら全体の温度を下げ、ペースト状にして最後に入れた。
思いの外上手くいった。
しかし焼いてみると、たった10%だけのブールノワゼットが、どうにも油っぽく感じるのだ。
そこから、何故と試食の繰り返しが始まる。
火入れの段階では、
ノワゼットが過ぎる結果ではなかったはず。
これは本来のノワゼット臭より弱い方なのか?
いや、ペースト状がそうさせているのか?
次は、ブールノワゼット自体をベストにして、
冷やし方は変えずにやってみる。
一番意識したのは、生地がバチバチとボールから離れ、フックで打ち付ける段階をのばすこと。
しっかりとした、クラムグルテンを作る。皮目は薄くしたいので、最後にブールノワゼットを加えてから短くし、少し切れている状態であげる事にした。
ボール入ったままの生の生地を食べた時に、
すでに「大丈夫だ」と確信した。
ただ、まだ引っかかる。
「現代的な」と考えた時に、このブールノワゼットのフィナンシェのような香りに、どうしてもあんこが普通では納得がいかない。
頭を抱えていたそのとき、ふと思いついた。
「マテ茶」はどうだろうか。
僕は26歳の時から、チェ・ゲバラのノンフィクション本が大好きだ。そこで度々マテ茶を飲んでいるシーンが出てくることから、僕もオープンの2年前からマテ茶を飲んでいた。
たまたま、和菓子のあんこ系のものとマテ茶をあわせて飲んでいた時に、なんとも絶妙なマッチングを感じたことを思い出した。
それから、甘味を引き出すための塩をやめ、マテ茶を少しずつ味見をしながら加えた。
少量でも、苦味が甘味を引き出している。
それに香りも良い。
当時の小豆担当は、一緒にマテ茶を飲みチェ・ゲバラをみてきた嫁。だからこそ、この「渋くて美味しい」絶妙な配合になったのだと思う。
塩ではなくマテ茶にする事で、
重くないあんこが完成した。
マテ茶のクッとくる渋味は、牛乳で仕込んでいるタイプのブリオッシュに味の調和から伸びるノワゼット臭につながるだろうと思い、包餡して焼くことにした。
セルクルで焼く大判焼きタイプ。型のはずすタイミング、しっとり感とカリッとした部分との演出を考慮し、短時間の対流系コンベクションオーブンでの焼成にした。
対流はワキに色を入れる目的。
セルクル分の熱効率が悪くなる分、少し高めの余熱で、セルクルを伝導熱に変え、中の火通りを良くし、すぐに温度を落とし、風対流は強いままで。
また温度を高くし、伝導熱を高め天板を外してひっくり返し、セルクルを抜き、最後の焼成を1分30秒以内におさめる。
結果、はみ出すぎりぎりのフチができている所が、カリカリっと香ばしく、食感の音も食欲をそそる仕上がりになった。
そこと対照的な、
生地のしっとり感とあんこのしっとり感。
あんこと生地が触れているラインだけに、クニュっとした特に甘味があるしっとり感。
このコントラストが重要なのだ。角がとれてしまうと全てがしっとりしてしまい、メリハリの部分が壊れてしまう。
味わいはマテ茶の渋味が絞めてくれて、ノワゼット臭が重くなく余韻を引っ張りだす。
このポーションだからこそ、質が求められる。
追究しなくては美味しいにはならない。
できた時は、すでにオープンの日。
ツヤ出しの卵も、ケシの実も、卵も抜いた、バターの味が活かされている。
チェ・ゲバラと大判焼きが生んだモダンなあんぱん。モダアンの完成だ。