見出し画像

【TOLOPANの真髄に迫る vol.18】「豊」をもたらす祝福のガレット・デ・ロワ⁡

フィユタージュとクレームダマンド。
この二つの要素でシンプルに構成されるお菓子。
それが、ガレット・デ・ロワだ。


ガレット・デ・ロワの大きな楽しみのひとつ。
それは、お菓子に隠れている「フェーヴ」が誰に当たるかということ。

フェーヴが当たった人は、その日王冠をかぶり「王様」または「王女様」になる事ができ、皆から祝福されるという昔からの伝統がある。

フェーヴ=陶器の人形、として認知されているが、直訳すると「ソラマメ」という意味になる。

ソラマメは胎児の形をしており、古代からの命のシンボルとして扱われていたという。そのため昔は、裕福な家庭には金貨を、貧しい家庭ではソラマメをガレット・デ・ロワに入れていたそうだ。

1874年、パリのお菓子屋さんが初めてその中に陶製の人形を入れたことから、今の風潮が生まれた。



さてここからは、
トロパン流のガレット・デ・ロワのお話。

僕たちパン屋はフィユタージュではなく、折り込みのパン生地で作っていく。

下の脇の生地は、以前のトロパンの連載投稿でも紹介した「キッシュベース」と同じもの。クロワッサンとパンオショコラを折る時に生まれる残生地だ。

上生地をスパイスと少し強力粉を使った生地を2.5mm厚で、下よりやや厚目で、最後のレトロネーザル香の時にスパイスの余韻が生まれるようにしている。
しかし、シナモンを使うことで酵母にとって良くないシナモンの成分(シンナムアルデヒド)が酵母の働きを抑制してしまう。

では香りのためとはいえ、
何故この折り込み生地にシナモンを使うのか。

まず1つ目の理由は、捏ね上げ温度が0℃〜5℃の発酵停止の温度帯であるから。
2つ目は、発酵をとらずに半冷凍状態で窯入れするため、酵母がはじめて反応し出すのが窯入れ後に起こるからだ。

フィリングの方は、底から塩キャラメルと砕いたホールナッツ、クレームダマンド、ラズベリーみりんジャム、クレームフランジパーヌ、焼き上げに塗るシロップで構成する予定。

「何を一番に美味しく感じてもらいたいか」

この自分の問いに答えを出していくのが大事。
そうすると、今まで色々と加えていた中から削ぎ落とすことが見え、必要なことが見える。そこからテクスチャーと香りの部分が構築されていくのだ。

「では、ガレット・デ・ロワは何が一番なのか」

ガレット・デ・ロワは、クレームダマンドが中に入ったシンプルなお菓子。言い換えればアーモンドクリームのお菓子ということになる。

となると、
「いかにアーモンドを美味しく味わえるか」
これに焦点を絞り、ど真ん中のピントを合わせる。


そこからはピントを外す作業。
生地の縁がとにかく厚くならないように。極力、端までクリームが入るように。アーモンドプードル、アモーンドホールを使用する時には、皮付きと皮なしをブレンドし、丁度良いパーセントを導き出していく。

アーモンド感を壊さない、塩キャラメルの量とラズベリーみりんジャムの量と酸味。

クレームフランジパーヌの1対1ではなく、クレームパティシエールをどこまで抑えてその食感と香りを引き出し、全体のどのくらいのボリュームにするか。

生地は、甘みをおさえたスパイス生地。どの香りの糖度をどれくらいにするのか。

このようにテーマや仮説を立ててしっかりと構築して試作を行うのは、とにかく忙しい。

事実、これが投稿される時もまだ試作を重ねているはず。



最後にガレット・デ・ロワの起源について少し。

ガレット・デ・ロワは、1月6日の公現祭(エビファニー)にフランスで食べられるお菓子。

公現祭とは、キリストの生誕を聞きつけて東方からバルタザーム、メルキオール、ガスバールの3人の成人がベツレヘムに到着し、キリストに謁見し、お祝いの品3品を贈って、その誕生を祝った日のこと。

キリストはもはや宗教を超越して、この名前で祈り、お祭りが起こり、皆を豊かな気持ちにしてくれる存在となっていたのだ。

逞しさをわかってくれることよりも、
人の心の悲しみをわかってくれること。
そこから生まれる、安心感。

情緒と教育。それらが「豊」になる。


そして職人とは、
知を増やす事で「豊」になっていくもの。
だからこうした歴史の背景を知ることは大事。
そして、つくづくヨーロッパの人たちは生活の楽しみ方、お洒落なストーリー作り、人間にとっての幸せのあり方を熟知しているように感じる。

そんなお洒落で楽しい生活の源泉であるヨーロッパから誕生した1つのものにたずさわるわけだから、幸せな「味」と「香り」が届けられるように考えていかなくてはいけない。


そう思いながら、今もガレット・デ・ロワの試作に没頭している。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?