【TOLOPANの真髄に迫るvol.42】ルセットの基準となる五味の「塩味」について
これから複数回にわたって、ルセットを組むまでの流れについて話したいと思う。
僕がルセットを組む上で重視しているのは、五味である。五味とは、「塩味」「甘味」「酸味」「苦味」「うま味」のことだ。
僕は常に五味の三角形を作るようにしている。
人は五味の五角形のうち、三角形を結ぶと美味いと感じるようにできているからだ。
デュヌラルテでの修行時代から、五味に関する反射基準を磨き、香りが何味からでているかに神経を尖らせてきた。
5段階評価にして自分で食して、何が足りていて何が足りていないのかを指標にする。
微生物の動き方や酵素の力といったパン作りの基本的な効果を熟知していること、そして食材の特徴を完璧に把握していること。それを揃えてやっと指標が使える状態になる。指標が使えない状態では、発酵と熟成による味と香りの変化の予想を立てるなど難易度の高いルセットを組む前には到底できっこない。
惣菜系や菓子フィリングを作る時には、緯度で食材を併せエッセンスを違うルートから運ぶ。その時も単純に緯度が同じだからというよりはそれぞれの重量による五角のバランスが重要なポイントになる。
今回は、五味の中でも「塩味」にフォーカスを当てて話したい。
まず「塩味」とは塩化ナトリウムによって引き起こされる味のこと。塩化ナトリウムが水に溶けてできるナトリウムイオンは、人間が生命維持のために必須であり、塩味は本能的に好ましい味とされ摂取欲求になると言われている。
塩には種類がたくさん存在する。だからこそ、塩を使う目的を明確にすることが重要である。それぞれの特徴に応じて使い分ける必要があるのだ。
もし、「塩味」として塩を使いたいなら食塩で充分だろう。食塩は塩化ナトリウム含有量が99%以上。対して、岩塩や海水塩は塩化ナトリウム含有量が80%前後でミネラルも豊富。そして後者は一般的に、食塩と比べるとはるかに高価になる。つまり、使用目的を「塩味」に限定するなら、食塩を使う方が経済的にもパンの味としても良いのだ。
じゃあ岩塩はどういう使用方法が効果的になるのか。例えば、小麦粉に自然な甘味のあるフォカッチャなんかがいいだろう。岩塩特有の甘みやうまみを活かし、上に振ることでフォカッチャの美味しさと小麦の甘味を押し上げる効果に繋がる。
そして「塩味」は酸味と苦味を抑制する効果がある。これは酸味と苦味の強いグレープフルーツに塩をかけるとよくわかる。
逆に「塩味」は酸味によって増強される。サワー種やヨーグルト種を使う時には塩の%を下げてバランスを取ることが大切になる。
また、「塩味」はうま味を増強する効果がある。これは生地を熟成させるアルコール発酵や乳酸発酵、焼成によるメイラード反応やキャラメル化によるものだ。
ここでいう、うま味の増強とはパンの「味」というよりは「風味」を指す。レトロネーザル(後鼻腔経路)からくる味の錯覚、フレーバーからくる味の風味と考えている。
パンを作る上では、五味の中で「塩味」がもっとも重要かもしれない。
五味で一番人間が早く感知するのが「塩味」と「酸味」。パン作りにおいて、塩は切っても切り離せない関係にあるからこそ、その塩梅には細心の注意を払わないといけない。
動作に移るまでの「考え」「準備」「計画」は、人生でも仕事でもパン作りでも面白さの増強と呼べるのではないかと思う。