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映画ブロガー兼YouTuberの2023年オレ的アカデミー大賞

映画レビューサイトを立ち上げ、YouTubeもやる程度には映画好きの私が、2023年に公開された映画の中から独自の判断でアカデミー大賞を選びます。

ノミネート作品はだいたい50本超。新作映画の数としては観てるほうの部類に入るけど、ガチな人たちからすると少なめ。

  • 超メジャーな作品は少なめ

  • 洋画多め

今年はあまり邦画を観ていないため入れていませんが、特に嫌いなわけでもないですし、むしろ好き。
また、レビューで考察することが多いのでエンタメに振り切っている作品はおのずと減っていますが、普通にエンタメ映画も好きです。

それではどうぞ。


作品賞「CLOSE / クロース」


✓ 監督:ルーカス・ドン
✓ 出演:エデン・ダンブリン、グスタフ・ドゥ・ワエル
✓ ジャンル:ドラマ

作品賞に輝いたのは、CLOSE / クロース。フランスの映画なのですが、これはマジでよかった。

第75回カンヌ国際映画祭(2022)でグランプリを受賞し、第95回アカデミー賞(2023)では国際長編映画賞にノミネートされた注目の作品。

思春期のちょっとした出来事をきっかけに親友と疎遠になってしまったレオ。そのことから取り返しのつかない大きな後悔につながってしまう辛めのヒューマンドラマです。

誰しも経験がありそうな青春時代の心の痛み。集団に属することで起こりうる心理状況を13歳のレオとレミを通じて描きます。

LGBTの要素が入っているのですが、異性と仲良くしているところをからかわれたり、クロース(近しい)な親友であるはずなのに他人を気にしてしまった結果の悲劇は、誰にも大なり小なり経験があるのではないでしょうか。

思春期に思い残したことがある人なら誰でもおすすめです。



主演男優賞「キアヌ・リーヴス」ジョン・ウィック コンセクエンス



✓ 監督:チャド・スタエルキ
✓ 出演:キアヌ・リーヴス
✓ ジャンル:アクション / クライム

ジョン・ウィック コンセクエンスはシリーズ第4弾にして完結編に位置付けられている作品。

映画自体いろいろすごかったのですが、齢60間近にしてアクションをこなしたキアヌ・リーヴスの功績を讃えて主演男優賞に取り上げることにしました。

主演以外も見どころは多く今作の舞台は日本。ハリウッドで活躍する唯一無二の日本人”真田広之”も登場し、期待値は最高潮ですが、伝えておきたいのは、舞台は日本ではなく「日本っぽいナニカ」であるということ。

相撲、弓、桜、刀、日本といえばコレみたいな素材を並べたて、おしゃれに調理しきったのがジョン・ウィック コンセクエンス。

「日本ぽいナニカ」は日本人が見ると違和感もありますが、芸術としては完成されています。

和の要素をニューヨーク的な現代アートに昇華させ、それらを贅沢に戦場に利用しているのは、単調になりがちなアクションへの良い刺激にもなっています。

射撃・剣・カーアクション、すべてのアクションのジャンルを詰め込みつつも、それらの完成度がすばらしく、それをこなしたキアヌ・リーヴスには賞賛を送りたいです。

一応完結していますが、スピンオフシリーズが公開を控えています。いつかPart5が公開されることを期待しています。


主演女優賞「ケイト・ブランシェット」TAR/ター


✓ 監督:トッド・フィールド
✓ 出演:ケイト・ブランシェット
✓ ジャンル:スリラー

ドイツのオーケストラ・ベルリンフィルで、女性として初めて首席指揮者に任命されたリディア・ターの栄光と凋落の物語。

異常なまでの演技力が魅力的なケイト・ブランシェットと緻密なまでに練られた脚本により、アカデミー賞作品賞、監督賞、主演女優賞など主要6部門にノミネートされた作品です。

作品も監督も優れているのですが、リディア・ターになりきり、その苦悩や異常性を演じきったケイト・ブランシェットを主演女優賞にしました。

トッド・フィールド監督は「人間同士が支配し、支配される関係」、「権力やその仕組み」そして権力という巨大なピラミッドが「SNS社会により破壊される様子」を描いています。

しかし、この映画は何の前情報も知らずに観ると、難解で冗長です。オーケストラの専門的な用語がとびかい、登場人物の関係性もわかりにくく、説明もありません。

150分を超える長編映画にも関わらず、前半の60分は特に変化がなく、主役のリディア・ターの栄光と人間性をひたすら描いています。

時間が経つにつれて、不協和音をかなではじめるのですが、何が起きているかの説明はないため、1つ1つのシーンを理解するのは難しいというか無理ゲーです。

しかし、この映画をただただ退屈な映画だと終わらせるにはもったいない。

先に書いたような権力社会を男女格差交えて描いたのにくわえて、エンディングシーンではさまざまな解釈ができるように含みを持たせています。

そしてもう1つ。この物語にはゾッとするようなホラー要素もあったりと、いろいろな角度で味わえる内容になっています。

私は事前情報を入れる前に映画を観るタイプですが、「TAR/ター」は、一度観ただけではその解釈や考察ができる場所に立つことさえ難しいので、、観る前にネタバレ知ってからでも良いぐらいです。


助演男優賞|ブレンダン・グリーソン「イニシェリン島の精霊」


✓ 監督:マーティン・マクドナー
✓ 出演:コリン・ファレル
✓ ジャンル:ドラマ

お次も一度観ただけでは絶対に理解できないストーリー「イニシェリン島の精霊」。

スリービルボードでアカデミー賞を受賞したマーティン・マクドナー監督の作品。

1922年、アイルランドの小さな島「イニシェリン島」(架空の島らしい)で長年の旧友に突如縁切り宣言された男が、いがみ合いへ発展し、最悪な事態へと向かっていく話。

人間の持つ薄気味悪さをとらえ、ブラックユーモアを交えて、どこかエモーショナルに描くマクドナー節の映画に、今回もどっぷりハマってしまいました。

ヒューマンドラマのようでいて、実はブラックコメディである「イニシェリン島の精霊」。

実はこの時代、アイルランド本土は内戦が始まっていました。映画は、それと密接にリンクしています。

急に絶縁したかと思えば、困っていれば手を貸すなどの一面もあり、先の読めない展開が続きます。

縁を切りたいだけで指を切り落とすなど、理解できないマッドネスな男を演じたブレンダン・グリーソンを助演男優賞にしました。

ラストまで見ても監督の真意を理解することは難しいので、こちらもネタバレを見るとよりおもしろいです。


助演女優賞|ステファニー・スー「エヴリシング・エヴリウェア・オール・アット・ワンス」


✓ 監督:ダンクワン、ダニエル・シャイナート
✓ 出演:ミシェル・ヨー、ステファニー・スー
✓ ジャンル:ドラマ

助演女優賞は、アカデミー賞で作品賞にも輝いたエヴリシング・エヴリウェア・オール・アット・ワンス。

一番最悪な選択をし続けた彼女がマルチバースにいるアナザーイヴリンの力を借りて、戦う力を身につけて戦うヒーロー映画。

と思いきや、中身は壮大な家族ゲンカです。A24得意のエモーショナルでアーティスティックな演出をマルチバースの世界観と共に描き切った最高傑作。

某アメコミのような展開を期待していると失笑する可能性も高いですが、丁寧に描写されたストーリーと完成度の高い音楽、見事な演出の数々は2度3度と味わいたくなる中毒性の高い映画。

特にラスボスとして出てくるジョブ・ツバキは普通の女子高生。バカバカしいファンタジー映画であるが、思春期の複雑な感情もよく現しています。

無茶苦茶だけど、ちゃんとしたドラマになっており、ストーリーも良い。そして音楽もすばらしい。

映画の新たな可能性を教えてくれる存在。


監督賞|デヴィッドフィンチャー「ザ・キラー」


✓ 監督:デヴィッド・フィンチャー
✓ 出演:マイケル・ファスベンダー
✓ ジャンル:スリラー


監督賞に選んだのはデヴィッド・フィンチャー監督「ザ・キラー」

「セブン」「ファイトクラブ」「ゴーンガール」などを手がけた名監督です。

暗殺者が暗殺を失敗したことで、追われる身になり、逃亡劇を繰り広げるストーリー。内容はとてもシンプルですが、デヴィッド・フィンチャーらしい独特な撮影方法が特徴的。

見応えのある暴力シーンも、単なるアクションやグロいといった演出に頼らず「ファイトクラブ」で鍛えたような泥臭さのある戦闘が男心をくすぐります。

また、カットを多用しており、音や映像にもコマ単位でこだわりを感じ、ずっと映像をながしていたくなるような中毒性があります。

シナリオ的なおもしろさや盛り上がりどころはありません。ただただ、暗殺者が逃げ回り、殺し回るだけです。

ミスを内省しながら殺人を遂行していく様は、ブラックユーモアのようなおもしろさもあります。

ゴルゴ13の殺しの部分だけをフィーチャーしたかのような作品は、人殺しを芸術にまで昇華しちゃっています。

音/画/所作に至るまで、監督のこだわりが詰まりすぎていた映画でした。

脚本賞|悪い子バビー


✓ 監督:ロルフ・デ・ヒーア
✓ 出演:ニコラス・ホープ
✓ ジャンル:ドラマ

「悪い子バビー」は30年前の映画なのですが、2023年に日本で公開されたので取り上げます。

30代半ばまで家から出たことがない人間の善悪はどうなるのか?を描いた話。

家から出たことがないだけでなく、シングルマザーの母親と2人暮らしで、ろくな勉強もしておらず、会話は単語かオウム返しを繰り返すだけ。

夜は母親とセックスの相手をするなど、不合理で非条理な世界に閉じ込められたバビー。

死の意味もろくに理解していない男が、とあるきっかけで外に出ることに。車も初めて、両親以外の他人も初めて、道端に植えてある木ですらも初めてのバビーが一体どうなっていくのか?と言う話。

話の冒頭の雰囲気からはグロくおぞましい話が続く胸クソ映画かと思いきや、想像の斜め上の展開に進んでいき、おもいのほか深い話でした。

バビー演じるニコラス・ホープの愛くるしさがたまらなく、ただの30を超えたオッサンとは思えません。

劇中でも意外にバビーはモテるのですが、確かに母性本能をくすぐる可愛らしさがあります。

それも、ろくに教育を受けずに精神年齢が幼稚園児程度のまま育った結果、誰かに守ってもらうという生存本能を捨てずに成長したからでしょう。

胸クソな雰囲気で敬遠しているなら観て欲しい。それだけではないナニカを得られます。


脚色賞|逆転のトライアングル

✓ 監督:リューベン・オストルンド
✓ 出演:ハリス・ディキンソン
✓ ジャンル:ブラックコメディ

脚色賞は、「逆転のトライアングル」。

豪華客船に乗った富豪たちやインフルエンサー。そこでは、従事する船のクルーである白人、最下層で掃除し、富裕層とは会うこともない非白人たちのヒエラルキーが成立しています。

ある夜、船が難破し、無人島に流れ着いたことで変わることのないヒエラルキーが逆転するという話。

中盤のゲロシーンは圧巻だったので、脚色賞にしました。また、ヒエラルキー構造も富豪たちが生意気で見下したり、高圧的な態度をとることもなく、ステレオタイプのような演出はありません。

富豪たちは優しいのです。人生に余裕があるため他人にも優しく振る舞えるのです。しかし、それが相手にとって喜ぶことであるとは限りません。

それは時に迷惑でしかなく、面倒な要望のせいでヒエラルキーの下にいる人たちは振り回されます。

だから立場が逆転したとて、スカッとするような気持ちよさは少なめ。でもだからこそチープな印象はなく、映画としての完成度は高いです。

撮影賞|ソフト/クワイエット

✓ 監督:リューベン・オストルンド
✓ 出演:ハリス・ディキンソン
✓ ジャンル:ブラックコメディ


あまり目立っていないですが、90分ノンストップ長回ししたとされる映画。擬似ノンストップなのかもしれませんが、繋ぎ目は全くわかりません。

演じる人たちも大変だけど、撮影クルーはも苦しい長回し。何十回、何百回繰り返せばできるのか?

レイシズム(差別主義)を持つ白人女性たちの集団が、憎きアジア人と出会い衝突。嫌がらせ目的で行った行為がヒートアップし、最悪な事態にまで発展していく話。

人間の集団心理の怖さをノンストップで撮影することで、自分自身がその中にいるような錯覚に陥り、身の毛もよだつ恐怖を体感できます。

「陰に光を当てるとより濃い陰が生まれる」というように、世の流れはダイバーシティに光があたり、それを受け入れられない思想は悪とされている。

この光は私たちには正常にも見えますが、陰に潜む者たちのドス黒い感情は行き場を失いあふれ始めているのかもしれません。怖い。

何が怖いってこの人たち、いわゆる社会不適合者ではなく、社会に浸透して普通に生活している人たちなのです。


終わりに

やはり今年は邦画をほとんど見ていないのが心残り。

来年は「聖なる鹿殺し」のヨルゴス・ランティモス監督による「哀れなるものたち」やアリ・アスター監督の「ボーはおそれている」なんて楽しそうなものが年始早々に上映されます。

来年のランキングに何が入ってくるのか今から楽しみです。



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