ポートランドを散策してみた
朝起きて近くの森林公園に向かう。
朝露の匂いが香る森。自然と呼吸が深くなる。
街と森との距離の近さに驚く。
まるで高尾山のふもとに渋谷があるようなイメージだ。
朝からトレイルランをしている人たちがいる。しかもペットと一緒に走る人も多い。みんな気さくに挨拶をかわす。
散策のつもりが思わず自分もつられてトレイルランを始めてしまう。山をくだってホテルまで走り終えると地元の人が通いそうなカフェに入った。
自然の中での運動を終えて、街の中で食べるモーニングは健康的だ。
そして街の散策を始めた。
町の中心部を走るウィラメット川には個性豊かないくつかの橋が掛かっている。「ポートランド人はそれぞれにお気に入りの橋がある」というくらいシンボリックなものらしい。
歩いているとやたらと桜を見かけるなと思ったら、かつて日本からポートランド市へ親善と友好のしるしとして、100本の白普賢桜が贈られたらしい。
アメリカ的な街並みに日本の風情を感じながら歩く。そしてカフェに入り、1冊の本を取り出した。
昨夜訪れた「パウエルズブックス」で買ったランキング2位の本。ポートランドの地元の人が書いた、地元に住む人のための街のガイド本。
よくよく表紙を見たら「地元のおすすめデートスポット」を紹介する本だった。1人で旅する日本人男性は読まない方がいい類の本だ。そこにこんな一文を見つけた。
Good things come in small packages.
(良いものは小さな小包で届く)
有名な格言らしい。コンパクトに独自路線を生きることを選んだ街らしい素敵な言葉だと思った。
この言葉に惹かれて、NorthEastを目指した。そこはポートランドらしい街並みと評される「ミシシッピ通り」。
平日だというのに、どことなく牧歌的な空気が漂う。そして歩いているとカラフルで個性豊かな家の多さに気づく。
「みんなちがって、みんないい」
そんな金子みすずさんの詩を思い出す。
そもそも、あまり人目を気にしない街らしい。実際、海外旅行1人旅特有の「現地の人から奇妙な目で見られる」ということがない。むしろ笑顔でアイコンタクトしてくれる。
お店の壁などに描かれたストリートアートも多い。落書きと紙一重ではあるが、アートとして成立させるような画力を感じた。
手前の白いテントが口髭に見えるのは偶然か、狙いか。
地元のスーパーマーケットの野菜の陳列さえ、見せ方にこだわりを感じた。
野菜の生産者さんが「歴代の校長」ばりに輝かしく飾られてある。本人は嬉しいだろうなぁ。
そして通りがかりの「ガストロマニア」というお店でサーモンサラダを食べる。地元の食材を使った料理を食べる喜び。地産地消の意識も高いらしい。
元々はポートランドの街も、海外や他州から安い食材を大量に仕入れて採算をとるスタイルだったが、より安心で美味しいものを食べたいという食意識の高さから、『農地からテーブルへ (Farm to Table) 』という新しい食文化が広がったようだ。
農家とレストランの強固な信頼関係を取り戻して、目の前の食事があると思うと味わいも深くなる。
ひたすら歩き回ってホテルに帰りつく。
僕自身、仕事で「サステナブル」をテーマに扱うことが多くなっていたので、改めてサステナブルで注目を集めるこの街を自分の目で確かめてみたかった。
改めて散策してみて印象に残ったことは、人と都市と自然とアートの距離感だった。すべてが密接にありながらも適度な距離感がある。
それが住みやすさにつながっているのかもしれない。東京ももう少し自然とアートが街に溢れてたら心にゆとりが生まれそうだなと思った。もちろんこれはオレゴン州という雄大な広さがなせる技かもしれないが、意識的にそれを守ろうとしてきた人たちの気配も感じられた。
もちろんポートランドも綺麗な話ばかりではない。
途中何度かUBER(個人タクシー)を使ってドライバーさんお店の人たちと話してみて分かったが、ポートランドは今、ドラッグの問題とホームレスの問題が大きな悩みの種としてあるらしい。
実際、20代〜30代くらいの男女のホームレスをたくさん見た。その多くがドラッグ中毒らしい。
そこでオレゴン州は2020年の住民投票で、ユニークな薬物対策法を成立させた。少量の違法薬物の所持を非犯罪化し、大麻関連税による数億ドルの税収を薬物中毒治療事業に回すこととなった。
ドラッグで入る税金を使ってドラッグ中毒の治療をする。
正直、これが賢いのかどうか判断しづらいところもあるが、早く解決されることを願いたい。
本来なら丸2日間をかけて、たっぷりポートランドを巡る予定だったが、ちょっとした事情により(前々回note参照)、もう明日には次の目的地、サンフランシスコに向かうことになる。
学生時代からずっと憧れていたアムトラックという寝台列車の旅がはじまる。
(下記につづく)