
はじめてのアカデミー賞入門
昨日、アカデミー賞の授賞式がL.A.のドルビー・シアターで行われた。
映像関係の仕事仲間2人がそれぞれ関わった作品「Instruments of a Beating Heart」「Black Box Diaries」が、それぞれ「短編ドキュメンタリー部門」「長編ドキュメンタリー部門」にノミネートされていた。
友人たちがSNSでアカデミー賞授賞式に参加してレポしている姿をみて、興奮がとまらなかった。僕はNHK BSを観ながら、その様子を観ていた。
遠い夢物語のように思えていたアカデミー賞が、急に身近に感じられた。だが、よく考えたら、あまりアカデミー賞について詳しく知らない。
せっかくなので、ちょっと調べてみたくなった。自分と同じように、ぶっちゃけアカデミー賞のことをあまりよく分かっていない人のための入門記事的にまとめてみてみよう。
1.アカデミー賞とオスカーの違い
アカデミー賞。
主催団体は「映画芸術科学アカデミー」。俳優や監督、映画関係者などで構成される10,910人の会員(2025年時点)が無記名で投票を行うことによって、ノミネートから最終的な受賞者までを選出している。
ちなみにアカデミー賞受賞者は、副賞として人型の彫像オスカーが贈られる。そのことから「オスカー」「オスカー賞」とも呼ばれている。つまりアカデミー賞=オスカーである。

由来を調べてみたら、女優のベティ・デイヴィスが1936年に、『青春の抗議』で初の主演女優賞を受賞した際、客席にいた夫のハモン・オスカー・ネルソンに向かって、「オスカー、やったわよ!」と叫んだことから広まったという説もあれば、アカデミー賞事務局のマーガレット・ヘリック氏が像を見て「自分のおじさんのオスカーにそっくりだ」と言ったことが始まりだとするオスカーおじさん説など諸説ある。
2.どうすればノミネートされるのか?
またノミネートの条件は次のとおりだ。
アカデミー賞は、原則として前年の1年間にノミネート条件(ロサンゼルス郡内の映画館で連続7日以上の期間で最低1日に3回以上上映されていて、有料で公開された40分以上の長さの作品で、劇場公開以前にテレビ放送、ネット配信、ビデオ発売などで公開されている作品を除く、など)を満たした映画作品について扱われる。
1日2回上映じゃだめなのだ、なかなか厳しい。
ちなみに各部門の最終ノミネート作品を決定する前に、候補として絞り込まれた作品リストのことを「ショートリスト」と呼ぶらしい。最終選考に進む可能性がある作品の中間発表のようなものだ。ここで10〜15作品に絞られる。
このショートリストはすべての部門にあるのではなく「国際長編映画賞」や「ドキュメンタリー長編・短編賞」など一部の部門で採用されている。
L.A.で上映されていなくても、有名な映画祭で受賞した作品などは、このショートリストに選ばれることがあるようで、そもそもアカデミー賞「ショートリスト」に選ばれること自体が快挙なのだ。
3.よく分からない受賞部門あるある
受賞部門も多岐にわたる。
作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、美術賞、撮影賞、脚色賞、音響賞、短編アニメ賞、歌曲賞、作曲賞、編集賞、助演男優賞、助演女優賞、視覚効果賞、脚本賞、国際長編映画賞、衣裳デザイン賞、短編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、短編ドキュメンタリー賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、長編アニメ賞の合計23部門。(時代によって内容や名前が変わる)
主要5部門と言われるのが作品賞・監督賞・主演男優賞・主演女優賞・脚本賞 or 脚色賞。主要5部門総ナメは「或る夜の出来事」(1934)「カッコーの巣の上で」(1975)「羊たちの沈黙」(1991)のわずか3作品らしい。(僕の調べた限りでは・・・)
でもよく分からない賞もある。たとえば、そもそも「脚本賞」と「脚色賞」何が違うんだっけ?
どちらも映画の脚本を評価する賞だが、オリジナル作品であれば「脚本賞」で、小説・戯曲・漫画などの原作やリメイク作品の場合は「脚色賞」の対象となる。
ちなみに監督賞と脚本賞を受賞すると、かなりの確率で作品賞に選ばれやすいらしい。でもここでふと疑問が起こる。
「監督賞」と「作品賞」ほぼ同義なのでは?
「監督賞」は映画監督に贈られる賞、「作品賞」は監督だけでなく、その作品のプロデューサー(企画・資金繰り・キャスティング・スタッフィング・プロモーション等を担当)を表彰するものでもあるようだ。なかなかスポットライトの当たらないプロデューサーにとって最高の栄誉だろう。
授賞式を観ていたら、その発表順は結構バラバラなのが印象的だった。
トップバッターで助演男優賞を発表したあと、しばらく他の発表が続いて、中間くらいで助演女優賞を発表していた。会場の盛り上がりを考慮した順番のような気がした。
4.日本人のアカデミー賞受賞者は何人?
そもそもアカデミー賞は、アメリカ映画の発展を目指すアメリカの映画賞なので、日本人が受賞すること自体がいかに難しいかを感じてしまう。
過去に日本人としてアカデミー賞を受賞した人々を振り返ってみよう。
1952年に黒澤明が『羅生門』で名誉賞(現在の『国際長編映画賞』)を日本人として初めて受賞して以来、衣笠貞之助(名誉賞)、和田三造(衣装デザイン賞)、稲垣浩(名誉賞)、ナンシー梅木(助演女優賞)、ワダ・エミ(衣装デザイン賞)、坂本龍一(作曲賞)、石岡瑛子(衣装デザイン賞)、伊比恵子(短編ドキュメンタリー賞)、宮崎駿(長編アニメーション映画賞)、加藤久仁生(短編アニメーション映画賞)、滝田洋二郎(外国語映画賞=国際長編映画賞)、カズ・ヒロ(メイクアップ&ヘアスタイリング賞)、濱口竜介(国際長編映画賞)、山崎貴、渋谷紀世子、高橋正紀、野島達司(ゴジラ-1.0)
(視覚効果賞)
日本の長い歴史において、わずかアカデミー賞受賞者18人。
いかに難しく、そして栄誉なことであるかがわかる。そして衣装デザインやヘアメイク受賞者の多さが、日本のファッションや美的レベルの高さを思い知らされるし、唯一の作曲賞、坂本龍一が凛然と輝いて見える。てか、ナンシー梅木って誰??すごくないか。
5.2025年の結果はどうだったのか
残念ながらノミネートされた友人たちの日本作品は受賞しなかった。
それでもノミネートされて、アカデミー賞のレッドカーペットを歩いたであろうその事実に、同じ仕事仲間としてとても誇らしく、勇気をもらえた。
ノミネートされた作品の1つ、「Instruments of a Beating Heart」の山崎エマ監督とは先日、劇場でご挨拶させていただいたばかりだ。

アカデミー賞ノミネートは、とてつもない偉業ではあるが、そんなに遠くない、諦めちゃいけないとも思った。
ちなみに全受賞作品一覧はこちら。
アフリカ系アメリカ人として衣装デザイン賞を初受賞したポール・タゼウェルの、あの積年の苦労が晴れていくような、言葉に尽くせないほどの喜びに満ちた表情が、今も僕の脳裏に焼きついている。
その一方で、華やかで煌びやかな光の影で涙を流す人たちは数知れない。
それでもなお、誰かの心に届くと信じて、日夜、カメラレンズの表側と裏側で奮闘する人々の努力を心から讃えたい。
今夜、アカデミー賞受賞作の1つ、『リアル・ペイン〜心の旅〜』を観に行こうと思う。
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