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【創立70周年記念企画】エッセイ「わたしと東京創元社」その2:辻真先、エドワード・ケアリー


東京創元社では創立70周年を記念し、文芸誌『紙魚の手帖』にて豪華執筆陣による特別エッセイ「わたしと東京創元社」を掲載しています。

第2回は、『紙魚の手帖』vol.15(2024年2月号)に掲載されたエッセイ(後半)をご紹介いたします。



辻真先 Masaki Tsuji

 東京創元社と聞けば海外ミステリ専門の出版社とばかり思っていた。だからその版元がガンガン国内ミステリを上梓するようになったから驚いた(その作家の中にぼくがまじっていることにも驚いたが)。違った漁場の魚の味を一口、という程度ではない。新人作家発見のため本格的な文学賞――鮎川哲也賞を創設したことで、東京創元社の覚悟のほどが知れる。いまや権威ある有力新人発掘の場として、日本ミステリ界を牽引している。しばらくの間ぼくも選考委員の末席に連なったが、寄せられる応募原稿をまのあたりにして、これはうかうかしていられないと、つんのめるような気分でキーにむかったものだ。現在の自分が鮎川賞に投稿したら、果たして予選を通過できるだろうか。忸怩たる思いに背中を押されて、なんとか書き続けることができた、ありがとう。いわば形なき恩師である東京創元社が、このたび七〇周年を迎えるという。おめでとうございます、拍手!

1932年愛知県生まれ。名古屋大学卒。NHK勤務後、『鉄腕アトム』『サザエさん』『サイボーグ009』『デビルマン』『Dr.スランプ アラレちゃん』など、アニメや特撮の脚本家として幅広く活躍。72年『仮題・中学殺人事件』でミステリ作家としてデビュー。現在でもTVアニメ『名探偵コナン』の脚本を手掛けるほか、大学教授として後進の指導にあたっている。82年『アリスの国の殺人』が第35回日本推理作家協会賞を、2009年に牧薩次名義で刊行した『完全恋愛』が第9回本格ミステリ大賞を受賞。19年に第23回日本ミステリー文学大賞を受賞。20年刊行の『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』は、年末ミステリランキング3冠を達成する。


エドワード・ケアリー Edward Carey

 東京創元社の本については称えたいことがたくさんあります。なによりもまず、東京創元社の本が私は大好きです。質の高い本ばかりで、印刷文字は美しく、レイアウトもみごとで、日本から遠く離れたテキサスの自宅に本が届くたびに、しばらくそれを手にとって静かに座り、それから一ページ一ページ丁寧にめくっていきます。この出版社は私にはとても大切な存在で、ご縁ができてから親しい友のように感じています。敬愛する翻訳者・古屋美登里と共に何年にもわたって東京創元社と仕事ができたことを大変光栄に思っています。これは、作家人生のなかでももっとも重要な繫がりのひとつです。作家として頑張っていられるのは、日本の翻訳者と出版社との強い結びつきがあるからとも言えます。しかし、それよりなにより、私がこうして書き続けていられるのは読者のみなさんのおかげです。読者のみなさんがいなければ、みなさんが興味を抱いて応援してくださらなければ、私たちの声はどこにも届かず、何かを伝えることもできなかったでしょう。心から感謝しています。 (古屋美登里 訳)

■エドワード・ケアリー
1970年にイングランド東部のノーフォーク州で生まれる。これまでに『望楼館追想』(2000)、『アルヴァとイルヴァ』(2003)、〈アイアマンガー三部作〉(2013, 2014, 2015)、『おちび』(2018)、『呑み込まれた男』(2020)、『飢渇の人』(2021)、スケッチ集『B:鉛筆と私の500日』(2021)を発表。イラストレーター、彫塑家としても国際的に活躍。現在はアメリカ合衆国テキサス州で妻と子供ふたりと暮らしている。妻はアメリカの作家エリザベス・マクラッケン。
http://edwardcareyauthor.com

■古屋美登里(ふるや・みどり)
翻訳家。訳書にエドワード・ケアリー『望楼館追想』(創元文芸文庫)、『アルヴァとイルヴァ』(文藝春秋)、〈アイアマンガー三部作〉『おちび』『飢渇の人』『呑み込まれた男』(以上、東京創元社)、M・L・ステッドマン『海を照らす光』(ハヤカワepi文庫)、B・J・ホラーズ編『モンスターズ 現代アメリカ傑作短篇集』(白水社)、デイヴィッド・マイケリス『スヌーピーの父 チャールズ・シュルツ伝』、カレン・チャン『わたしの香港 消滅の瀬戸際で』(以上、亜紀書房)ほか。著書に『雑な読書』『楽な読書』(以上、シンコーミュージック)。


本記事は『紙魚の手帖』vol.15(2024年2月号)に掲載された記事「わたしと東京創元社」の一部を転載したものです。