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2024年4月から2024年9月の東京創元社・翻訳ミステリ振り返り~担当編集者のコメントつき~
創立70周年の今年、東京創元社では数々の翻訳ミステリの名作・傑作・話題作を刊行しています。今回は、2024年4月から9月までのあいだに刊行された作品を、担当編集者のコメントつきでご紹介します。
気になった作品があれば、ぜひお買い求めください。
2024年4月刊
『嵐にも負けず』ジャナ・デリオン/島村浩子訳(創元推理文庫)
新町長シーリア就任のせいで、シンフルの町はいまだ落ち着かない。長年、行方不明だったシーリアの怪しい夫も現れ、不穏さは増すばかり。そんななかハリケーンが襲来。なんとかやり過ごしたのもつかの間、嵐はとんでもない置き土産を残していった。今度は偽札に殺人?! 型破りすぎな老婦人ふたりの助けを借りてフォーチュンは町と自分の窮地を救えるか? 好評シリーズ第七弾。
【担当編集者コメント】
どんなに落ち込んでいても読めばすっきり爽快、元気が出る〈ワニ町〉シリーズ。どういうわけか異常に事件が多い町シンフル。新町長シーリア就任で落ち着かない町で、殺人事件と偽札騒動が発生。主人公フォーチュンと町を陰で仕切るシンフル・レディース・ソサエティのおばあちゃんズの、毎巻お馴染みのハチャメチャな捜査に加えて、今回は巨大ハリケーンが襲来。さすがのフォーチュンにも最大の危機? ラストで悲鳴を上げた人も多いはずの、シリーズ第7弾!
『金庫破りとスパイの鍵』アシュリー・ウィーヴァー/辻早苗訳(創元推理文庫)
第二次大戦下のロンドンで、鍵のかかったカメオ付きのブレスレットをつけた女性の遺体が発見された。金庫破りのエリーはラムゼイ少佐の依頼で、その鍵を解錠する。カメオの中身と女性が毒殺されていた点から、彼女はスパイ活動にかかわっていたと判明。エリーは少佐に協力して、殺人犯とスパイを捜し出すことに……。凄腕の金庫破りと堅物の青年少佐の活躍を描くシリーズ第2弾!
【担当編集者コメント】
凄腕の女性金庫破りと堅物の青年将校、正反対のコンビが活躍するシリーズ2作目です。金庫破り度もミステリ度もハラハラ度もときめき度もパワーアップ! 盛りだくさんな作品です。3巻目も刊行準備中なのでもうちょっとだけお待ちください!
『プレイバック【新訳版】』レイモンド・チャンドラー/田口俊樹訳(創元推理文庫)
私立探偵マーロウは、ある弁護士からひとりの女を尾行し宿泊先を報告せよと依頼される。目的は知らされぬままに女を尾けるが、彼女は男につきまとわれ、脅されているらしい。ホテルに着いても、状況は変わらない。マーロウは依頼主の思惑とは無関係に、女の秘密をさぐり始める。『長い別れ』に続く、死の前年刊行の名作。伝説的名台詞が胸を打つ新訳決定版!
【担当編集者コメント】
愛妻シシーの死後、酒浸りとなり自殺未遂事件まで起こし、急速に衰えたチヤンドラーが最後の力をふりしぼって書き上げた最後の長編です。「こんなにタフな男性がどうしてこんなにやさしくもなれるの?」「タフじゃなければここまで生きてはこられなかった。そもそもやさしくなれないようじゃ、私など息をしている値打ちもないよ」この伝説的台詞が身に沁みます。『長い別れ』を読まれた方は是非本作の静けさと暗さも味わってください。
2024年5月刊
『ワインレッドの追跡者 ロンドン謎解き結婚相談所』アリスン・モントクレア/山田久美子訳(創元推理文庫)
戦後ロンドン。結婚相談所を営むアイリスは通勤中、ワインレッドのコートを着た女に尾行されていると気づく。戦時中に所属していた情報部関係? しかも帰宅すると、同じく情報部員で元恋人のアンドルーが部屋に来ており、しばらくここに潜伏するという。アイリスは共同経営者のグウェンの家に泊めてもらうが、2日後、自分の部屋から女性の死体が発見され……。人気シリーズ第4弾!
【担当編集者コメント】
おなじみ人気シリーズの新作、たくさんの方に喜んでもらえて嬉しかったです。今回はアイリスの前に迷惑な元彼が現れ、さまざまなピンチに陥ることに……。シリーズを重ねるごとに、アイリスとグウェンの絆が深まっていくのがとても素敵だと思います。第二次世界大戦後のロンドンについて知ることができるのも魅力です。
『ガラスの顔』フランシス・ハーディング/児玉敦子訳(創元推理文庫)
地下都市カヴェルナの人々は自分の表情をもたず《面》と呼ばれる作られた表情を教わる。その街に住むチーズ造りの親方に拾われた幼子ネヴァフェルは、一瞬たりともじっとしていられない好奇心のかたまりのような少女に育った。ある日親方のもとを抜けだした彼女は、都市全体を揺るがす陰謀の中に放り込まれ……。『嘘の木』の著者が健気な少女の冒険を描く、カーネギー賞候補作。
【担当編集者コメント】
《蜜のガラス越しにゆっくり訪れる夜明け》《家の暖炉の穏やかな火》《希望の魂に宿るしずく》……これは地下都市カヴェルナの人々がまとう《面》と呼ばれる表情の名前です。生まれつき表情を持たないカヴェルナの人々は《面細工師》たちが作る、こうした《面》を買ってそのときの気分や流行にあわせて着けるのです。だれも心の内を表に出さない、偽りの表情、偽りの世界、そんななかでひとりだけ表情を持つ少女ネヴァフェルの存在が一服の清涼剤のように心を駆けぬけます!
『女彫刻家【新装版】』ミネット・ウォルターズ/成川裕子訳(創元推理文庫)
オリーヴ・マーティン――母親と妹を切り刻み、それをまた人間の形に並べて、台所に血まみれの抽象画を描いた女。無期懲役囚である彼女には、当初から謎がつきまとった。凶悪な犯行にも拘らず、精神鑑定の結果は正常。しかも罪を認めて一切の弁護を拒んでいる。かすかな違和感は、歳月をへて疑惑の花を咲かせた……本当に彼女の仕業なのか? MWA最優秀長編賞に輝く戦慄の物語。
【担当編集者コメント】
ミステリ研究会に所属していた大学生のときに読んで、ものすっっっごく衝撃を受けた一作。それから、刊行されているウォルターズ作品をぜんぶ読みました。編集者になって、自分で新作(『破壊者』『遮断地区』など)を担当できるとは、当時はまったく予想もしていなかったです。そんな大好きな著者の傑作を新装版としてお届けできて、感無量です!
2024年6月刊
『鼓動 P分署捜査班』マウリツィオ・デ・ジョバンニ/直良和美訳(創元推理文庫)
四月初めの朝。ロマーノ刑事がP分署近くのゴミ集積所で見つけたのは生後間もない赤ん坊だった。赤ん坊は急いで病院へ運ばれ、捜査班の面々は親探しに奔走するが、ある情報が事態を思わぬ方向へ導いていく。いっぽう、アラゴーナ刑事は初対面の少年に懇願され仔犬を探す羽目に。実は管内で犬猫の失踪事件が多発していて――小さな命のため奮闘する刑事たちを描く、人気警察小説!
【担当編集者コメント】
いずれも個性豊かな7人の警官からなる〈P分署捜査班〉のチームのうち、今回スポットが当たるのは暴力が原因で妻と別居中のロマーノ刑事と、自意識過剰なボンボンだがどこか憎めないアラゴーナ刑事。ロマーノはゴミ捨て場で拾った女の赤ちゃんとの顛末、アラゴーナは少年に頼まれた犬探しを通じて、刑事としての誇りを取り戻したり、成長を遂げたりしていきます。こういうエピソードが読めるのもシリーズものならではの美点。いい警察小説です。
『暁の報復』C・J・ボックス/野口百合子訳(創元推理文庫)
猟区管理官ジョー・ピケットの留守電に、知人のファーカスから伝言が残されていた。ダラス・ケイツと仲間が、ジョーを襲う密談をしているのを盗み聞いたという。ダラスは、家族ともども破滅させられたとしてジョーに強烈な恨みを抱いていた。ほどなく、銃殺されたファーカスの遺体が発見され捜査が始まったが、ピケット一家にも危機が……。サスペンスみなぎる人気シリーズ新作!
【担当編集者コメント】
おかげさまで〈猟区管理官ジョー・ピケット〉シリーズも、小社にお引っ越ししてから5冊めの刊行となりました。熱心に応援してくださるファンのみなさまに支えられております。ありがとうございます。2025年はなんと春と冬に2作を刊行! ジョーの●●はどうなるのか!? どうぞお楽しみに~!
『グッド・バッド・ガール』アリス・フィーニー/越智睦訳(創元推理文庫)
ロンドンのケアホームで暮らす80歳のエディスと、職員で18歳のペイシェンス。世代はちがえど友情を築いているふたりは、家族とのあいだに問題を抱えていた。そんなある日、エディスがホームから失踪。時を同じくして、施設の所長の奇妙な死体が発見され……。冒頭から企みが始まる、母と娘をめぐる傑作サスペンス!『彼と彼女の衝撃の瞬間』のどんでん返しの女王が見せる新境地。
【担当編集者コメント】
どんでん返しの女王と称されるアリス・フィーニーの新作は、既刊の『彼と彼女の衝撃の瞬間』『彼は彼女の顔が見えない』とは違った形の驚きを味わえます(でも驚きの度合いはまったく同じです)。古山裕樹さんが解説で指摘されているように、本書のポイントは「何が語られているか」に加えて「何が語られていないか」。秋の夜長の読書でぜひ驚いてください!
『悪魔のひじの家』ジョン・ディクスン・カー/白須清美訳(創元推理文庫)
偏屈者の前当主の死後落ち着きを見せていた緑樹館に、新たな遺言状という火種が投げ込まれた。相続人は孫のニコラスとされ、現当主ペニントンの立場は大きく揺らぐ。事態の収拾にニコラスが来訪した折も折、ペニントンは一夜にして二度の銃撃を受けて重態に陥る。犯人は密室状況からいかにして脱出したのか。三度の食事より奇怪な事件を好むフェル博士の眼光が射貫く真相とは?
【担当編集者コメント】
イングランド南東部、海峡にせり出した平地は「由来は何世紀もの歴史の霧の中に紛れてしまったが、〈悪魔のひじ〉と呼ばれていた」。そこに聳える〈緑樹館〉の当主を銃声が襲う――。不可能犯罪の巨匠カーの作品ならではの愉しみが味わえる逸品。1998年の単行本版の刊行からおよそ四半世紀を経て創元推理文庫に収まりました。読み逃していた方はぜひ!
2024年7月刊
『白薔薇殺人事件』クリスティン・ペリン/上條ひろみ訳(創元推理文庫)
ミステリ作家志望のアニーは、キャッスルノール村に住む大叔母を訪れた。資産家の大叔母は、16歳のとき占い師に告げられた、いつかおまえは殺されるという予言を信じつづけている。だが大叔母は屋敷の図書室で死んでおり、そばに白薔薇が落ちていた。予言が的中したときのために大叔母が約60年をかけた調査記録を手がかりに、アニーは犯人探しに挑む。犯人当てミステリの大傑作!
【担当編集者コメント】
16歳のときに「殺される」と予言された人物が約60年後、本当に殺されてしまいます。ミステリ作家の卵のアニーが、被害者本人が集めていた膨大な手がかりをもとに犯人を捜す……という、今年の翻訳ミステリの目玉作品です! 「紙魚の手帖」vol.17に冒頭部分を先行掲載できたほか、イラストレーターの松島由林さんに登場人物イラスト(相関図)も描いていただきました。素敵なイラストを見ながら、犯人を予想しつつ楽しく読んでいただければ嬉しいです。
『風に散る煙』上下 ピーター・トレメイン/田村美佐子訳(創元推理文庫)
海路カンタベリーに向かっていたフィデルマとエイダルフは、時化のためダヴェド王国に上陸を余儀なくされる。先を急ぎたいふたりだったが、フィデルマの評判を聞きつけた国王から、小さな修道院の修道士がすべて消え失せるという不可解な出来事の謎を解いてほしいとの要請を受ける。捜査を引き受けたフィデルマは……。王の妹にして弁護士、美貌の修道女が活躍するシリーズ第十弾。
【担当編集者コメント】
王の妹で、弁護士の資格をもつ美貌の修道女という、スーパーな設定の主人公フィデルマが活躍するシリーズ。今回は故郷のアイルランドを飛び出してウェールズで事件の捜査をします。さすがに外国では不自由なことが多く苛立つフィデルマ。おまけにサクソン人を毛嫌いするウェールズでは、相棒でよきワトスン役のエイダルフは針のむしろ。主人公たちがストレスを抱える分、ラストでいつものようにフィデルマが関係者を集めて謎解きをするシーンはすっきりします。
『壁から死体? 〈秘密の階段建築社〉の事件簿』ジジ・パンディアン/鈴木美朋訳(創元推理文庫)
合言葉を唱えると現れる読書室や、秘密の花園へのドアが隠された柱時計。そんな仕掛けに特化した工務店〈秘密の階段建築社〉が、テンペスト・ラージの実家の家業だ。イリュージョニストとして活躍していた彼女だったが、ある事故をきっかけに家業を手伝うことに。その初日、仕事先の古い屋敷の壁を崩したら、なんと死体が見つかって……。楽しい不思議が満載のシリーズ第1弾!
【担当編集者コメント】
こんな仕掛けが自分の家にあったら――小さなころに抱いたそんな夢を叶えてくれるのが〈秘密の階段建築社〉。元イリュージョニストと、フェル博士を神と崇めるその本格ミステリマニアの友人が不可能犯罪に挑むという、何とも楽しい作品です! 二作目は来年の春頃に刊行予定。ちなみに担当編集者は狭いところで寝るのが好きなので、家にカプセルホテルにあるカプセルベッドを設置するのが年来の夢です(←仕掛けと関係ない)。
2024年8月刊
『チムニーズ館の秘密【新訳版】』アガサ・クリスティ/山田順子訳(創元推理文庫)
ある小国の元首相の手記を南アフリカからロンドンの出版社に届けてほしいと旧友から頼まれたケイド。実は頼み事はもうひとつあった。イギリスでも有数の大邸宅チムニーズ館に滞在中の婦人に、あるものを届けてほしいというのだ。折しもチムニーズ館では政府の高官や経済界の大物が集まるなか殺人事件が発生、ケイドも巻き込まれるが……。ミステリの女王の冒険活劇、新訳で復活。(初刊時タイトル『チムニーズ荘の秘密』を新訳・改題)
【担当編集者コメント】
クリスティといえば、ポワロやミス・マープルが有名ですが、冒険活劇も面白いのです。本書はバルカン半島の架空の王国ヘルツォスロヴァキアの要人が書いたという回顧録をめぐる騒動と、イギリスの上流階級の婦人への恐喝に使われた手紙をめぐる騒動が、イギリス有数の大邸宅チムニーズ館を舞台に繰り広げられる、まさに血湧き肉躍る物語。謎と冒険もさることながら、主人公の青年ケイドをはじめとした登場人物も魅力的です。2025年には続編『七つのダイヤル』も刊行予定。
『極夜の灰』サイモン・モックラー/冨田ひろみ訳(創元推理文庫)
1967年末。ある火災の調査のため、精神科医のジャックは、顔と両手に重度の火傷を負い、記憶を失ったコナーという男と向かいあっていた。北極圏にある極秘基地の発電室で出火し、隊員2名が死亡。彼は唯一の生存者だという。火災現場の遺体は、一方は人間の形を残していたが、もう一方は灰と骨と歯の塊だった。なぜ遺体の状態に差が出たのか? 謎と陰謀が渦巻くミステリ長編!
【担当編集者コメント】
冷戦下。北極圏の米軍極秘基地で起きた、2名が死亡した不可解な火災事件。調査を依頼された主人公のジャックがさまざまな関係者の話を聞いていくうちに、信じがたい事件の全貌が少しずつあきらかになっていきます。しかし、真相がわかっても「その先」にまた驚かれるのではと思います。アクション描写も見事で、謎解きファン以外に冒険小説好きの方にもオススメです!
『終着点』エヴァ・ドーラン/玉木亨訳(創元推理文庫)
ここはロンドンの集合住宅の一室。女性がひとり。死体がひとつ。見知らぬ男に襲われ、身を守ろうとして殺してしまったと女性は語る。死体は名も明かされぬまま、古びたエレベーターシャフトに隠された……謎に満ちた事件が冒頭で描かれたのち、過去へ遡る章と未来へ進む章が交互し、物語はその「始まり」と「終わり」に向けて疾走する! 英国ミステリ界の俊英が放つ衝撃的傑作。
【担当編集者コメント】
冒頭の章を起点として、過去へさかのぼる章と未来へ進む章が交互するという特殊な構造をもったミステリです。はじめに記されるのはロンドンの集合住宅の一室で起きた「事件」。死んだ男が誰で、どこからきて、なぜ死んだのか、読者には知らされません。以降、物語は過去と未来へ、徐々に振り幅の大きくなる振り子のように交互に語られます。死んだ男は誰なのか。そもそもこの「事件」は何なのか。めくるめく謎の果てに待つ真相をご堪能ください。
『ほんとうの名前は教えない』アシュリィ・エルストン/法村里絵訳(創元推理文庫)
生きるために、他人になりすまして“仕事”をしてきた“わたし”。今回はエヴィという女の経歴を使って、ある男の裏稼業を調査しつづけている。だが突然、驚愕の事態に。パーティで会った女性が、自分そっくりの外見で、自分の本名を名乗り、自分自身が経験した出来事を語ってきたのだ。“わたし”になりすましている彼女は何者なのか? 目的は? ベストセラー・サスペンス登場!
【担当編集者コメント】
本書は「誰かになりすます」という難しい犯罪をテーマにしているのですが、ディティールがしっかりしているのでとても説得力があって面白いです。主人公の“わたし”が何を隠しているのか、何が起こっているのか、わからないまま読み始めるとぐっと引き込まれ、一気読み間違いなし。力強いサスペンスです!
『雪山書店と嘘つきな死体 クリスティ書店の事件簿』アン・クレア/谷泰子訳(創元推理文庫)
美しい雪山の書店、ブック・シャレー。故郷に帰ってきたエリーは、姉と看板猫とともに、ミステリ好きの集うこの実家の書店を切り盛りしている。ある日、山腹と麓をつなぐゴンドラで男の刺殺体が発見された。彼が死の直前に書店に残したクリスティ『春にして君を離れ』の初版本を手がかりに、エリーは謎解きを始める……謎と雪が降り積もる書店から贈る、ミステリシリーズ開幕!
【担当編集者コメント】
舞台は雪山に佇む山小屋型の書店。ミステリ愛好家たちの読書会が定期的に催され、その中心にはふてぶてしい顔の看板猫アガサがいます。ミステリ愛好家たちは探偵小説、ハードボイルド、ノワールなどそれぞれの得意分野から主人公に謎解きのヒントを与えますが、ひょっとすると犯人もこのなかにいるのかも……? 和やかな心地で楽しめるミステリで、秋冬の読書にぴったりです!
2024年9月刊
『死はすぐそばに』アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭訳(創元推理文庫)
ロンドンはテムズ川沿いの高級住宅地で、金融業界のやり手がクロスボウの矢を喉に突き立てられて殺された。理想的な住環境を騒音やプール建設計画などで乱してきた新参者の被害者に、容疑者の住民たちは我慢を重ねてきていた。誰もが同じ動機を持つ難事件を前に、警察は探偵ホーソーンを招聘する――。あらゆる期待を超えつづける〈ホーソーン&ホロヴィッツ〉シリーズ第5弾!
【担当編集者コメント】
今年もホロヴィッツの作品をお届けできました! 今作の事件は、元刑事の探偵ダニエル・ホーソーンが語り手兼ワトスン役のアンソニー・ホロヴィッツに出会う前に起きた殺人(前作『ナイフをひねれば』でチラッと言及されていました)。最初にあらすじを読んだとき「語り手を変えずにどうやって過去の事件を描くのかしら? 唐突にタイムマシンが登場したらどうしよう……」などと思っていましたが、いざ読むと「この手があったか」と、著者の引き出しの多さに本当に感心しました。絶対の自信を持ってお勧めする、現代最高峰の犯人当てミステリです。
『Zの悲劇【新訳版】』エラリー・クイーン/中村有希訳(創元推理文庫)
『Yの悲劇』の事件から十年後。サム警視は市警を退職し、推理の才に恵まれた愛娘ペイシェンスと私立探偵を開業していた。ある日、調査で滞在中の刑務所のある町で、関係者の悪徳上院議員が殺害される。現場の書斎には数通の手紙と謎の黒い箱。それは、名探偵ドルリー・レーンの出馬を必要とするほどの難事件であった――レーン四部作第三弾の傑作本格ミステリ!
【担当編集者コメント】
『Xの悲劇』『Yの悲劇』に知名度では劣るが内容は決して負けていない本格ミステリの傑作だ……と、別のところでも力説しましたが、本心からそう思っていますので、ぜひこの新訳版で読んでいただきたい。語り手ペイシェンスのはつらつさ、解決編の異様なまでの緊迫感などがよりクリアになっています。
『豪華客船オリンピック号の殺人』エリカ・ルース・ノイバウアー/山田順子訳(創元推理文庫)
実は英国政府の情報員であるレドヴァースの依頼で、夫婦のふりをして豪華客船オリンピック号に乗りこんだジェーン。目的はドイツのスパイを捜しだすことだ。船が出航した日の夕方、ある乗客の女性が、新婚の夫が消えてしまったと騒ぎはじめた。船長はとりあおうとしなかったが、ジェーンは女性の主張を信じて調査を始める。好評アガサ賞最優秀デビュー長編賞受賞シリーズ第三弾。
【担当編集者コメント】
1巻『メナハウス・ホテルの殺人』でエジプトの豪華ホテル、2巻『ウェッジフィールド館の殺人』でイギリスのマナーハウスと主人公ジェーンが旅先での事件に巻きこまれ、または首をつっこむ、旅情豊かなコージーミステリ。3巻目ではイギリスを出発したジェーンは、なんと、かのタイタニック号の姉妹船オリンピック号に乗り込みます。英国の情報員を手伝ってドイツのスパイを捜すというメインの調査もさることながら、豪華客船の優雅な船旅も読みどころです。
『リスボンのブック・スパイ』アラン・フラド/髙山祥子訳(東京創元社)
1942年、第二次世界大戦下。ニューヨーク公共図書館で働く司書のマリアは、大統領令に基づく任務を帯び、ポルトガルのリスボンに旅立つことになった。その任務とは、身分を偽り、戦略分析のため枢軸国の刊行物を収集すること。報道写真家の母をスペイン内乱で亡くしたマリアは、危険を冒してでも戦争を終わらせたいという強い想いを抱いていたのだ。
同時期、リスボン。書店を営む青年ティアゴは、書類偽造の天才である書店員ローザとともに、迫害から逃れようとするユダヤ人避難民を命懸けで援助していた。マリアは街で本や新聞を集めるうちにふたりと出会い、戦争を終わらせるためのさらなる任務に臨むことに――
戦時のヨーロッパで活躍した実在の図書館司書に材をとり、本を愛する者たちの闘いを描き上げた、心揺さぶる傑作長編!
【担当編集者コメント】
図書館司書をヨーロッパに派遣し、敵国の書物を収集させ、戦略分析のために利用した――これは第二次世界大戦下、アメリカが実際におこなった軍事作戦です。本書の主人公マリアのモデルとなった女性は、作戦に従事した司書のなかで特に勇敢で、特に優秀で、特に規則破りだったとのこと(著者の巻末ノートより)。「本のスパイ」による闘いの記録、どうぞお楽しみください。
『弟、去りし日に』R・J・エロリー/吉野弘人訳(創元推理文庫)
弟の訃報が届いたのは朝食後すぐのことだった。車で何度も轢かれて殺されたのだという。保安官のヴィクターは、弟とは憎しみ合った末に疎遠になっており、悲しみは湧かなかった。だが弟の10歳の娘から、真相を調べてほしいと頼まれて……。姪との交流と真実を追い求める旅路が、ヴィクターの灰色の人生を切なくも鮮やかに彩っていく。一人の男の再生を描く、心震えるミステリ。
【担当編集者コメント】
「めちゃめちゃいい作品だった……」というのが、本書の翻訳原稿を読み終わっての第一の感想でした。さまざまな場面、さまざまな文章が胸に迫ってきます。血の通った人間同士のやりとりがすごく胸を打つのです。興味を引かれる謎や、真相に迫っていく手がかりが巧みに配置されていて、二転三転していく事件の捜査の展開にぐいぐい引き込まれます。心揺さぶる、忘れがたいミステリです。
『ミゼレーレ』上下 ジャン=クリストフ・グランジェ/平岡敦訳(創元推理文庫)
喩えようもなく美しい聖歌『ミゼレーレ』と、パリの教会で起きた聖歌隊指揮者の不可解な殺害事件とはいかなる関わりがあるのか? 凶器はいったい何なのか? 遺体の両耳の鼓膜は破られ、付近には子供の足跡が残っていた。定年退職した元警部と、薬物依存症で休職中の若い青少年保護課刑事がバディを組んでこの怪事件に挑む。『クリムゾン・リバー』の著者による圧巻のミステリ!
【担当編集者コメント】
アレグリ作曲の『ミゼレーレ』、システィーナ礼拝堂だけのための聖歌だったあの美しい曲が、本作のおぞましい事件の要なのです。教会のオルガニストで聖歌隊の指揮者が鼓膜を破られ、殺されて発見される。定年退職した元警部と、薬物依存症で治療中の若い優秀な刑事が事件の謎に立ち向かう。この二人の関係が実にいいのです。そして、『クリムゾン・リバー』のJ=C・グランジェならではの、スケールの大きさとケレン! お見事です! 夜は長い……ぜひ一気読みを。
気になる作品はありましたでしょうか? 2024年の東京創元社は、今回紹介した新刊以外にも創立70周年フェアや復刊フェアなどで、たくさんの作品を刊行しています。そちらも合わせてご覧ください。