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【創立70周年記念企画】エッセイ「わたしと東京創元社」その9:酉島伝法、宮内悠介

東京創元社では2024年の創立70周年を記念し、文芸誌『紙魚の手帖』にて豪華執筆陣による特別エッセイ「わたしと東京創元社」を1年間にわたり掲載しました。

第9回は、『紙魚の手帖』vol.18(2024年8月号、SF特集号GENESIS)に掲載されたエッセイ(その2)をご紹介いたします。



酉島伝法 Dempow Torishima

 デビュー前から東京創元社の編集者たちには、勝手に親しんでいた。愛読していた桜庭さくらば一樹かずきさんの読書日記に、何人ものアクの強い編集者が半イニシャルで登場していたからだ。東京創元社ってこんな面白い人たちがいるのか、こんな人たちと仕事ができたらさぞ楽しいだろうな、と笑いつつも、誇張したフィクションとして読むべきだろう、と考えるくらいの常識はあった。その後、創元SF短編賞でデビューして、半イニシャルの編集者たちと仕事をするようになり、わたしは思った。読書日記のままやないか……。いや、日記はまだマイルドだったかも。いまの担当の笠Hさんも、読書日記を読んで入社したいと思ったという。

 まだ短いつきあいだと思っていたが、もう十三年になる。その間に東京創元社はパンを焼き、ホワイトボードのカニはパーを出し、くらりが住み込みで作家たちを担当するようになった。七十周年おめでとうございます。

1970年大阪府生まれ。2011年「皆勤の徒」で第2回創元SF短編賞を受賞。同作を表題作とした短編集は書籍デビュー作ながら第34回日本SF大賞を受賞。2018年には英訳版が、2021年には仏訳版が刊行され話題となる。2020年、初長編『宿借りの星』で第40回日本SF大賞を受賞した。近刊に『奏で手のヌフレツン』がある。


宮内悠介 Yusuke Miyauchi

 最初に買った東京創元社の本は北村きたむらかおるさんの『空飛ぶ馬』であったと思います――というのが、十年前の六十周年時、ここに書かせていただいたこと。東京創元社は私を見出してくれた版元ですので、書ききれないほどの思いがありますが、まずは自分の話より、東京創元社の本から得られた読書体験をと。

 というわけで、今回は『年刊日本SF傑作選』について。かつて、私の心を救ってくれたシリーズです。というのも私は投稿時代が長く、小説に対してひねくれた感情を抱くようになっていました。そんな私に、いまこれが面白いよと友人の酒井さかい貞道さだみちさんが薦めてくれたのが『年刊日本SF傑作選』や河出書房新社さんの『NOVA』であったのでした。すぐにひきこまれ、小説が純粋に楽しかったころを思い出しました。
その『年刊日本SF傑作選』に第一回の創元SF短編賞の募集があるのを見て、応募し、いまに至ります。当時の関係者の皆様には、感謝してもしきれません。

1979年東京生まれ。92年までニューヨーク在住、早稲田大学第一文学部卒。在学中はワセダミステリクラブに所属。インド、アフガニスタンを放浪後、麻雀プロの試験を受け補欠合格するも、順番が来なかったためプログラマになる。囲碁を題材とした「盤上の夜」を第1回創元SF短編賞に投じ、受賞は逸したものの選考委員特別賞たる山田正紀賞を贈られ、創元SF文庫より刊行された秀作選アンソロジー『原色の想像力』に同作が収録されデビュー。また同作を表題とする『盤上の夜』は第一作品集ながら第147回直木賞候補となり、第33回日本SF大賞を受賞。またこの書籍収録段階で短編「盤上の夜」が第44回星雲賞日本短編部門の参考候補作となった。さらに第二作品集『ヨハネスブルグの天使たち』も第149回直木賞候補となり、第34回日本SF大賞特別賞を受賞した。2013年、第6回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞を受賞。2017年、『彼女がエスパーだったころ』で第38回吉川英治文学新人賞を、『カブールの園』で第30回三島由紀夫賞を受賞。さらに同年発表した『あとは野となれ大和撫子』は第49回星雲賞日本長編部門を受賞し第157回直木賞の候補ともなった。


本記事は『紙魚の手帖』vol.18(2024年8月号)に掲載された記事「わたしと東京創元社」の一部を転載したものです。