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写楽の謎を追う傑作長編ミステリ、待望の復刊! 泡坂妻夫『写楽百面相』

緻密な伏線と論理展開の妙、「亜愛一郎ああいいちろう」「曾我佳城そがかじょう」「ヨギ ガンジー」などの愛すべきキャラクターなどで、読者を魅了した泡坂あわさか妻夫つまお
去年2023年は、そんな「ミステリ界の魔術師」と称された偉大なミステリ作家の生誕90周年でした。その節目の年を記念して、創元推理文庫にて傑作短編集『ダイヤル7をまわす時』『折鶴』蔭桔梗かげききょうを復刊し、代表作『11枚のとらんぷ』『乱れからくり』を新装版で刊行しました。
そしてこの度、上記企画の好評を受けて、泡坂ミステリの隠れた名作写楽しゃらく百面相ひゃくめんそうを復刊いたします!

装画:市村譲/装幀:柳川貴代

時は寛政の改革の頃。川柳句集の板元の若旦那・花屋はなや二三にさは、馴染みの芸者・卯兵衛との逢引の折に見た、謎の絵師が描いた強烈な役者絵に魅入られる。二三がその絵師・写楽の正体を探っていくと、卯兵衛の失踪など身辺で次々と奇怪な出来事が。二三はそれらの謎も追う中で、蔦屋重三郎、十返舎一九、葛飾北斎、松平定信らと関わり、やがて幕府と禁裏を揺るがす大事件に巻き込まれる。

写楽百面相-泡坂妻夫|東京創元社

約十か月で百数十点の浮世絵を発表した後、画壇から姿を消した天才絵師・写楽。そんな写楽は何者だったのか? 本書は、版元の若旦那・二三が写楽の正体を追ううちに、様々な怪事件に遭遇し、やがて幕府と禁裏を揺るがす大事件へ巻き込まれていく長編ミステリです。

泡坂ミステリファンの方も、「写楽の正体は誰なのだろう?」と元々写楽に興味を持っている方も、「時代もの・歴史ものがテーマのミステリはあまり読んだことがない」という方も、ご安心を! 本作は〈写楽〉という大きな謎を軸に、さりげない伏線をするりと回収し、不可思議な事件の真相が次々と紐解かれていくという、魔術師ならではの華麗な手捌きを堪能できます。

二三が探偵行で出会うのは、江戸のメディア王・蔦屋重三郎つたやじゅうざぶろう、絵師であり『東海道中膝栗毛』の著者でもある十返舎一九じっぺんしゃいっく『富嶽三十六景』をはじめ多くの名作を残した絵師・葛飾北斎かつしかほくさい、幕府の老中として「寛政の改革」を主導した松平定信まつだいらさだのぶらという、当時の有名人。特に、2025年大河ドラマ『べらぼう』の主人公にも選ばれた蔦屋重三郎が開くサロンが、一連の謎を解く手掛かりにもなっているのです! 他に類を見ない設定のユニークさが、本書の魅力のひとつとも言えます(大河ドラマの予習としてもオススメです!)。

その他、浮世絵、川柳、黄表紙、芝居、手妻、からくりなどの江戸の文化や粋がたっぷり描かれているので、その鮮やか・華やかさも味わえます。そして終盤で明かされる、一連の事件に秘められていたある人物の「想い」。その想いを知った人々が、それに応えるため、どんな行動を取っていくのかという叙情的なシーンにも胸を打たれます。

解説は澤田瞳子さわだとうこさん。ミステリファン、泡坂ファンでもある澤田さんに、本書のミステリとしての魅力をはじめ、写楽や当時の江戸文化についても詳細に解説いただきました。また、帯の表1にも掲載させていただいた「読者は最後の一行を目にした時、改めて自らが歴史と謎の大いなる坩堝るつぼに放り込まれていると気づき、必ずや驚きの声を上げるであろう」とは、一体どのようなものなのか? それはぜひ、本書でお確かめください!


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