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ピッツバーグをスタートアップの拠点にする方法

ポール・グレアム(Paul Graham)が執筆したエッセー「How to Make Pittsburgh a Startup Hub」の日本語訳になります。

2016年4月

(このエッセーはピッツバーグの Opt412 と呼ばれるイベントで私が講演したものである。講演の多くのことが他の都市でも適用するだろう。しかし、私がこの講演で言ったように、ピッツバーグはほとんどのスタートアップ拠点になりたい都市と比べていくつかの重要な優位性があるので、全部ではない。)

ピッツバーグをシリコンバレーのようなスタートアップ拠点にするものは何だろうか? 私はここモンロービル(Monroeville)で育ったので、ピッツバーグをかなりよく理解している。そして、私は今シリコンバレーに住んでいるので、シリコンバレーをかなりよく理解している。あなたたちはシリコンバレーのようなスタートアップのエコシステムをここピッツバーグに持ち込むことができるのだろうか?

私がここで話すことに同意したとき、非常に楽観的なお話をすることができるとは思わなかった。とても仮定的に、ピッツバーグがスタートアップ拠点となるために何ができたのかについて話すのだろうと思っていた。そうしない代わりに、ピッツバーグができることについて話すつもりである。

私の心を変えたのは、こともあろうにニューヨーク・タイムズ紙のフード欄で読んだ記事である。タイトルは「ピッツバーグの若者が引き起こすフードブーム」だった。ほとんどの人にとって、この記事は興味深かったり、ましてやスタートアップに何か関係しているなんて思えないかもしれない。しかし、そのタイトルを読むことは私にとって胸がわくわくするものだった。もし私が試しにより有望なタイトルを選べられるとしたら、そうできるとは思わない。そして、その記事を読んだとき、私はより興奮した。「25から29歳の人たちが現在全住民の7.6%を占め、約10年前の7%から上がった」と書いてあった。おお、ピッツバーグは次のポートランドになるだろうと私は思った。20代の人たちみんなが移住したいと思うクールな場所になることができるだろう。

私がピッツバーグに数日前に到着したとき、私は違いを感じることができた。私はここに1968年から1984年まで住んでいた。私は当時気付かなかったが、街はその期間の間ずっと落ちぶれていた。郊外への航空便がいたるところで生じたことに加え、鉄鋼と原子力事業は両方とも死にかけていた。いやはや今は違っているようだ。都市の中心部がはるかに繁栄しているように思えるだけではない。私が子供のころにはなかったエナジーがここピッツバーグにはある。

私が子供のころ、ピッツバーグは若者が去る場所だった。今となっては若者を魅了する場所となっている。

これがスタートアップと何の関係があるのか? スタートアップは人で作られていて、典型的なスタートアップにいる人たちの平均年齢は25から29歳の階層である。

私は都市がこういった人たちを持つことがいかに強力であるか見てきた。5年前、彼らはシリコンバレーの重心地をペニンシュラ(peninsula)からサンフランシスコへ移した。Google と Facebook はペニンシュラにあるが、次の世代の大勝者はみんなサンフランシスコにある。重心地が移った理由は、特にプログラマーのための、タレント戦争だった。ほとんどの25歳から29歳の人たちは、離れた退屈な郊外ではなく都市に住みたい。だから、創業者たちが都市を好むかどうかに関わらず、創業者たちは自分たちが都市にいなければいけないことを知る。私は離れたバレー・プロパー(Valley Proper)で暮らしたいだろう複数の創業者たちを知っているが、彼らはサンフランシスコへ引っ越すことにした。そうでなければタレント戦争で負けるだろうことを彼らは知っていたからである。

だから、20代の人たちを引きつけることはとても有望なことである。彼らを引きつけることなしに、ある場所がスタートアップの拠点となることを想像するのは難しい。私が25歳から29歳の割合が増加していることに関する統計を読んだとき、スタートアップのグラフがX軸から離れて上にしなり始めるときに得た興奮と全く同じものを感じた。

全国的には25歳から29歳の割合は6.8%である。これはあなたたちピッツバーグが0.8%先にいることを意味する。人口は306,000人で、私たちは約2500人の余りについて話している。これは小さな街の人口で、ただの余りである。つまり、あなたたちは足掛かりを得ている。これからは余りを拡張する必要がある。

そして、「若者が引き起こすフードブーム」は取るに足りないように聞こえるかもしれないが、これはブームどころではない。レストランとカフェは都市の個性の大部分である。パリの道を歩いていくのを想像してみて。あなたは何を歩き過ぎた? 小さなレストランとカフェだ。ある重苦しい無作為の準郊外の中を運転するのを想像してみて。あなたは何を運転で通り過ぎた? スターバックス、マクドナルド、ピザハットだ。ガートルード・スタイン(Gertrude Stein)が言ったように、そこにあるべきものがそこにないのだ。あなたはどこにでもいることができる。

これらの独立したレストランやカフェはただ人びとに食物を与えるだけではない。彼らはここピッツバーグをピッツバーグたるようなピッツバーグにしている。

したがって、これがピッツバーグを次のシリコンバレーに変える最初の具体的な助言である。この若者が引き起こすフードブームを促進するためにできることは何でもしなさい。都市は何ができるだろうか? これらの小さなレストランとカフェを始めようとする人たちをユーザーのように扱い、彼らが欲しいものは何か聞きに行きなさい。私は彼らが欲しいかもしれない1つを少なくとも推測することができる。それは、速い許可プロセスだ。サンフランシスコはこの部門の中でサンフランシスコを打ち負かす大量の機会をあなたたちに残した。

けれども、私はレストランが主な原動力ではないことを知っている。タイムズ紙の記事が言っているように、主な原動力は安い住居である。これは大きな利点だ。だが、「安い住宅」というフレーズは少し誤解を招きやすい。より安い場所はたくさんある。ピッツバーグに関して特別なのは安いことではなく、あなたが実際に住みたいと思う場所が安いことである。

その一部分は建物自体である。私が貧しい20歳代だった昔に、一度豊かになった場所が後に貧しくなるのは最高の取引だと気づいた。もしある場所がずっと豊かであれば、それは素晴らしいが高すぎる。もしある場所がずっと貧しければ、安いが暗い。しかし、もしある場所が一度豊かでその後貧しくなっていれば、あなたは安く豪華な建造物を見つけることができる。そして、これが人びとをここピッツバーグに呼び込むものである。100年前のピッツバーグが豊かだったとき、ここに住んでいた人たちは大きくて頑丈な建物を建てた。いつも最高のテイストではないが、間違いなく頑丈である。したがって、これがスタートアップの拠点になるためのもう1つの助言である。ここピッツバーグに人びとを呼び込む建物を壊さないで。今のピッツバーグのように都市が停滞に向かっていると、デベロッパーは古い建物を取り壊す競争をする。こういうことが起きないようにしてほしい。史跡保護に重点的に取り組みなさい。大きな不動産開発のプロジェクトは20歳代の人たちをここに呼び込むものではない。彼らは新しいレストランやカフェとは真逆で、都市から個性を引き抜く。

経験的証拠は史跡保護に関してあなたたちがいくら厳しくしても厳しすぎることはないことを示唆する。都市がこのことについて厳格であるほど、彼らはより良いようにすると思われる。

しかし、ピッツバーグの魅力は建物自体だけではない。魅力はピッツバーグの中にある地域である。サンフランシスコとニューヨークのように、ピッツバーグは車社会が到来する前の都市という点で恵まれている。拡張しすぎていないのだ。25歳から29歳の人たちは運転をすることが好きではない。彼らはウォーキング、自転車に乗る、または公共交通機関の利用を好む。もしあなたが最近サンフランシスコに行ったことがあれば、多くのサイクリストたちに気づかずにはいれない。そして、これは20歳代の人たちが導入した単なる一時的な流行ではない。この点において、彼らはより良い生き方を発見したのである。あごひげは去るだろうが、自転車は去らない。運転せずに動き回れる都市は単により良い時代なのである。だから、私はこのことに費用を出すためにあなたたちができることはすべてやるように提案する。史跡保護と同じように、行きすぎることは不可能のように思われる。

ピッツバーグを国で最も自転車と通行人にフレンドリーな都市にしてみてはどうだろうか? あなたたちが成功して、サンフランシスコが比較して遅れているように思えるかどうか確かめてみて。もしあなたたちがそうすれば、後悔する可能性は非常に低い。都市はあなたたちが引きつけたい若い人たちにとって楽園のように思えるだろう。もし彼らが他の場所で仕事を得るために去る場合、そのような場所をあとにすることは後悔となるでしょう。そして、マイナス面は何だろう? 「自転車にフレンドリーすぎて都市が破壊された」という見出しを想像することができるだろうか? そういうことは全く起きない。

なので、クールで古い地域とクールで小さなレストランがピッツバーグを次のポートランドにすると仮定する。これで十分だろうか? ピッツバーグにはポートランドに欠けているものがあるので、ポーランド自体よりもかなりいい位置にピッツバーグを置くことができるだろう。それは、一流の研究大学である。カーネギーメロン大学に小さなカフェを加えることは、ヒップスターたちがラテを飲む以上のものをあなたたちが持つことを意味する。それは、分散システムについて話しながらラテを飲むヒップスターたちをあなたたちが持っていることである。今、あなたたちは本当にサンフランシスコに近づいている。

実際には、カーネギーメロン大学は都市の中心部にあるが、スタンフォードやバークレーは郊外の外にあるので、ある意味ではピッツバーグはサンフランシスコよりも良い状態になる。

カーネギーメロン大学は、ピッツバーグがスタートアップの拠点となるために何ができるだろうか? もっと良い研究大学になることだ。カーネギーメロン大学は世界で最高の大学の1つだが、最上級で誰もがそれを知っている場合に、どのようであるか想像してください。どこだろうと最高の場所に行かなければならない野心的な人たちがいる。カーネギーメロン大学が最高の場所であるなら、彼らはみんなここへ来るだろう。いつかピッツバーグに住むことを夢見るカザフスタンの子どもたちがいるだろう。

このようなタレントを引きつけることは、大学が自分たちの都市をスタートアップの拠点にするように向かわせる最も重要な貢献である。実のところ、これは彼らができる実際には唯一の貢献である。

だけど、待って。大学は名前に「イノベーション」や「アントレプレナーシップ(起業家精神)」のような言葉を含むプログラムを立ち上げるべきなのだろうか? いいや、大学はするべきではない。こういうのはほとんどいつも期待外れで終わる。大学は間違ったターゲットを追い掛けている。イノベーションに至る方法はイノベーションを目指すことではなく、より優れたバッテリーや3D印刷のようにより具体的なものを目指すことである。そして、アントレプレナーシップについて学ぶ方法はそれをすることで、あなたは学校ではできない。

スタートアップを促進するために大学ができる最善のことは、素晴らしい大学になることだと聞くのは、一部の管理者を失望させるかもしれないことを私は知っている。これは、体重を減らしたい人たちに、体重を減らす方法は食べる量を減らすことである、と言っているようだ。

だけど、あなたたちがスタートアップがどこから来るのか知りたい場合、経験的証拠を見てください。最も成功したスタートアップの歴史を見てみると、数人の創業者たちが興味深いサイドプロジェクトとして始めた何かを作ることからスタートアップが有機的に成長することが分かるだろう。大学は創業者たちを引き合わせるのに素晴らしいが、それ以外に大学ができる最善のことは好きなようにさせることである。たとえば、学生と教職員が発展させる「知的財産」の所有権を主張しなかったり、入学の延期と休学に関するリベラルなルールを設けたりである。

実際に、大学がスタートアップを促進するためにできる最も効果的なものの1つは、ハーバードが発明した好きなようにさせる精巧なフォームである。ハーバードはクリスマス後の秋学期に試験があった。1月の初めには、試験のために勉強する「試験勉強期間」と呼ばれるものがあった。そして、Microsoft と Facebook にはほとんどの人たちが気づいていない共通点があり、どちらも試験期間中に始動した。これは、スタートアップに変わるちょっとのサイドプロジェクトを生み出すのに最適な状況である。学生はみんなキャンパスにいるが、試験のために勉強しているはずなので、何もする必要がない。

ハーバードはこの窓を閉じたかもしれない。なぜなら、数年前にハーバードは試験をクリスマス前に移動し、試験勉強期間を11日から7日に短縮したからである。しかし、もし大学が本当に自分たちの学生たちがスタートアップを始める手助けをしたい場合、時価総額で加重した経験的証拠は、大学ができる最善のことは文字通り何もないことを示唆する。

ピッツバーグの文化はもう1つの強みである。スタートアップの拠点となるために、都市は社会的にリベラルでなければならないように思えるが、その理由は明らかである。スタートアップはとても変わっているので、都市はスタートアップのホームとなるために奇妙なことを許容しなければならない。そして、あなたは大きなスタートアップに変わるだろう奇妙さの形だけを許可する選択はできない。なぜなら、彼らはみんな混ざっているからである。あなたはすべての物珍しさを許容しなければならないのだ。

これはすぐにアメリカの大きな塊を排除する。私は楽観的で、これはピッツバーグを排除するものではない。

ここピッツバーグで育ったことで私が覚えていることの1つは、当時はこのことに関して普通ではないことがあることに私は気づかなかったが、人びとがどれほどうまく付き合っていたかということだ。理由はまだ分からない。おそらく1つの理由は誰もが移民のように感じたからである。私がモンロービルで子どもだったとき、人びとは自分たちのことをアメリカ人と呼んでいなかった。彼らは自分自身をイタリア人、セルビア人、ウクライナ人と呼んでいた。20の違う国から人びとが押し寄せられる100年前のピッツバーグのように違いないものを想像してみてください。許容することは唯一の選択であった。

私がピッツバーグの文化に関して覚えていることは、ピッツバーグが寛大で実利的であったことである。これは私がシリコンバレーの文化をどのように説明するかでもある。ピッツバーグは当時のシリコンバレーだったため、これは偶然ではない。ピッツバーグは人びとが新しいものを作る都市だった。人びとが作るものは変わったが、そのような仕事をするためにあなたが必要とする精神は同じである。

だから、ラテをがぶ飲みするヒップスターの流入はある意味で迷惑かもしれないが、私は彼らを勇気づけるために邪魔にならないようにするだろう。そして、より一般的には、おかしなカリフォルニア人がする程度までの奇妙なことを許容する。ピッツバーグにとって、都市のルーツへ回帰することは保守的な選択である。

申し訳ないことに、私は最後に最も難しいパートを残しておいた。スタートアップの拠点になるために必要なものがもう1つあり、ピッツバーグにはそれがない。投資家だ。シリコンバレーは成長するのに50年かかったため、大きな投資家コミュニティがある。ニューヨークはお金が大好きでお金を得る新しい方法にすぐに気づく人たちでいっぱいであるため、大きな投資家コミュニティがある。しかし、ピッツバーグにはこれらのどちらもない。そして、他の人たちを引きつけるピッツバーグの安い住宅は投資家に影響を与えない。

もし投資家コミュニティがここピッツバーグで成長する場合、シリコンバレーで起きたのと同じように、ゆっくりと有機的に起こるだろう。したがって、大きな投資家コミュニティを短期間で持つことに私は賭けないだろう。

しかし、幸いなことに、以前よりも必要性を低くする3つのトレンドがある。1つ目は、スタートアップは始めるのにますます安くなっており、あなたは以前ほど外部のお金を必要としないことである。2つ目は、Kickstarter のようなもののおかげで、スタートアップがより速く収益を上げることができることである。あなたはどこからでも Kickstarter に何かを記載することができる。3つ目はYコンビネーターのようなプログラムである。世界中のどこからでもスタートアップはYコンビネーターに3ヶ月間行き、資金を調達し、必要であれば帰国することができる。

私の助言はピッツバーグをスタートアップにとって最高の場所とすることで、少しずつにたくさんのスタートアップが留まるだろう。スタートアップの誰かが成功し、スタートアップ創業者の誰かが投資家になるだろう。そして、まだもっと多くのスタートアップが留まるだろう。

これはスタートアップの拠点になるための最速の道筋ではない。しかし、これは少なくとも道筋であり、他の都市が持つ数少ないものである。そして、そうしている間に悲痛な犠牲をしなければならないようなものではない。私があなたたちに何をすべきか提案したことについて考えてほしい。地元のレストランを促進する、古い建物を保存する、密集状態を利用する、カーネギーメロン大学を最高にする、寛容さを促進する。これらが現在ピッツバーグを住むのに良いとするものである。私が言っていることはあなたたちがもっとこれらのことをさらにすべきだということだ。

そして、これが勇気づける考えである。もしスタートアップの拠点になるピッツバーグの道筋がさらに独自であると、それは成功する十分な可能性がある。実際には、おそらく都市の大きさから起算した最上の可能性がある。ある程度の努力とかなりの時間がかかるだろうが、もしスタートアップの拠点になることができる都市があるとしたら、ピッツバーグができる。

このエッセーの下書きを読んでくれたチャーリー・シーヴァー、ジェシカ・リビングストン、Opt412 を準備し私を招待した Meg Cheever に感謝する。


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