利他学2
「利他学」(小田亮、新潮社、2011年)P19-21から要約
「仕組み」と「機能」の関係
「仕組み」についての問いと「機能」についての問いは別々のものだと述べたが、実はこの二つは無関係なものではない。
道具を例にとって考えてみよう。例えばハサミだ。一般的なハサミがどういう「仕組み」になっているかというと、二つの刃が交叉するように固定されていて、反対側には穴があけられている。なぜこんな形ちかといえば、穴の部分に指を入れて刃を操作し、紙などを二つの刃で挟み込んで切断するためである。つまり、モノを人力で切るという「機能」を最も効果的に果たすために。ハサミの「仕組み」があるのだ。
人間が設計した工具の場合、このように「仕組み」は「機能」のためにある。故に、ある人工物を前にしたとき、それがもつ「機能」が何であるか考えると、その「仕組み」についての理解が進む。これが、「リバース・エンジニアリング(逆行設計)」という考え方だ。
人間が作った道は、通常何らかの機能を持ち、目的を果たすように設計されている。これをエンジニアリングという。「リバース」は「逆転」という意味なので、リバース・エンジニアリングというのはこの逆のことを意味することになる。つまり、人工物というのはエンジニアリングによって何らかの機能を果ために各部品が作られ、働いている。ということは、その人工物がもつ「機能」を考えれば、その人工物の「仕組み」についての理解が進むのではないかと考えられる。
同じことは生物についてもいえる。人間だけでなく、すべての生物について、なぜその種がそんな「仕組み」をもっているのか、という問いかけをするとき、その「機能」を考えることが大きな助けになるのだ。
もちろん、生物は誰かが設計して造ったものではない。その点は人工物と異なるところである。しかし、生物もあるメカニズムが働けば、あたかも誰かが設計したかのような非常に機能的なものになるのである。それが、「自然淘汰」といえよう。