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利他学X2

「利他学」(小田亮、新潮社、2011年)P123-より

人間は誰に対して同情するのか?

 ここで紹介する分析で用いられたのは、場面想定法である。実際に参加者がなんらかのコストを払うというかたちで他者への援助行動を調べた研究も過去にあるが、この分析では架空の場面を想定してもらい、そこでどのような選択をするのかという質問をした。

 具体的には前節の冒頭で考えてもらったような場面を想定し、真面目で偶然失敗したA君、真面目だが自分のせいで失敗したB君、不真面目で偶然失敗したC君、不真面目で自分のせいで失敗したD君という四人の人物をそれぞれペアにして、どちらをどの程度助けたいと思うかを五つの選択肢から選んでもらった。選択肢は、例えばA君とB君がペアになっている場合、「絶対にA君」「どちらかというとA君」「どちらも助けない」「どちらかというとB君」「絶対にB君」となっていて、「絶対に」を選ぶとそちらの人物に二点、「どちらかというと」なら一点、「どちらも助けない」なら双方とも得点なし、というかたちで得点が与えられる。これをすべての組み合わせについて行うと、どのような人物にが助けたいと思われるのか、数値で示すことができる。これは「一対比較法」という分析手法で、工業製品に対する好みを調べる際などによく使われるものだ。

 さて、大学生の男女40名ずつ、合計80人に対してこの質問に答えてもらった結果どうなったかというと、真面目な方が不真面目な方より得点が高くなり、また偶然失敗した方が自分のせいで失敗した方よりも得点が高くなっていた。つまり、これらはそれぞれ助けたいと思う程度に影響していたのである。さらに、A君、つまり真面目で偶然の原因で失敗した人が人物が特に高い得点を得ていた。これは、真面目さと失敗の原因が独立しているのではなく、互いに強め合う関係にあることを示唆している。

 やはり、相手を助けたいという思う感情、つまり同情は互恵的利他行動と関りがあるようだ。しかしながら、これだけではまだ結論的なことはいえない。そもそも感情の研究はすべてそうだが、特定の感情を取り出して、それを数値化するということは非常に難しい。今回の場合でも、同情というものを同定して、それを正確に計測することはまず不可能だ。また、今回用いたのはあくまで架空の場面であり、回答者は実際にコストを払っているわけではない。今後、これらの要因も考慮した、同情の進化についての実証的研究が望まれる。

利他学——「感謝と間接互恵性」へ続く

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Tetsuco K
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