元ブラック企業が学んだ「インナーブランディング」の経路(サイボウズ株式会社/新卒採用担当綱嶋航平さん)
みなさん、こんにちは。運営事務局の松澤です。いつの間にか8月に入り、湿気をたくさんに含んだ夏らしい空気が肌で感じられますね。冷房で身体を冷やさないようお気をつけください!
今回の記事は、サイボウズ株式会社の採用担当 綱嶋航平さんによるお話の内容をまとめたものになります。情報の扱いには細心の注意を払っていますが、正確で最新の情報は綱嶋さんまたはサイボウズ社へ確認くださるようお願いします。
テーマは「インナーブランディング×HR(ヒューマンリソース)」です。
近年、どの業界でも人材不足が嘆かれています。自分らしい働き方と売り上げ、というトレードオフに多くの人が悩んでいます。対策として賃金の底上げや業務時間の見直しなどが挙げられますが、思わしい解決策にたどり着けない場合がままあります。「インナーブランディング」は、そういったこれまでの流れとは全く異なるアプローチとして注目を浴びているのです。例えるならば、より早い馬ではなく機関車を発明がされた、革命とも言えます。
自社の課題に対し手探りで行動を起こし続けたサイボウズもまた「インナーブランディング」にたどり着きました。過去の課題、経営層と社員の温度差、変わっていく空気感を含むこれまでのストーリーをお聞きしました。
サイボウズは、チームの情報共有サービス「グループウェア」の開発・販売・運用を行う会社です。業務アプリ構築クラウドの”kintone”や、メール共有システム”メールワイズ”などがあります。
(チカイケ秀雄主宰「TOKYO BRANDING.大学校」にて、2019/7/25に登壇いただいた際のお話です。スライドはこちらからご覧になれます。→https://www.slideshare.net/KoheiTsunashima/hr-157536464)
3人に1人が辞めるブラック企業
いまでこそ知る人ぞ知る会社と成長したけど、かつてはブラック企業でした。
創業して10年が過ぎた2006頃から、売り上げが40億円前後で伸び悩む「成長の踊り場」を迎えていました。会社の文化としては、当時のITバブルらしく終電まで働くことは当たり前で、ソリューションを生み出すよりは気持ちでなんとかするような体育会の空気がありました。その結果か、2005年の離職率は28%にのぼり「3人に1人が辞める」状態に陥っていたそうです。
問題の発端は「環境の変化」です。クラウドサービスの提供開始を始めたことでいままでになかった顧客を得ることになり、それまでよりも多様なニーズに応える必要が生まれました。複雑なプロセスを支援するサービスであり、多様なニーズに答えられる柔軟性も持つ状態が理想です。
実現するための働き方改革、主軸となるサービスの定義を拾い集めていき、ブランディングの道のりが始まります。
インナーブランディングで組織改善
成長の踊り場の時期から「働き方改革」を起点としたカルチャーづくりが始まりました。
● この会社はどんな価値を提供するのか?
● 価値を通してどんな社会を実現させるか?
● この会社らしさとはなにか?
それらを言語化・ヴィジュアル化してゆき、日常の仕事に丁寧に反映させていきました。プロジェクトが立ったら「これは公明正大か?」と社長からツッコミが入ります。その様子は議事録に記録され、全社員が閲覧可能です。そういった取り組みがオウンドメディア『サイボウズ式』で書かれシェアされることで、社員も自分たちのやり方に自信を得ていきます。
結果としては、当時28%だった離職率は5年で23%減り、現在では4%前後で落ち着いています。内訳として2種類のヒトが会社を離れていきます。1つは、複業などが大きくなりそちらをメインにやっていきたいヒト。もう1つは、会社との方向性の違いを感じるヒトです。
副産物としての『採用力』
会社の価値が明確になると共感したメンバーのコミットメントが高まります。社員の個々人が「なぜ会社に所属しているか」を考えるようになります。その人のミッションを軸にナレッジが深まり、オウンドメディアやSNSでアウトプットされていきます。
副産物としての『採用力』
会社の価値が明確になると共感したメンバーのコミットメントが高まります。社員の個々人が「なぜ会社に所属しているか」を考えるようになります。その人のミッションを軸にナレッジが深まり、オウンドメディアやSNSでアウトプットされていきます。
採用時のアンケートでは「書籍」に続き「メディア」が上位を占めています。
インナーブランディングを固めた上でのコーポレートコミュニケーションが、会社の想いに共感する人材を集める。その手応えを強く感じられます。
インナーブランディング①会社の再定義
問題の発端は「環境の変化」です。クラウドサービスの提供開始を始めたことでいままでになかった顧客を得ることになり、それまでよりも多様なニーズに応える必要が生まれました。顧客の中心は2000年頃にサイボウズを導入してくれた40代以上の方でした。若い層ではGoogle、Facebook、messenger、LINEが当たり前のように使われています。ニーズや習慣に大きなギャップがあります。そういった要因から「これまでと違った戦略が必要だ。」という気づきを得てきました。
それまではチームの情報共有サービス「グループウェア」を提供する会社でした。しかし、それを通して伝えたい価値があることに気がつきます。それは「チームワーク」です。
複雑なプロセスを支援するためには顧客の細かなニーズに気がつき、情報を共有し、コンセプトに即した意思決定が必要です。このときからグループウェアから「チームワーク」を提供する会社へと変わっていきます。
インナーブランディング②丁寧に反映させる
価値が明確になったことで、やるべきこと・やらないことの棲み分けができます。実際に取り組んでいるプロジェクトやリリースするプロダクトを自社が提供する理由を語れるようになります。
サイボウズでは「よりチームワークを強化するサービスとはなんだろう?」「チームワークを実感するときの喜びをどう表現できるだろう?」と適切な問いを立てることができます。そのため実際のアウトプットは非常に多岐に渡ります。声明文を発表したり、アニメーションを制作したり、働くママを応援したりするなどが挙げられます。
いろいろなことに手を出しているのにしっかりと実績が出るのは、根底に確固とした「提供したい価値」が存在しているからです。
簡単なことではありません。ゼロからスタートするためには経営層の理解とリーダーシップが必要です。しかし、やるだけの価値があります。サイボウズは私たちにそれを証明してくれています。
組織の空気が目に見えるように変わっていく
価値を明確にした次のステップとして、その価値を伝えられるように「編集力」を身につける必要性を感じました。オウンドメディア「サイボウズ式」を2012年5月14日に開始します。自社の課題や実験を本音ベースで語ったり、グループウェアの成功例などを紹介するようにしたのです。
かねてから社長は「これからはチームワークの時代だ!」と社員へ語っていました。冒頭に書いたように、当時は体育会の空気感があり「チームワークで売り上げは上がらないだろ!」という摩擦がありました。
しかし、サイボウズ式というオウンドメディアの記事が世の中で広く読まれシェアされる現象が増えていき「どうやらうちの会社、いいことをしているみたいだ」とはたと感じてもらえる瞬間がありました。
個々人の「なぜ会社に所属するか」
これまでの経緯でサイボウズの価値が浮き彫りになってきました。そしてそれをより体現できるようにいろいろな取り組みをしています。
その過程で2種類の人間が会社を離れていきます。1つは、複業などが大きくなりそちらをメインにやっていきたい人。もう1つは、会社との方向性の違いです。逆を言えば、会社に残った人は会社の価値に共感をしています。サイボウズになぜ所属するのかを意識するようになります。その延長で個々のSNS発信が活発になります。採用時のアンケートでサイボウズを知ったきっかけを聞いても、書籍の次に「メディア」の答えが多く得られました。
会社は、行動するブランド
いかがだったでしょうか。次はあなたの番です。いま目の前にあるサービスやプロダクトに目を向けすぎないでください。それらを通して「どんな価値を提供したいか?」を考えてみてください。
もし一人で考えて煮詰まったら、TOKYO BRANDING.大学校に遊びに来てください。様々な業種のブランディングに携わるプレイヤーが集まり「全員先生、全員生徒」をモットーにナレッジしています。単発での参加でも大きな学びがあるはずです。
ビバ、原体験ジャーニー!
それでは。
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