ロックをプールに持ち込んだ男〜プール業界で存在感を発揮したブランディング戦略
みなさん、こんにちは。運営事務局の松澤です。日本の夏といえば、涼しくなったかと思えば盛り返す熱気でしたが、今年は拍子抜けでしたね。秋服が店頭に並ぶのもそう遠くなさそうです。
さて、今回の記事はRockin’ Pool社・西川隼矢さんによる講演内容をまとめたものになります。テーマは『プール業界でのブランディング戦略』。
ご本人は鹿屋体育大のご出身で、なんと、アテネオリンピック代表選考会出場歴のある元競泳選手です!最初は「無重力フォトグラファー」としてプール専門のカメラマンの活動を続け、プール業界をもっとおもしろくすべく2015年に会社を立ち上げます。
というのも、日本のプールはものすごく規則が厳しいということをご存知でしたでしょうか?破片などがでる可能性があるものは全てNG。あのApple Watchすらも着けて泳ぐことはできないそうです。(のちのちの伏線ですので頭の片隅に残しておいてくださいね)
しかしながらプールにはものすごい可能性を感じていて、どうしたらその良さを十分に引き出し価値を社会へ還元していけるかを試行錯誤し続けています。この記事を読んでいただければ西川さんが歩んできた変遷、そして実現せしめんとする未来を思い描くことができるでしょう。
どうぞ最後までお付き合いいただければと思います。
(チカイケ秀雄主宰「TOKYO BRANDING.大学校」にて、2019/8/22に登壇いただいた際のお話です。詳細・入会はこちら)
フリーランスから社長へ「写真だけで西川さんの望む未来に行けますか?」
冒頭でもお話しした通り、西川さんは当初「無重力フォトグラファー」をしていました。水中にマネキンを落とし、様々なポーズをさせて撮影をしていたらなかなか良い写真が撮れて「これ、結構おもしろいじゃん!」となったのがきっかけだそうです。
そこからしばらく取り組んでいる中で「より集客をしてビジネスを広げていきたい」という想いを持ちます。そこで出会ったのが、当校主宰者であるチカイケ秀雄でした。その時の衝撃はいまだに覚えているようです。
チカイケ「写真だけで西川さんの望む未来に行けますか?」
集客の相談をしたら、プール業界を壊す話に発展(笑)。「そもそもなぜフォトグラファーをしている?」「フォトグラファーという手段でどこに目指そうとしている?」「どんな社会が実現できたら嬉しい?」PI(パーソナルアイデンティティ)の言語化をしました。西川さんがお客さんに伝えたい想いはなにかが整理し、ブランディング戦略を考案することになったのです。
チカイケ「創業者の人格と法人格で離す時期が来ているかも」
その過程で、西川さん個人のやりたいことと事業を切り離さないと、西川さん自身が何者なのかよくわからない人になってしまうリスクが発生していました。法人格に事業を乗せることで、西川さんのブランドを保ちつつ、法人格を立てるメリットを享受することができるようになります。こうしてフリーランスから社長になる運びとなったのです。
ボルトから指輪を作った原体験
ブランディングの際にストーリーを盛り込んでいくために西川さんの原体験を掘り下げました。その際に浮かび上がったことは「学生の頃にボルトを削って彼女のために指輪を作ったこと」でした。
ご実家にコウバがあり転がっていたボルトを見つけ、ちょうど当時付き合っていた彼女の誕生日プレゼントを探していたので「作れそうだ」と思って削り出しを行いました。完成度を極め、まるでティファニーのようにデザイン性にも工夫をしたそうです。めちゃくちゃ大変だったけど彼女がとても喜んでくれたことが強く印象に残っていました。
そのクリエイティブスピリットは今でも健在で、プールで行うVRゲームの開発時、パーソナルプールを頭の中で思い描き「あ、できるな」と思ったらすぐに作ってしまうようです。大変なのは、企画をしている時期の夜中に1時にアイデアができてしまった時はいつのまにか朝がきているそうで、ワクワクした方向に迷わず挑戦してみる姿が伺えます。
パーソナルプールは西川さんご自身が作ったもの
いまのプールビジネスはユーザーの減少に伴い市場縮小の傾向があるようです。お客さんが来ないから電気だけ消しとこ、とはいかず、水の循環システムをずっと稼働していないといけません。プールを作れば儲かる時代であればよいですが、お客さんがこなければランニングコストが垂れ流し状態になってしまいます。
パーソナルにこだわるメリットには「他に人の視線を気にすることがない」といものも挙げられますが、これからの時代、ランニングコストというビジネス面においても大きなアドバンテージを持ちます。いまはまだニーズがありませんが必要となる未来が来ると考えており「いつか作ってやろうと思います」と語ってくれました。
「重力弱者」と「社会」をプールが救う未来
ここまで読んでパーソナルプールがどのようにして一般的な生活に浸透していくか気になった方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。最後に西川さんが描くこれからの「プール業界の発展」についてお伺いできました。
みなさんはプールをいまもっとも必要としている方は誰だと思いますか?それは「高齢者」「障碍者」です。他にも腰痛持ちの方などがリハビリや運動をしにプールへ集まることが多いそうです。西川さんはそういった方々を「重力弱者」と定義しています。
私たちが住む日本では「2025年問題」を抱えています。
2025年になると団塊の世代が75歳を超えて、国民の3人に1人が65歳以上、5人1人が75歳以上という社会がやってくる。
(詳しくは「2025年」で検索ください。)
そんな中で重力弱者を生産者として維持し、その人たちの生活も明るく照らすことができるのがプールです。イメージしてください。腰痛持ちの方がリハビリのつもりでVRゲームをしていたら遠隔で農作業ロボットを遠隔している。リハビリをしてインナーマッスルも鍛えられ、ゲームで楽しみながら、労働生産も行う未来です。
プール需要が高まっていく中で、健常者もプールのある生活を選ぶ人が現れると言います。プールに浸かりながらVRをすることで、VRと連動して浮遊感を味わうことが今まで以上に可能です。空飛ぶキャラクターの方がかっこいい、そっちの方が強いとプールに浸かってVRゲームに挑む人も現れてもおかしくはありません。
スピルバーグ監督・映画「Ready Player 1」で、主人公がVRの中で空中ダンスをするシーンがあります。(当該映画はNetflixで視聴可能です。)しかし、当の本人は地上に半分吊るされた状態でゲームをプレイしているだけです。もしこのときにプールに浸かっていればより無重力浮遊を楽しむことが可能になるでしょう。プールの未来はハリウッドもまだ気づいていないのです。
プールのある生活を逆輸入する戦略へ
いまもっとも力をいれているのがVR事業。プール業界にエンタメを取り組むことです。これは2025年問題にアプローチをしていないと思いきや、最短の戦略として取り組まれているようです。
まずプールに人を集めて市場を大きくしていく。その上で、各地にパーソナルプールを展開し、高齢者の生活支援にシフトしていく。
しかし、日本は防水の時計すら持ち込むことを許されないお堅い雰囲気。市場としても縮小傾向。西川さんが出した答えは「逆輸入」でした。
2020年の夏までVR事業で実績を作り出し、それから海外へ展開していきます。実は海外では個人宅にプールがあることもそんなに珍しくはない。そういう環境にアプローチをしていき、啓蒙と開発を同時に推し進める。海外のお年寄りにも効果的であるという証明を立ててからだと「海外で流行っています」という謳い文句で日本の市場に切り込んでいける。
人がしないことをするブランディング
Apple Watchを入れてはいけないならと、ゴーグルを200個集めてレクリエーションを企画したこともあるそうです。だって、お客さんが使っていてプールに落ちることはあるのですから許されるはずですもんね。しかし当日プール内の昇降リフトが下がりきる前に投げ入れてしまいめちゃくちゃ怒られたそうです(伏線回収!)
西川さんはいままでも人がやらないようなことをすることでご自身のブランディングを築き上げてきました。そして会社を立ち上げてからも戦略はぶれていません。プールにボートを浮かべて「VRアクティビティ」、プールの上でフィットネスやヨガをやる「プールノ」など。そしていま輪が広がっている「VRゲーム」。
そのクリエイティビティはどこから来るか?という質問があがったとき「世の中にあるものをプールに落としたら?を常に考えている」そうです。人は制約に置かれたときに創造性が発揮されるという研究もありますが、西川さんはプールに教育も、出会いも、採用も、いろいろなものを投げ入れて世の中を驚かせてくれるのではないでしょうか。これからの活躍にも目が離せません。
メンバー個人の企画で筋トレ毎日投稿のコラボ。写真からも西川さんの速さがわかります(笑)。
会社HP:http://rockinpool.com/
Twitter:https://twitter.com/gawajun