ラグビー×林業【チェンソーズpeople #4】
4月に加わった2人のルーキー。
そのうちの1人、井手健太については先月紹介しましたので、今月はもう1人の方、矢吹礼(神奈川県出身、23歳)を紹介します!
矢吹は今年3月に大学を卒業、チェンソーズ2人目の新卒での入社となりました。
林業とはまったく無縁な環境で育った矢吹ですが、なぜ林業を目指したのか、なぜ東京チェンソーズを選んだのか、そして将来目指す姿は??
ラグビーからチームの中での”個”のあり方を学んだ
中学から大学にかけての7年間、ラグビーに打ち込んできた矢吹。
若干23歳。楕円形のボール追った7年間はそれなりに長く、特別な想いもあるようです。
矢吹:ラグビーを始めたのは中学1年の時です。兄貴2人がやっていたので、その影響です。ポジションはプロップと言って、スクラムの最前線左側。背番号は1でした。
ーーけっこう長く続けてきたのだと思いますが、どのへんが面白かったのでしょうか?
矢吹:ボールが楕円形なところです。どこに転がるか分からないところが面白かったです。それと、防具もつけないで生身の身体でぶつかり合うこと。
どこに転がるか分からないボールを追いかける…
ボールの行方はある程度は予測できるようですが、最終的には偶然性が支配する世界。
走り回り、ぶつかり合い、疲れ切っての状態で、どこへ転がっていくか分からないボールを追うのですから、普通に考えたら気持ちが萎えそう。
しかし、そこに面白みを感じたと言います。
4月に入社してもうじき半年。林業はもちろん、社会人の経験自体が初となる今、「ラグビーは仕事にめちゃくちゃ役立ってる」とも。
矢吹:ラグビーは上下関係がはっきりしているので、その中で下の者は何をしなきゃならない、上に立ったらこうしなきゃならないという決まりがあって、そこからチームの中での自分の立ち位置というか、何をすべきか考えるようになりました。
ーーポジションもそうですね。ポジションに応じた役割があります。
矢吹:そうですね、あとは心理面でもそうで、辛いこと、しんどいことがたくさんあるんですけど、どんなときでも頑張るという気持ちを教わりました。
ラグビーからは、チームの中での自分の立ち位置、役割を意識し、その上で頑張るという気持ち、さらにはチームの中での個人のあり方を教わったそうです。
矢吹:ラグビーは個々の責任を強く実感させるスポーツなんです。誰かがサボれば誰かがやらなきゃならないので、誰もサボらない。
怪我もそう、怪我して休んだらその分、穴が大きいじゃないですか。だから、常に頑張るんですが、だからといって限界を超えてしまったら良くないんです。
その上で足りないところは助け合う。例えばチームの中で誰かどうしても足が遅いとかあったら、そこは誰かがサポートに行かなきゃならない。そして、その分、その人は他で頑張るんです。
まさに”One for all ,All for one”。
この考え方は、林業にもつながるようです。
林業はチームでの仕事。
例えば植え付けでは、1本1本の苗木を植えること自体は個人で完結する作業ですが、全体を考えて作業しないと、バラバラに木が植えられ、その後に続く下草刈りや間伐の作業性に支障が出てしまいます。
木材の伐採・搬出もそうです。2人、3人が連携してチェンソーや重機を動かすことで、効率の良い仕事となります。
また、楕円形で動きの予測が難しいボールを扱ってきた経験も、林業の仕事をするに当たって、役に立つように思います。
木を伐り倒すとき、チェンソーで正確な切り口を作ったとしても、風などの影響で、必ずしも予測した方向に倒れるとは限りません。
何事も思惑通りになるものではない、ということを知っていることも強さになるのではないでしょうか。
矢吹:ラグビーをやることで、人間関係が構築できることかと思っています。基本的には全部を頑張るんですが、誰もがなんでもできるわけではないので、何か他で見せるとか、ミスをしないためにはどうするかとか…いろいろ考えます。
子どもにやらせたいですね。
メキシコ留学で世界を知り、林業に出会う
矢吹がラグビーから離れたのは大学1年生のとき。
そこは同世代に日本代表選手がいるようなチームで、それまで見てきた世界とはまったく違ったそうです。
「ラグビーをやめた分、いろんなことにチャレンジできるようになりました」と語るように、矢吹は大学4年になる前に休学、メキシコへ1年間語学留学します。
「英語の次に多くの人に話されているスペイン語を学びたかった」という目的の留学でしたが、矢吹はそこで”世界”に出会います。
矢吹:メキシコではトイレや電気といった生活インフラの違いも体感しましたが、それより多くの異なる国の人々と出会うことができたのが収穫でした。
同年代でも将来が明確な人、手に職を持つ人など、自分にとってはるか先を歩き、多種多様な考えを持つ世界の人たちに衝撃を受け、自分のちっぽけさを痛感しました。
それまではあまり意識してなかったという自分の将来を、強く意識し始めた時期だと言います。
矢吹:周りの影響もあって自分の将来に関心が強くなり、いろいろな業種を調べました。
そこで気になったのが一次産業です。農業も漁業も国によってやり方が違うんですが、それが面白いと思い、さらにいろいろ調べてるうちに林業に出会いました。
身内はもちろん、親しい人にも林業に就いている人がいなかった矢吹は、林業という職業こそ知ってはいたものの、その実態は当然のように知りませんでした。
その「知らない」ということに好奇心を揺さぶられ、ネットで調べていくうちに見つけたのが「空師」の動画。
空師とは、特別な技術を使って木に登り、枝や幹を伐採する樹上作業の専門家のことです。
矢吹:こんなかっこいい仕事があるのだと驚きました。さらに大自然を相手に小さな人間たちがチェンソーひとつで立ち向かうことにとてもロマンを感じ、人生で初めて「この仕事をやりたい」と本気で思いました。
空師をきっかけに、さらに林業について調べ、今度は「若者不足」というキーワードにぶつかります。
「林業には多くの課題がある」と知った矢吹は、困難に挑戦することで、林業は多くの事を学びながら成長できる仕事であると感じたそうです。
(このへんもラグビーっぽい!)
既存の林業の枠に捉われない、チェンソーズの幅広い活動に興味を持った
林業会社を探すに当たって、矢吹は地元・神奈川県と東京都の認定事業体(※)をピックアップ。
各社のホームページをチェックし、最終的に神奈川の2社と東京チェンソーズの合わせて3社に的を絞りました。
※ 認定事業体とは、雇用管理の改善や事業の合理化に関わる計画を作成し、都知事の認定を受けた事業体のこと(東京都の場合)。
東京チェンソーズを選んだのは「既存の林業に縛られず、幅広い分野で活動していることに興味を持ち」、そこから「様々な分野で学ぶことができる」と感じたからと話します。
矢吹:林業というと普通は森林での伐採なんかを想像すると思うんですが、チェンソーズではそうした活動に加えて、一般の方へ森林に興味を持っていただけるような活動や木の加工・販売も行っている点に特に興味を惹かれました。
また、他企業とコラボした事業や東京美林倶楽部、森デリバリーといった新たな事業への取り組みも面白いと思いました。
ホームページにはちょうど就職希望者を対象にしたインターン募集が出ていたので、書類を揃えて応募。
8月上旬の3日間のインターンシップでは、現場作業として下刈りを体験するほか、工房、天然乾燥施設の見学、また、事業についての説明も一通り受けました。
応募の決め手となったのは、上述したように幅広い仕事の内容に興味を惹かれたことのほか、ブログやSNSでの投稿を見て、どんな仕事をしているのか、社員の人柄などを知れたことも大きかったそうです。
その後、採用面接を受け、次年度春からの採用を決めます。
まずは技術を身につけ、ゆくゆくは世界でやってみたい!
現場での作業を終え、事務所に戻った矢吹に話を聞きました。
この日の作業は下刈り。
昨年苗木を植え付けした現場で、苗木が育つのを阻害する雑草やツル等を刈る仕事です。
暑い夏の時期、下刈り作業は”サマータイム”と呼ぶ、早朝(5時)からお昼までを仕事の時間としています。
山とはいえ、現場には大きい木がないので、炎天下での作業となってしまうからです。
林業を仕事にする者なら誰もが言う「もっとも過酷な作業」が下刈りなのです。
矢吹を見てすぐ気づいたのは、顔が精悍になっていること。聞くと、入社から8kg減ったのだと言います。
入社前は少しオーバー体重だったそうなので、絞れて身体にキレが出てきているようです。
ーー将来の目標を聞いてみました。まずは1年後、どうなっていたいのでしょうか?
矢吹:まだ分からないことばかりなので、早く身体に技術を染み込ませたいですね。来年になってまた植栽シーズンが始まったとき、もう一回新人という扱いを受けないよう頑張りたいです。
ーー10年後は?
矢吹:現場を引っ張れるような立場になってたらいたいです。
ーー現場以外の仕事についてはいかがでしょう?
矢吹:今はまずは現場と考えていますが、もう少し余裕が出てきたら加工や販売についても関われたらと思います。そしてゆくゆくは世界でやってみたいです!
ラグビーで培ったチームの中での”個”のあり方がとてもよく身に付いていると感じました。
矢吹はブログ等で社員の素顔が知れたことが入社を後押ししたと話していましたが、そのほか、就業規則・安全規定などがきちんと決められていることも、安心して働ける要因なのではと話しています。
もう1人のルーキー・井出健太についてはこちらをご覧ください。