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合いの手がアイドルを包んだ
池袋で働いていたのはもう三年も前のこと。駅から徒歩十分程度の位置に職場があった。仕事が終わると、寄り道しないですぐに家に帰っていたので、駅から職場までの往復路以外に、池袋の道を歩いた記憶がない。
朝からスケジュールが何もない平日には、優越感を覚える。理由もなしに無理に外出をしても体が疲れるだけだが、たまには気分転換として大都会を散策しに行きたくなる。そうじゃないと、上京した意味が薄れる。
真面目に池袋を散策するのは、これが人生初。
しかし池袋の観光名所と言われても、筆者は『サンシャイン』という単語しか浮かばない。『サンシャイン』が通りの名前なのか、ビルの名前かもよくわからない。その答えを確かめるために、駅の東口から出て看板を見ながら歩いた。
サンシャインシティは、水族館やホテル、イベントスペースなど様々な施設が集った、いわゆるモールだった。全部の店や館を見て回ると、間違いなく日が暮れてしまうので、特に目立つエリアをかいつまみながら歩き続けた。
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アイドルとファン
広場には,大勢の人がいた。とある人気アイドルのライブが、まもなく始まるのだ。舞台に上がってきたのは、元気でいかにもアイドルな容姿をした子達だった。可愛らしいアイドルソングをずっと笑顔で歌っていた。
広場の天井は最上階まで吹き抜けていて、全ての階に観客がおし寄せ、広場の吹き抜けを取り囲んでいる。四方八方から合いの手の叫びが、彼女達へ降りかかる。ファンとの距離もかなり近い。こんな面白い光景を作り出せるのは、メジャーになるまでもう一踏ん張りといったアーティスト達だけだろう。それがまた面白い。紅白に出場し、ドームもZeppも余裕で集客できるようなビッグアーティストなら、モールの広場でマイクを握ったりはしないだろう。
ライブを全力で見ている観客層は、おじ様方と女子中高生が圧倒的に多く、赤ちゃんを抱いた若い奥様方もちらほらいた。十年前まで、アイドルはオタク達のための文化だったと思うが、少しずつファンの裾野が広がっているのに、筆者は感心した。
儲けに囚われすぎない感性
池袋の駅前には、アパレルや飲食店だけでなく芸術劇場もあった。最高の立地に、利潤を目的にしないそのような文化施設が点在しているのは、驚くべきことではないか。『儲け』よりも『アート』に価値を見出せる感性は、挑戦的だが応援したくなる。
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池袋駅周辺を三時間以上歩き、様々な景色と遭遇することができた。要素が多すぎて、池袋が何の街か、どんな雰囲気の街かはより一層分からなくなったが、新宿や原宿と同様にとても歩きがいのある街だった。
日付がクリスマスに近づき、街が赤と緑に彩られたら、また様子を見に行きたい。池袋なんだから、呆れるくらいど派手なデコレーションが見られるに違いない。
written by Sign