藤井風「死ぬのがいいわ」の世界的ヒットにの背景にある5つのポイント
「死ぬのがいいわ」
タイトルだけ聞くと、ビックリしてしまう刺激的なタイトルの藤井風さんの歌が、世界中で注目されています。
1月8日には、Spotifyでの再生回数が2億回を突破。
1億回再生到達から約2ヶ月で2億回突破とのことですから、その勢いは加速していることになります。
日本では、12月28日に放送されたNHK MUSIC SPECIALと紅白歌合戦がテレビ初披露だったようですから、年末に初めて聞いたという方も少なくなかったのではないでしょうか。
ただ、2023年の日本の音楽シーンを考える上で、今一度しっかりと振り返っておきたいのが2022年の藤井風さんの「死ぬのがいいわ」の世界的ヒットの経緯です。
海外23カ国で1位を獲得の快挙
なにしろ「死ぬのがいいわ」は、昨年音楽ストリーミングサービスのSpotifyで、23の国と地域で1位を獲得、グローバル・バイラル・チャートで最高4位まで記録。当然、こうした記録は日本人の楽曲としては初めての快挙です。
しかも、更に驚くのは、この「死ぬのがいいわ」が発表されたのは、2020年5月という点。
2年も前の楽曲が、2022年の夏頃からあっという間に世界中で聞かれるようになり、藤井風さんの名前は世界中に知られることになったわけです。
ここに、今後日本のアーティストが海外展開する上でのヒントがあります。ポイントは下記の5つです。
■TikTokで流行る
■音楽配信サービスでのランキング上昇
■迅速な海外での話題化への対応
■本人の英語での発信
■BTSファンによるさらなる拡散
順番にご紹介したいと思います。
■TikTokで流行る
まず、「死ぬのがいいわ」のヒットの起点となったのは、2022年7月28日頃から、タイのTikTokユーザーを中心に「死ぬのがいいわ」を使った動画投稿が流行ったことだそうです。
TikTokにはアーティストの楽曲を選択して動画につける機能があり、こうした過去の楽曲がTikTokで急に注目されること自体は、もはや珍しい出来事ではありません。
実際、昨年日本でも2022年上半期のTikTokトレンド大賞に、28年前にリリースされた広瀬香美さんの「ロマンスの神様」が選ばれたことは大きな話題になりました。
タイのユーザーの間では、日本のアニメ動画に組み合わせてTikTokにアップすることが流行っていたとのことなので、日本通のタイ人の方が流行らせたということなのかもしれません。
その後このトレンドは他の国にも伝播し、世界中のTikTokユーザーが音楽を使った動画をアップしていくことになります。
なんと現時点で、TikTokには「死ぬのがいいわ」の楽曲を使った動画が40万本も投稿されています。
昨年日本でも、たくさんの楽曲がTikTok経由で話題になりましたが、このトレンド自体は今後も続くと考えておいた方がよいでしょう。
■音楽配信サービスでのランキング上昇
日本でも「TikTok売れ」という言葉が注目されたように、TikTokで話題になった動画から、商品検索やサービス検索が多数発生することが知られています。
タイのTikTokにおいて「死ぬのがいいわ」の動画が流行った結果、8月頭頃からタイのSpotifyやApple Musicなどの音楽配信サービスでのランキングで「死ぬのがいいわ」が急上昇することになります。
さらに、この話題はタイのみに留まらず、近隣のブータン、ベトナム、マレーシアなどアジア各国に飛び火していったようです。
最終的に、「死ぬのがいいわ」はSpotifyの海外で最も再生された国内アーティストの楽曲のトップになります。
グローバルプラットフォームであるTikTokと、グローバルに普及しているSpotifyやApple Musicなどの音楽配信サービスが組み合わされば、音楽が国境を越えて拡がり得ることを証明してくれた事例と言えるでしょう。
■迅速な海外での話題化への対応
ただ藤井風さんの「死ぬのがいいわ」が、大きな世界的ヒットになったのは、TikTokと音楽配信サービスのおかげで「運が良かった」という話に終わりません。
藤井風さんや関係者による迅速な対応が大きく貢献しています。
最も象徴的なのは8月23日の段階で、藤井風さんがツイッターで「アジアでご好評につき公開致します」とツイートし、YouTubeに「死ぬのがいいわ」の武道館ライブでのパフォーマンス映像を公開したことでしょう。
実は「死ぬのがいいわ」は日本ではアルバム収録曲の中でも一番聞かれていない曲で、YouTubeにもミュージックビデオが公開されていませんでした。
そこに迅速にライブ映像をアップしたことで、世界中のファンは耳で音楽を楽しむだけでなく、藤井風さんの映像つきで音楽を楽しむことができるようになります。
この動画の再生数はすでに3000万回を超えており、多数の海外からのコメントがついていますし、YouTubeによると「死ぬのがいいわ」は12週連続でYouTubeのグローバルトップ40に入り続ける結果になったそうです。
さらに、ユニバーサルミュージックの各国の公式アカウントが字幕付きで「死ぬのがいいわ」の楽曲を投稿したり、Spotifyのプロフィールが日本語だけだったのを英語を前に変更したり、藤井風さんサイドはライブ映像公開以外にも様々な海外向けの対応を行っています。
広瀬香美さんの「ロマンスの神様」がTikTokで大きな話題になった背景にも、本人がすぐに踊ってみた動画をカバーした事がポイントだったと聞いていますが、やはりSNS上での話題に本人や事務所側がすぐに対応できるかどうかが、話題の拡がりの大きさに影響することは間違いないようです。
■本人の英語での発信
また、今回の話題が「死ぬのがいいわ」一曲にとどまらず、YouTubeのチャンネル登録者数が250万人を超えるなど、藤井風さん自身への興味に変わっていったのは、藤井風さんの英語での発信姿勢が貢献しているようです。
通常、日本のアーティストのYouTubeチャンネルは、楽曲のミュージックビデオや、ライブの映像など、いわゆるオフィシャル素材だけが置かれているケースも少なくありません。
しかし、藤井風さんはもともと12歳の頃からピアノ演奏をYouTubeで公開するようになった、文字通りのデジタルネイティブ。
YouTubeで楽曲を公開するだけでなく、ファンとのコミュニケーションも行っており、英語で楽曲の解説をするなど、常に世界を意識したコミュニケーションをされてきています。
年末にツイッターは投稿を全て削除されてしまっているので、今は見ることもできませんが、英語のツイートも多数されていたようですし、Instagramは英語がメインになっています。
「死ぬのがいいわ」のライブ映像をきっかけに藤井風さんのYouTubeチャンネルやInstagramアカウントに到達した海外のユーザーは、こうした英語の動画や投稿に触れることで、藤井風さんを「日本のアーティスト」ではなく「グローバルなアーティスト」として受け止めたことは容易に想像できます。
■BTSファンによるさらなる拡散
さらに、「死ぬのがいいわ」が世界に拡がっていく過程で興味深いのが、BTSのファンダムが拡散に大きく貢献したという分析結果です。
当然、「死ぬのがいいわ」の世界的な拡がりの過程で、藤井風さんの日本のファンも積極的にツイッターで拡散されています。
ただ日本のツイッターユーザーは基本的に日本語で日本向けにツイートされている方が多く、そのツイート自体は海外の拡散にそれほど直接は貢献しません。
一方でBTSのファンは既に世界中に存在しているのがポイントです。
昨年10月から11月頃には、BTSのメンバーであるSUGAさんが、藤井風さんへのオマージュとも取れる画像を公開して話題になるなど、BTSファンであるARMYの間で藤井風さんの認知が上がり、BTSメンバーと「死ぬのがいいわ」を連動した動画投稿などが増えているそうです。
例えば上記のツイートはBTSのファンアカウントの1つによる投稿ですが、そのいいねの数は2.9万件と大きく話題になっているのが分かります。
こうしたツイートが10月から11月頃には多数発生していたようで、徒然研究室によると「BTSさんのファンダムによるツイートの集合体が、藤井風さんの『死ぬのがいいわ』という楽曲の認知拡大を担う『広告装置』のような役割を果たした」と結論づけられているわけです。
K-POPとJ−POPは時としてライバル関係にあると捉えられがちですが、実は今回の藤井風さんの世界的ヒットの過程では、BTSのファンダムが強力な応援団として機能したことが良く分かります。
Netflixの「今際の国のアリス」が世界のNetflixユーザーに認知される過程で、「イカゲーム」の大ヒットが好影響をもたらしたのと似たような現象が起こっていると言えるかもしれません。
藤井風さんのファンが世界への入り口になる可能性
このように振り返ると、藤井風さんの「死ぬのがいいわ」の世界的ヒットは、単にTikTokでバズった偶然から生まれたという話ではないことが見えてきます。
海外でのバズに対する迅速な対応と、藤井風さんの地道な世界に向けた情報発信の短期長期の両方の活動が組み合わさり、BTSと藤井風さんのアーティスト同士のリスペクトと、BTSのファンという世界的なネットワークの組み合わせによって発生した必然とも言える現象だったわけです。
そう考えると、今回、藤井風さんのファンが世界に拡がったことにより、藤井風さんのファンが、BTSのファンのように他の日本のアーティストが世界のファンに知ってもらうための応援団として活躍してくれる未来もみえてきます。
日本ではまだまだ紅白歌合戦のようなテレビ番組が、アーティストの躍進につながる構造になっていますが、海外で日本のアーティストの歌が拡がるためには、藤井風さんのように立体的にネットやSNS対応をすることが重要なのは間違いなさそうです。
2022年は、藤井風さん以外にも、Travis Japanがジャニーズ事務所所属のアーティストとして念願の全世界デビューをはたしたり、Adoさんが20歳にして米国の名門音楽レーベルとの契約をはたしたことも話題になりました。
2023年は、さらに様々な日本のアーティストが本気で海外挑戦をするニュースを聞くことができる年になるかもしれません。
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