見出し画像

鈴木亮平「シティーハンター」の世界ヒットに学ぶ、韓国に20年遅れた日本の勝ち筋

Netflixで先週公開された映画「シティーハンター」が、Netflixを利用できる32の国と地域で週間トップ10入りを果たし、非英語映画の世界1位を獲得するなど、世界中で大きな注目を集めています。 

「シティーハンター」と言えば週刊少年ジャンプの黄金時代に北条司さんが連載していた人気漫画であり、世界中に多くのファンがいる関係で、これまでに香港や韓国、フランスなどで実写映画化されてきた歴史があります。

そういう意味では、既にNetflixでは「ONE PIECE」や「幽☆遊☆白書」など、週刊少年ジャンプの人気漫画を世界中でヒットさせてきた実績があることを考えると、今回の成功も既定路線と見る方も少なくないかもしれません。

ただ、今回の映画「シティーハンター」の成功は、日本の映像業界にとって大きな意味を持っていると言えるのです。
 

「韓国に20年くらい差をあけられた」

今回の映画「シティーハンター」の成功の要因として筆頭にあげるべきは、主演の鈴木亮平さんの見事な演技でしょう。

鈴木亮平さんは自他共に認める筋金入りの「シティーハンター」ファン。
何しろ13年前の韓国版「シティーハンター」の制作発表の際に自分のブログに「日本版シティーハンター、冴羽リョウ、まじでやりたいなぁ(中略)でも、夢は、言い続ければ叶う、MY持論です。」と書いておられたほど。

文字通り13年越しの夢を叶えての主演獲得と言えますし、今回の映画の配信開始に先駆けて「自分の心の、体の、引き出しにあるもの全てを注ぎ込んで演じました」と自らSNSに投稿されていました。

実際に、鈴木亮平さんが全てを注ぎ込んだ完成度の高い演技に、原作ファンからも数多くの絶賛の声が寄せられています。

一方、ここで注目したいのは、そんな鈴木亮平さんが、先月フジテレビのテレビ番組である「だれかtoなかい」に出演された際に、「我々は日本国内だけに向けて作品を作っていたけど、気がついたら海外、例えばお隣の韓国に20年くらい差をあけられちゃったっていう危機感がある」と発言されていたことです。

この番組が放送された際にはまだ映画「シティーハンター」は公開されていませんでしたので、この発言だけが一人歩きしてしまった印象もありますが、そんな20年遅れた韓国に追いつくための鈴木亮平さんなりの1つの回答が今回の映画「シティーハンター」に込められているのです。
 

日本人中心のチームで成し遂げた世界ヒット

映画「シティーハンター」では、エンディングに主題歌「Get Wild」が流れる関係もあり、スタッフロールを全部ご覧になった方も少なくないのではないかと思います。

このスタッフロールで非常に印象的なのが、デジタル編集のチームやVFXのサポートの一部に海外の企業が数社出てくる以外は、役者や監督陣はもちろん、VFXのスタッフも中心メンバーはほとんどが日本人によって占められているという点です。

Netflixによる週刊少年ジャンプの人気漫画の実写化というと、なんといっても実写版「ONE PIECE」が筆頭としてあげられると思います。

この作品は、米国だけでなく日本のNetflixのチームも連携して制作されたそうですし、1話あたりの制作費が26億円以上と報道されるなど、ハリウッドならではの規模で制作されていましたし、役者はもちろん、制作スタッフも米国のスタッフが中心でした。

また、実写版「幽☆遊☆白書」においても、監督や役者陣は日本人が中心となっていましたが、コアなVFX部分はScanline VFXが担当し、ハリウッドのスタジオで撮影されています。

こうしたNetflixの目玉作品が、米国のチームが中心となり制作されている関係もあり、Netflix制作のドラマというと海外のチームによる制作というイメージを持っている方も少なくないようです。

しかし、実はNetflixのドラマにも、日本の会社や日本人のチームを中心に作られて成功しているものが多数あります。
 

日本人中心のチームでも世界ヒットは生み出せる

象徴的なものは、日本チームのドラマとして世界での大ヒットを成し遂げる先駆けとなった「今際の国のアリス」でしょう。

実は「今際の国のアリス」を制作しているのは、映画「ゴジラ-1.0」にTOHOスタジオと共に制作会社として名を連ねている株式会社ロボットです。

Netflixのドラマはスタッフロールのタイミングで次のエピソードに自動的に飛ばされるため、ちゃんとスタッフロールをご覧になっている方は少ないようですが、実は「今際の国のアリス」は、ほとんどのスタッフが日本人によって占められているのです。

また、今年Netflixで世界的にヒットして話題になった「忍びの家」も、監督と脚本を米国人のデイヴ・ボイルさんが担当し、音楽をジョナサン・スナイプスさんとそのチームが担当していることから、海外制作のイメージが強いかもしれません。

しかし、「忍びの家」の制作はTOHOスタジオで、こちらも音楽以外のほとんどのスタッフを日本人が占めています。

また、今回の映画「シティーハンター」も制作はホリプロが中心になり、日本人が中心となった体制で今回の世界ヒットを生み出しています。

実はNetflix上の個別の作品では、日本人中心の制作チームでも十分に世界で勝負できることが証明されつつあるのです。
 

韓国に20年遅れた原因は予算?

ここで改めて考えたいのが、日本の映像業界が韓国に20年遅れたと言われるようになってしまった原因です。

映画「シティーハンター」や様々なNetflixの日本発作品が証明してくれているように、実は日本人の役者、日本人の監督、日本人の制作チームで作った映画やドラマでも、十分に世界で勝負できることが証明されつつあります。
この20年間、日本が韓国や世界に対して遅れを取ってしまったのは、決して日本人の役者の力でも、監督の力でも、制作チームの力でもないわけです。

実は、日本の映像業界が韓国に20年遅れてしまったのは、鈴木亮平さんが話されていたように、日本の映像業界が日本の国内だけを対象に作品を作り続けていたため、ビジネスモデルや予算の構造が、国内向けに最適化されてしまったというのが一番の問題と言えるのです。

実際に、4月には是枝監督や山崎監督が、岸田総理に対して日本の映画業界の問題提起を行ったことが話題になりました。

また、漫画「セクシー田中さん」のテレビドラマ化において、原作者の方が最悪の結末を迎えてしまう事件があったのは記憶に新しい方も多いと思いますが、この問題の背景に、テレビドラマの量産問題があるのではないかという指摘も多数されています。

Netflixのような動画配信サービスの普及もあり、日本の映画業界やテレビドラマにおける構造的な問題点が、日本人の目にも見えやすくなったことも大きな変化と言えるでしょう。
 

20年の差は埋められる

もちろん、今回東宝が映画の北米配給を自ら手掛けたことで、映画「ゴジラ-1.0」が米国でも大ヒットし、アカデミー賞視覚効果賞を受賞する快挙を成し遂げたように、業界の一部で変化も始まっているのは間違いありません。

鈴木亮平さんが「だれかtoなかい」で問題提起していたように、日本が「韓国に20年くらい差をあけられた」のは事実でしょう。
ただ鈴木亮平さんは決してその差を埋めることができないと悲観的に発言したわけではありません。

日本の映像業界が問題意識を持って本気で取り組めば、その20年の差も埋めることができるというのが、鈴木亮平さんが自ら映画「シティーハンター」で表現したかったもう一つのメッセージのように感じられるわけです。

今回、鈴木亮平さんとホリプロのチームは、日本人中心のチームでも、Netflixのサポートや予算があれば、これだけのクオリティの高さで人気漫画の実写化が可能であることを証明してくれました。

日本の映画やテレビドラマが、韓国にあけられた20年の時間をこれから埋めることができるかどうかは、鈴木亮平さんが開いてくれた勝ち筋にどれだけ多くの日本の映像関係者が本気で挑戦するかにかかっているように思います。


いいなと思ったら応援しよう!

徳力基彦(tokuriki)
ここまで記事を読んでいただき、ありがとうございます。 このブログはブレストのための公開メモみたいなものですが、何かの参考になりましたら、是非ツイッター等でシェアしていただければ幸いです。

この記事が参加している募集