自殺した先輩に癒された男
こんにちはトクです。
本日も訪問くださりありがとうございます。
今回も拙い創作物語を書いてみたいと思います。一部実体験が入っています。
最後までお付き合いをお願い致します。
その男は、うつ病を患っていた。
年齢は42歳。働き盛りの年齢ではあったが、うつ病の為に休職をしていた。
男は毎晩の不眠に悩まされていた。
気力や体力は、だいぶ回復して来ていたのだが、とにかく眠れない・・・。
2週間毎の、心療内科の受診により、睡眠薬の量が増える一方であった。
睡眠薬の量が増えても、相変わらず眠れない・・・。
睡眠薬のおかげで、寝付きは割と良いのだが、3時間もすると目が覚めてしまう。
9時に睡眠薬を飲んでも、12時に睡眠薬を飲んでも3時間しか眠れないことに変わりはなかった。
そんな男が久しぶりによく寝た夜のことだった。
男は久しぶりに夢を見た。
それも鮮明な夢であった。
あまりにも鮮明なので、現実かと思うほどのものだった。
では、なぜ、現実ではなく夢だと分かったのか。
それは、数年前には自殺してしまった先輩と会話をしたからだった。
その先輩は、あまりにも責任感が強く、その責任感の故に、負わなくても良い責任を負って、その結果として自殺してしまったのであった。
公務員であった彼の自殺に対して、市長はマスコミ対応に追われた。
「自殺の理由は?」
各新聞社の担当記者が、こぞって市長に質問する。
彼の上司である部長は「市長に聞いてください」の一点張りであった。
そして、市長の記者会見が行われた。
「今回の職員の不幸な事件の原因は、家庭内の事情です」
「家庭内の事情については、個人情報に当たるので、お話はできません」
市長は、そう答弁した。
しかし、本当の理由は、仕事にあった。
その理由とはこうだ。
彼が担当した、ある企画書に対して、課長、部長を経由して副市長の決済を得られているはずであった。
そう、はずであったのだ・・・。
しかし、現実は、そうではなかった。
部長と副市長は、以前から犬猿の仲であった。
これは、職員であれば皆んなが周知してあることであった。
部長は、副市長の決済を仰がずに自分の所で決済文書を留めてしまった。
副市長に企画書が届いていなかったとしても、市長がその企画書の内容を理解していれば、問題はなかったのだが・・・。
事実、それ以前から、企画書が副市長を飛び越えて市長に渡る。
そういうことが常態化していたのである。
まったく組織として機能していなかったのだ。
さて、自殺した先輩の話しに戻ろう。
彼の企画した件について、市長はマスコミに自分に考えを答弁した。
その答弁の内容は、企画書とは真逆なものであった。
つまり、部長が副市長と市長に企画書の内容を伝えていなかったのだ。
まさか、そんなことことが有り得るのか・・・。
結局、彼の企画書が市長の答弁後に副市長に渡った。
市長の答弁と真逆な企画書は、副市長の逆鱗に触れた。
怒りに任せて、副市長は、男の先輩を呼び出して、会議室で半日もお説教をたれたのだ。
本来であれば、責められるべきは部長である。
しかし、部長と課長を飛び越えて、男の先輩に怒りの矛先が向いてしまったのだ。
このことに対して責任感感じた先輩は、自殺をしてしまったのであった。
その先輩が男の夢に出てきた。
遠くから男の方に向かって、先輩が歩いて来た
そして、彼は男に対してこう言ったのだ。
「俺やっと癒されたよ。時間がかかったけどやっと癒されたよ」
これだけ言うと、踵を返して元いた方へ行ってしまったのだ。
男が先輩に呼びかけても、先輩は振り向くこともなく行ってしまった。
「〇〇さん~」そう呼びかけた瞬間に目が覚めた。
「夢だったか・・・」
男はつぶやいた。
それまでにも、その先輩の夢は何度も見ていた。
夢の中で男が先輩に話しかけても、先輩が答えることは一切なかったのだが。
先輩の夢を見た日の朝は、いつもぐったりと疲れていた。
そして、夢を見る度に憤りと悲しみを感じていたのであった。
ところがである。
男がこの夢を見たその日から、先輩の夢を見ることはなくなったのであった。
あの夢からもう、10年以上が経過した今でもそうであった。
夢の中で先輩は「癒された」と言っていたが、本当に癒されたは、男の方だったのかもしれない・・・。
それでは、最後までお付き合いくださりありがとうございました。