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「スマホは脳を蝕むのか?」――デジタルデバイスが集中力と認知機能に与える影響を最新研究から探る


こんにちは。私はチェコの医学部に通う2年生の日本人医学生です。私は基本的に携帯電話が嫌いです。もう持ちたくないと思っているのに、現代社会では携帯電話を手放すことがほぼ不可能になっています。電話がかかってくること自体が鬱陶しく、たいていは面倒なことばかり。加えて、インスタグラムやLINEなどのSNSも距離を置きたいという気持ちがあります。最近では「LINE疲れ」や「インスタ疲れ」といった言葉もよく耳にしますが、まさにその感覚です。

私はLINEの通知をオフにしているものの、SNSやスマホ自体の存在が気になるのは、単なる意思の問題ではなく、賢い人たちが設計した強力なツールだからだと思っています。見ないようにする強い意志を持つことができるかどうかという話ではなく、そもそもその設計自体が抗えないものなのです。

その結果、勉強に集中するためにApple Watchを購入し、iPhoneはほとんどカバンの中か、家に帰ったら玄関に置きっぱなしにしています。最近の研究では、スマホの電源を切っていても、机の中やポケットにあるだけで集中力が低下することがわかっています。では、医学的にはどうなのか? スマホが私たちの集中力や認知機能に与える影響を掘り下げていきます。

スマホがもたらす集中力の低下:「スマホ疲れ」の実態

まず、スマホやSNSが集中力にどのように影響を与えるのか、研究に基づいて考察してみましょう。スマホ自体が日常生活に広く浸透し、その影響が社会全体に及んでいるため、スマホ疲れやデジタル疲労といった言葉が広く使われるようになりました。

  1. スマホの存在が集中力を下げる理由

2017年に行われた研究では、スマホが目の前にあるだけで集中力が低下するということが明らかになっています(Ward et al., 2017)。この研究では、スマホを机の上に置いた場合と、別の部屋に置いた場合で、人々の集中力に大きな差が出たことが確認されました。スマホは見ていなくても、ただそこにあるだけで脳の認知リソースを無意識に奪うという現象が起きているのです。

さらに、電源を切っていたとしても、スマホの存在そのものが気になってしまうことが多く、これが脳のパフォーマンスに悪影響を与えることが示されています。つまり、スマホを使わなくても、ポケットや机の中にあるだけで脳が分散してしまうということです。

  1. SNSによる「インスタ疲れ」「LINE疲れ」

また、SNSの使用は精神的にも肉体的にも疲労を引き起こすことが広く知られています。インスタ疲れやLINE疲れという言葉が示すように、これらのアプリは使い続けることでストレスや不安感を引き起こす可能性があります。

ある研究では、SNSの頻繁な使用が自己評価の低下やうつ症状のリスクを高めることが確認されています(Twenge et al., 2018)。特に、他人と自分を比較する機能が強いインスタグラムでは、自己評価の低下が顕著であり、常に他人の生活を覗き見ることで自分の現状に不満を抱くことが多くなるとされています。

スマホが脳に与える影響:医学的視点から見た認知機能の低下

スマホやSNSが私たちの集中力に悪影響を与えるだけでなく、脳の働きそのものにどのような影響を与えるかも考えてみましょう。特に、スマホの過剰な使用が認知機能の低下を引き起こす可能性について、複数の研究が報告されています。

  1. 注意力とワーキングメモリの低下

ワーキングメモリとは、一時的に情報を保持し、それを操作する能力のことです。日常的な問題解決や意思決定に重要な役割を果たしますが、スマホを頻繁に使用することがこのワーキングメモリに悪影響を与えることが分かっています。

2015年の研究では、スマホ使用が増えると注意力の低下やワーキングメモリの機能が低下することが示されました(Wilmer et al., 2017)。これは、スマホが絶えず通知を送り、私たちの注意を引こうとするため、脳が**「マルチタスクモード」に切り替わってしまう**ことに起因しています。結果として、脳が一つの作業に集中する能力が低下し、作業効率が下がることになります。

  1. ドーパミンシステムと依存症のリスク

スマホやSNSの使用は、脳内のドーパミンシステムにも影響を与えます。ドーパミンは「報酬」を感じる神経伝達物質であり、スマホを使っているときに通知が届くと、脳は報酬を受け取ったと感じ、次々とスマホに手を伸ばすようになります。これは依存症のメカニズムと似ており、SNSやスマホに対する依存症のリスクが高まる原因となります(Montag et al., 2018)。

スマホを使うたびにドーパミンが分泌されると、脳はその報酬を追い求めるようになり、結果としてスマホの使用がやめられなくなるという現象が起こります。スマホ依存症の問題は深刻であり、精神的な健康にも悪影響を与える可能性があることが示されています。

Apple Watchの導入とスマホとの適切な距離感

そこで私が導入したのが、Apple Watchです。Apple Watchを使うことで、スマホを頻繁にチェックしなくても、必要な通知だけを手首で確認できるため、スマホ依存からの解放に役立ちます。

  1. 通知を最小限にフィルタリング

Apple Watchの最大の利点は、通知を最小限に抑えられる点です。スマホのようにすべての通知が次々と表示されるわけではなく、自分が本当に必要とする情報だけを選んで受け取ることができます。これにより、スマホにアクセスする回数が大幅に減り、無駄な情報に気を取られないようにできます。

医学的な研究でも、スマホからの通知を減らすことで、認知負荷を軽減し、注意力や作業効率が向上することが示されています(Kushlev et al., 2016)。

  1. スマホとの距離感を保つ効果

Apple Watchを使うことで、スマホをポケットや机の中に入れっぱなしにしておけます。家に帰ったら、スマホを玄関に置いてしまうことで、スマホとの距離感を物理的にも保つことができるのです。この習慣を持つことで、スマホの存在に気を取られることなく、集中した作業や勉強ができる環境を整えることができます。

さらに、スマホの存在がもたらす無意識の認知負荷も減少するため、脳のリソースを一つの作業に集中できるようになります。

結論:スマホからの解放は「意思」ではなく「環境づくり」がカギ

結論として、スマホやSNSが私たちの集中力や認知機能に与える悪影響は、単に「見ないようにしよう」といった意思の問題では解決できません。スマホやSNSは、設計そのものが私たちの脳に訴えかけ、注意を奪うように作られているため、意志の力で抗うのは困難です。

そのため、スマホからの解放には、物理的な距離を置く環境づくりが最も効果的です。Apple Watchのようなデバイスを使って、必要な通知だけを受け取りつつ、スマホとの距離を保つことが集中力を維持するための最適な方法です。医学的な視点からも、通知のフィルタリングやスマホの物理的な距離感が脳に与える負荷を軽減し、集中力を高める効果が証明されています。

参考文献

  1. Ward, A. F., Duke, K., Gneezy, A., & Bos, M. W. (2017). Brain drain: The mere presence of one’s own smartphone reduces available cognitive capacity. Journal of the Association for Consumer Research, 2(2), 140-154.

  2. Twenge, J. M., Joiner, T. E., Rogers, M. L., & Martin, G. N. (2018). Increases in depressive symptoms, suicide-related outcomes, and suicide rates among US adolescents after 2010 and links to increased new media screen time. Clinical Psychological Science, 6(1), 3-17.

  3. Wilmer, H. H., Sherman, L. E., & Chein, J. M. (2017). Smartphones and cognition: A review of research exploring the links between mobile technology habits and cognitive functioning. Frontiers in Psychology, 8, 605.

  4. Montag, C., Wegmann, E., Sariyska, R., Demetrovics, Z., & Brand, M. (2018). How to overcome taxonomical problems in the study of internet use disorders and what to do with “smartphone addiction”? Journal of Behavioral Addictions, 7(4), 608-612.

  5. Kushlev, K., Proulx, J. D., & Dunn, E. W. (2016). “Silence your phones”: Smartphone notifications increase inattention and hyperactivity symptoms. Computers in Human Behavior, 63, 160-167.

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