見出し画像

CSA&TEIKEI━━日本から世界に広がる地域支援型農業

CSA(community supported agriculture)をご存知でしょうか?

訳すと”地域支援型農業”その名の通り、地域コミュニティによって支えられた形態の農業ことです。
生産者と消費者が連携し、業者を介さずに直接契約で野菜を定期購入する仕組みによって運営される諸団体が世界各国各所で設立されています。
主に欧米における有機農業と結びつく形で、近年急速に普及しました。気象状況や病害虫など不安定な要素に左右される有機農業を、生産者と消費者が一丸となって守るというコンセプトが多くの支持を集めています。


広がるCSAのつながり

お互いに顔の見える形でのやり取りを行うことで、買い手は食の安全を自分の目で確かめることができます。強い結びつきのもとで生産に従事することで、作り手である農家は安定した営農が可能となります。

今も目まぐるしく進歩している農業技術は、生産の大幅な効率化と安定化をもたらしました。一方で、生産者と消費者の関係性は希薄なものとなり、技術の高度化も相まって生産の現場において何が行われているのかが次第に不明瞭なものとなっていきました。

経済効率を優先するあまり、食の安全が知らず知らずのうちに脅かされている。効率化を押し進められた農業は土壌を加速度的に疲弊させ、このまま進めばもはや持続不可能な状況に陥ってしまう。こうした現状に”NO!”を訴える人々によって、CSAは今も拡大しています。

CSAのルーツ  ”TEIKEI”

世界的な広がりを見せるCSA、実はそのルーツは日本にあるということをご存知でしょうか?

CSAの活動は、かつて1970年代の日本における有機農業運動の中で生まれた”提携”を実践するものです。
生産者と組合員が一つになって、”いのち”を守り繋いでいこうという”提携”の精神は、”TEIKEI”となって今、世界に伝わっています。

先進的に有機農業を推進する欧米諸国と比べると大きく遅れをとってしまった日本の農業界ですが、過去においては世界的に大きな影響を与えてきた実績があります。
国から打ち出された”みどりの食料システム戦略”によって有機農業の大掛かりな推進がなされていくことになりましたが、今このタイミングで”提携”に立ち返ってみる必要を感じます。世界で支持される”TEIKEI”の逆輸入です。

かつて日本全国各所で巻き起こった有機農業運動。様々な団体が設立されていて”提携”の概念も必ずしも一様のものでは無いようですが、共通する考え方としていくつかのキーワードを挙げることができます。

有機農業
食の安全を守り、環境を保全するものとして有機農業を推進する。
相互扶助
 生産者と消費者は対等の立場で助け合う。直接相対する、顔と顔の見える関係性を築く。
地域自給
地域に根ざした生産と消費の流れを作る。大規模な物流に依存しない。
適地適作
生産者は地域に適した生産を行ないながら互いに協力して産地リレーを行なう。消費者はそのことを十分に理解して季節ごとの生産物を楽しむ。
民主的運営
一部のリーダーに依存せず、生産者も消費者も同じ当事者として話し合い、総意のもとに運営する。
援農
消費者は生産物を購入するだけでなく、生産者のもとを訪れて体験的に農業に携わる「援農」を通して直接的に生産者を支えることもある。

これらの特徴は海外におけるCSAにもほぼそのまま見受けられるものです。
日本国内でこそなかなか認知されていない”提携”ですが、もっともっと世界に誇っていいものであるはずですね。

背景にあるもの:3つの問題

日本の有機農業運動が巻き起こったのは複数の公害問題が露見したことや有吉佐和子の『複合汚染』などによる啓蒙をきっかけとしたもので、環境問題と食の安全性への不安と強く結びついたものでした。
海外においてCSAの活動が広まっている背景として、安全性への配慮はもちろんとして、「持続可能性」という側面が重視されるようになったように見受けられます。
さらにここ近年、あらわになったのは農業が抱える「脆弱性」の問題です。
コロナウィルスの流行によって滞ったインフラ、不安定な世界情勢によって遮断された物流。必要とする資材の大部分を海外に依存している日本にとってはなおさら深刻です。
世界で核紛争が起こった時、核兵器による死者数よりもその後に起こる物流の停止が引き起こす飢餓による死者の方が圧倒的に多数となると危惧されていますが、なんとその3割は日本に集中するという試算まであります。(世界で最初に飢えるのは日本 食の安全保障をどう守るか / 鈴木 宣弘【著】)

世界においてCSAが推奨されているのは「安全性」「持続可能性」、そして「脆弱性」を克服し得る「堅牢性」、3つの観点からですが、日本においてこそ必要とされる試みなのではないかと思えてなりません。”提携”を訴えてきた先人からすれば「何を今さら」という感じでしょうが。

数十年スパンで引き起こされる「安全性」にまつわる問題、百年ないし数千年の長きにわたって考慮されるべき「持続可能性」の問題、そして一瞬で崩壊してしまう恐れのある「脆弱性」の問題、全てに対応できる農業の形を考えた時、やはり「産消提携」に行き着くように思います。

と言うことで世界で広がるCSAと、そのルーツである”提携”の重要性について綴ってみました。

もうちょっと深堀りして書いてみたいです。
・なぜ”提携”は少量多品目なのか?
・CSAが広がったのは不耕起栽培=日本の自然農の影響?
そんな感じのテーマで。

お付き合い下さりありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?