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【今日想うこと】

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記事一覧

本送り

ひとけのない並木道

孤独のベンチに

無造作に置かれた

一冊の本は

取らざるを得ない

手を俟っている

書き手の想いに

読み手の想いを乗せてゆく

魂の本送り

本を愛する者たちを

紡ぐ暗号は

本に生きる者たちの

終わりのない物語

「あ、誰かベンチに本を忘れてるね」

「いや、あれは忘れていったんじゃないんだ」

私がスペインに住み始めた

スマホもなく

SNSも当たり前ではな

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何気ない夜

幼い頃

母の愛が全てだった私は
母が台所で夕食の支度をする時には
必ず側にいて
冷蔵庫から食材を取ったり
たまにお鍋の中をかき回す役を仰せ付かっていた

ある夏の夜
母が言った
散歩に行くけど一緒に行く?

夕食を食べ
母が食器の片づけを済ませ
エプロンを脱ぎ捨てた時だった

普段の母なら
テレビを観たり
大好きなお風呂に入ったり
疲れた一日を癒す
安らぎの時間

母が散歩に誘われることなど

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ここにあるもの

与えるものでもなく

求めるものでもなく

探すものでもなく

貰うものでもない

ただ感じること

いつも、そこにある

いつも、ここにある

ただそれを感じること

懐かしい夏の映画館

懐かしい夏の映画館

久しぶりに以前住んでいた場所の近くを通った。夫と二人、懐かしい道を歩きながら、あるスーパーマーケットの前を通り過ぎようとした時「昔、ここに映画館あったよね」と夫が言った。

夫の何気ない不意な言葉で、懐かしい真夏の夜を想い出した。「そうだったね。大好きだったのにな、あの映画館」長い間、思い出すことのなかった記憶が蘇ってきた。

夏の夜の匂い。映画館の独特の音。大量のポップコーン。冷たいプラスチック

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魔女は突然やってきた

魔女は突然やってきた

私には小学生の息子がいる。スペインの小学校は親が子供の送り迎えをするので、今朝もいつものように息子を学校に連れて行こうと準備をしていた時のこと。

息子は昨日転んで足を怪我して、少し足を引きずって歩いていたので、彼のパンパンのリュックを私が担いでいこうと思い立った。

重たいリュックを持ち上げようと、少し力を入れた瞬間…「ギクッ」

身体から悲鳴が聴こえた。

腰に激痛が走った。突然立っていられな

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ジャイアンが愛される理由

ジャイアンが愛される理由

「のび太より、私の方がドラえもんが必要だ」と何度思ったことだろう。

1番ドラえもんに貸してほしかった道具は、「どこでもドア」。次に空飛ぶ「タケコプター」寒がりの私には「あべこべクリーム」も魅力的だ。

のび太は本当に幸せものだと思う。ドラえもんを独占できるだけでなく、いつも信頼できる仲間に囲まれている。何度ケンカしようとも、騙し、騙されようとも、お互いを許し合い、奥の深い所で繋がったまるで魂のフ

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雨

今日は雨。幼い頃、雨の日は憂鬱だった。公園で遊べないし、靴下もビショ濡れ。暗い空は気分も沈んで一日損した気分になった。

気づけば年齢だけが大人になって、私は結婚して母になった。それでも、やっぱり靴下はビショ濡れ。買い物も、洗濯もひと仕事増える雨の日は、やっぱり損をした気持ちになった。

でも、今、私は雨が好きだ。

夫の実家で過ごしたある雨の日。夫の母が言った言葉が私の雨に対する概念を変えてくれ

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