本送り

ひとけのない並木道

孤独のベンチに

無造作に置かれた

一冊の本は

取らざるを得ない

手を俟っている

書き手の想いに

読み手の想いを乗せてゆく

魂の本送り

本を愛する者たちを

紡ぐ暗号は

本に生きる者たちの

終わりのない物語




「あ、誰かベンチに本を忘れてるね」

「いや、あれは忘れていったんじゃないんだ」


私がスペインに住み始めた

スマホもなく

SNSも当たり前ではなかった時代

公園や並木道に備えられたベンチで

時々、本を見かけることがありました。

私はてっきり、忘れていってしまったのだろうと…

でも、それは

忘れ去られたわけではなく

本を読み終えた人が

お次の方どうぞ…

という恩送りならぬ

本送りの習慣だったんです。

本屋で物色したわけでもなく
図書館で探しまくったわけでもなく
誰かに勧められた本でもなく
アマゾンでポチっとしたわけでもない

その瞬間に
ベンチの前を通り過ぎることがなければ
出会えなかった本

誰が始めたのか分からない
書き手と読み手の魂を紡いでいく

そんなベンチの本送りは

手に取ることも
そのまま置いておくことも
自由に選択できる運命の分かれ道

ベンチに置かれた本は
その本の想いを繫ぐべき手を知っている

私はそこに既にある
そんなもう一つの物語りを感じたものです。

今は電子書籍も普及で
めっきり見かけなくなってしまった
ベンチの本送り

でも先日、久しぶりに見かけたんです。

なんだか心がポっとして

そんなことを思った記憶が蘇りました。

自然とベンチと本の組み合わせって最高ですよね。
私は飲み物は特にいらない派です。
一ページ目をめくる前の味しか覚えておらず、
こっちの世界に戻ってきたときには、冷え切ってるか
薄まっているかなので。笑

最後までお読みくださり有難うございました。

今日も皆さんが素敵な物語りに出会えますように!


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