西丘塔子

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  • 【気まぐれポエム】

    時々気まぐれに書いたポエムをまとめています。

  • 【今日想うこと】

    今日の出来事や、気に止まったことを書き留めています。

  • 短編小話【相笠の女】

    5話完結の短編小話です。

  • 【ちょっとした小話】

最近の記事

カメレオンの朝

雪山から吹き抜ける 冷気のマフラーが 絡みつく 生温い吐息を糧にして 重たい身体を引きずり クローゼットをこじ開ける 昨日の私など とっくに私ではない 昨日の言葉も 描いた夢も 本当の色も 本当の色などないことも とっくに忘れてしまった 私であることの意味も 分からないまま 今日の色を選び 色を変える必要のない 誰からも見られることのない 暗闇を探す やっと見つけた 静寂の闇の中で 息を潜めながら 七色を放ち 誰かに見つかる朝を待っている

    • 半人前小賊

      山を越えても 谷を越えても 淀んでいく足跡 陽光の温かさを忘れ 当たり前にように 掠めていく手で 身を引き裂いて 砂に変わるだけの 戦利品の袋を 穿鑿されることを どこかで願いながら 目覚めた夜が 最後の夜のように 空腹を倦める星を眺める 拐す心では 満たすことのない 明日の 大きな 大きな 宝を夢見て

      • 片想い

        いつも笑顔の君だけど 今日はなんだか曇り空だね 少し脱力した鼻声で 濡れた前髪を整える君の手が まだ僕の知らない君が そこにいることを 突きつけてくるんだ みぞおちの拳がギュッとして 無防備な君を守ってあげたくなる 新しい君を知っていく度に 今までの僕を失っていく 君に出会えたことを 大切に思う度に 君に出会ってしまったことを 後悔してしまう 恐怖と夢想の もどかしい渓谷の狭間を 僕は上ったり、下ったり そして、また 下ったり、上ったり

        • 何気ない夜

          幼い頃 母の愛が全てだった私は 母が台所で夕食の支度をする時には 必ず側にいて 冷蔵庫から食材を取ったり たまにお鍋の中をかき回す役を仰せ付かっていた ある夏の夜 母が言った 散歩に行くけど一緒に行く? 夕食を食べ 母が食器の片づけを済ませ エプロンを脱ぎ捨てた時だった 普段の母なら テレビを観たり 大好きなお風呂に入ったり 疲れた一日を癒す 安らぎの時間 母が散歩に誘われることなど 今までなかった 幼い頃 一家で外食することも頻繁でなかった我が家 夏の夜に外出

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        • 【気まぐれポエム】
          31本
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        • 短編小話【相笠の女】
          5本
        • 【ちょっとした小話】
          3本

        記事

          今夜はパーリ・ナイ

          本物の愛を探してるって? 君の名前? 君の年齢? 君の仕事? どうでもいいさ 僕の名前? 僕の年齢? 僕の仕事? それを言ったら信じてくれるのかい? 暗闇に光るライトより 燦然と輝く君のオーラが見えたんだ 髪飾りが落ちた瞬間 君のことしか見えなくなったよ 君の素顔 太陽の下じゃ見つけられない 狂気に踊る君の姿 君を知るには充分さ ハニー 昼の君はきっと小枝のように 心細いんだね 君のステップが僕の鼓動 ハニー 一緒に行こう 名前など

          今夜はパーリ・ナイ

          詩人の道

          詩人の道を歩く あの高台のてっぺんから いったい何が見えたのか 木陰で休む小鳥のさえずりに いったい何が聞こえたのか 荒々しい砂利を踏んだ蹠に いったい何を感じたのか 眠るような川のせせらぎ 愛撫する日差しの香り 花樹の蕾の刹那の知らせに いったい何を悟ったのか 行き先を決めてくれるそよ風と共に 寂寥の騒めきを 歓喜の探求心で辿れば 駆け足で巡る季節を ゆっくりと噛み締める 足音が聞こえてくる 一枚一枚 落としていった 言の葉を 胸いっ

          アート

          純白の羽根が揺れながら宙に浮く 落下していく羽根を摑まえられずに 空を見上げると 落ちゆく枯れ葉が手のひらに蹲った どこからか現れた蝶が無心に踊り 通りすがりの赤ん坊の微笑みのように キャンバスが移り変わる 毎秒一点もの 絶妙な色使いと描写、しかも無料 この壮大なアートに 色を足すことなど 線を描くことなど 何かを生み出せるとでも思っていたのか 殲滅されたハートが消沈していく その瞬間さえも アートに変えてしまうこの世界で 一体何に抗おうとして

          部屋の片隅

          誰よりも私のことを知っている 私を慰めてくれたベッド 私を癒してくれたソファ 私の涙を拭いてくれたクッション 私の怒りも焦りも虚しさも 全てを吸収してくれた壁 私の全てがあったこの部屋 思いが詰まった部屋の片隅 空っぽになった部屋の真ん中に立つ 君を置いていくような 申し訳なさと 寂しさと ありがとうの思い たまに君のせいにしてごめん 明日を見せてくれた窓が この美しい空を教えてくれた いつか、思い出す 君の眼差しがいつも私を救ってくれていたこと

          部屋の片隅

          僕NOポケット

          ビッチョと僕はいつも一緒 公園に行くときも 幼馴染の家に遊びにいくときも ビッチョは僕の紺色のズボンのポケットに ひっそりと隠れていたんだ ビッチョは柔らかくて、温かかった 学校で嫌なことがあっても ママやパパに叱られても ビッチョがいると悲しくなかった でもビッチョのことは誰にも言わなかった ビッチョの存在を秘密にすることで 僕はたくさんママに嘘をつくようになった ピンクの花が咲いた朝 目が覚めて、履こうとしたら 紺色のズボンがなかったんだ ママが僕に内緒

          僕NOポケット

          木枯らしの向こう側

          扉を開けて、ただ歩きだす 今日はモノクロームの世界か 姿のない鳥の声が、必死に訴えかけ 生ぬるい風が、Tシャツを湿らせて 合図のように騒ぎ出した樹冠の その先にある色を確かめたい衝動にかられる 枯渇した花のようにこうべを垂れた老人が静かにベンチに座り 耳に掛けたイヤホンを揺らす若者が空を見上げてその前を通り過ぎる 枯れ葉の豪雨の音が鳥の鳴き声を遮る 真実を描いたグラフティの壁側だけ身体が熱くなる 温かく巡る血の跡を辿った先には モノクロームの向こう側が蘇

          木枯らしの向こう側

          朝影

          カランカラン。 来店を告げる鐘の音。 日曜の午後にはボサノバが流れる店内に響き渡る。 食器が触れ合う音といつもの香り。 温かい湯気が乾いたそよ風を湿らせる。 緑溢れるテラス席へ通じる白い扉から、朝いっぱいの日差しが、屋内の大きなテーブル席を照らしている。 居るだけで心地よい店内をぼっーと眺める。 今日はカウンターのあの子がいないな。 だから、ボサノバが聞こえないのか。 まだ夢とこの世界の境界線を彷徨っていた時、突然、脳内に聞いたこともないない衝撃音が鳴り響いた。

          刹那色のウインドー

          刹那色のウインドー

          あの日のアジト

          あの日のアジト

          【相笠の女#5】男と女の隠れ家

          相笠の女【第5話】男と女の隠れ家 ひとけのない河川敷。 静かに流れる川の音。 朝空を待つ暗闇の中に、ぼんやりと灯が浮かんでいる。 灯の方へと近づく足音が、橋の下で止まった。 青いビニールシートで覆われた小屋がポツンと佇んでいる。 風に吹かれてやってきた優しい雨が、しっとりとシートを濡らしていた。 「兄さん、ショバを変えるなら事前に知らせておくれよ」 女は花柄の傘を畳みながら、小屋へと入っていく。 継ぎはぎだらけの段ボールの部屋が温かい。 「仕方なかったんだよ。あ

          【相笠の女#5】男と女の隠れ家

          【相笠の女#4】時代に翻弄される男

          相笠の女【第4話】時代に翻弄される男 そう、それは、にわか雨とともにやってくる。 「だから傘を忘れちゃいけないよ」 街であの鮮やかな花柄の傘を見つけたら、あの女かもしれないからね。 もし無人島にこの女と取り残されたら、何日生きていられるだろう。 ふとそんなことを考えながら、しとしと降る雨の中を行きずりの謎の女と一緒に相笠をして歩いていた。 一体なんでこんなことになっちまったのか。 10分前の記憶を辿る。 俺はコンビニで大量のカップ酒とつまみを買い込んでいた。 店の

          【相笠の女#4】時代に翻弄される男

          【相笠の女#3】花しか愛せない女

          相笠の女【第3話】花しか愛せない女 そう、それは、にわか雨とともにやってくる。 「だから傘を忘れちゃいけないよ」 街であの鮮やかな花柄の傘を見つけたら、あの女かもしれないからね。 今日も無理かな。 自然に憂いなため息が出る。 ビルの合間に吹く冷たいそよ風に乗った甘い薔薇の香りが、オフィス街の喧噪に消えていく。大通りから一本外れた日陰の裏道に入ると、ひんやりとした空気が黙ったまま佇んでいた。 まるでトンネルね。 急ぎ足で狭い小道を通り抜けると、閑静な住宅街に出た。

          【相笠の女#3】花しか愛せない女