悪戯

帰り道、先を歩くあなたにちょっとした悪戯をしてみる。

左向け! 左!!

不意に思い立って念じてみたら、そっちを向いた。

すごい!!向いちゃったよ!

思いが通じてちょっと感動。

でも、偶然かもしんないし。

もう一回!

右向け! 右!

今度は反対方向へ念じてみたら、向いた。

すごい! また向いちゃったよ!

もしかしてあたしってエスパー!?

なんて、馬鹿なことを考えた。

でも。

こんな偶然あんまりないし……。

思考の中に、間が出来た。

この際だから、聞きたい事、聞こうかな?

思った瞬間、鼓動が早まる。

自分の小さな思い付きに、ぴたりと歩みが停止した。

でもなぁ。

思うや否や、臆病風が吹き込んで、気持ちの中でも逃げ腰になる。

いやいやいやいや、無理無理無理無理。

その発案を否定して、あたしは再び歩き出す。

……でもなぁ。どうしようかなぁ。

あなたの姿をこの眼で捉えて悶々と、馬鹿らしいほどに葛藤していた。


……。

……。

ええいままよと心が叫ぶと、葛藤の針がYESに振れる。

その勢いで、ありったけの勇気を絞って聞いてみた。

あなたは、あたしの事が好きですか? 好きなら左を向いてください!

決死の気持ちで念じたあたしは、不安で瞑った目を開く。

恐る恐る視線を向けると、あなたは見事に左を向いていた。



……………向いた。


向いたぁぁぁぁぁあ!

赤い顔してひとりじたばたしてしまう。

そして、突き抜けるほどの息苦しさを感じると、途端に頭が冷えてきた。

何やってんの。あたし………。

勝手に考えて、勝手に興奮してる。

バッカみたいね。我ながら嫌になっちゃう。

自分で呆れたそんな時。

あなたが赤い顔して振り返り、私に思いを告げて来た。



案外、悪戯もいいものね。

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