トキユ
幼馴染みラブコメを連載形式で綴りました。
オムニバス形式の短編恋愛小説集。
望月麻衣先生 (https://note.com/maimotiduki0314)が企画なさっている『金曜日のショートショート』に参加させていただいた作品です。
男の子と女の子、交互の視点で語られる話です。 青春の甘酸っぱさを目指してみました。
連続投稿のポップアップが出ないので、確認の為にこれを投稿します。 【22:39追記】 出ました。40日目でした。
~幼馴染みのボクらの話 シリーズ外伝~ 「ここ」 そう言って足を止めた場所は神社の休憩所。 「ここで待ってて。込んでっからさ」 幸弥はそう言って、一人どこかへと向かう。目でその姿を追えば、幸弥は何かを買っているようだ。 「ほら」 戻ってきた幸弥が都の眼前に手を差し出して開く。 「わぁ、可愛い」 目の前にぶら下げられたそれはピンクの四角い布だった。 「お守り?」 目の前の物を認識すると、瞬いて小さくつぶやいた。 そうして幸弥を見上げ「ご利益は何?」と問いかける。 すると問い掛
~幼馴染みのボクらの話 シリーズ 外伝~ 思えば、ここで離れたのがいけなかったのだ。 どうして、手を繋いでおかなかったのだろうか? 「うぇ……幸弥ぁ」 幸弥とはぐれて、もう既に三十分。 相変わらずの人の波はますます増えていくばかり。 飲まれそうなくらいに人がいるのに、都はひとり取り残され、たった独りぼっちになってしまった気がしていた。 夜独特の、どこか落ち着かない雰囲気が持つ寂しさに当てられているのだろうと思いはするが、心細さは容赦なく襲ってくる。 携帯も一切通じなかった
~幼馴染みのボクらの話 シリーズ 外伝~ 「似合うじゃん」 待ち合わせ場所についての第一声。 いつもの口調で、でもちょっと照れたように嬉しそうに口元を上げ、そう褒められて都はすごく嬉しかった。 神社に着くとまず目に付いたのは、溢れかえりそうな人の波。 それを見ただけで疲れが出そうだ。 「っし!! 行くか!!」 同じ事を思ったのか、幸弥は頬を自ら叩き、これからの戦闘に備えて気合を入れる。 そんな幸弥を横目で見て、心配そうに都が言った。 「ねぇ。大丈夫なの? 人込み大変だよ?た
~幼馴染みのボクらの話 シリーズ 外伝~ 「幸弥ぁ……」 人込みで賑わう神社で目を潤ませ、悲しそうにそう呼ぶ都はまるで幼い子供のようだ。 今日は一月一日。言うまでもなくお正月である。 『次の仕事までの間なら、時間があるから初詣にでも行くか? つか、俺が逢いたいんだけど、どうっすか?』 大みそかのライブを終えた後、空白時間が出来るから。 と珍しく、幸弥は意外な時間帯のデートを申し込んできた。 都の彼、田野端幸弥はインディーズバンドのベースとドラムを担当している。 知名度は高く
~幼馴染みのボクらの話 シリーズ 9~ じっと、大介は花穂を見つめる。 真摯な瞳を受け、彷徨わせた視線は、何と言うべきか迷っている証。 その行動に答えを見たが、花穂からきちんとした答えを聞くまでは大介は何も言わない。 「あ、の」 真っ赤になって必死に絞り出す、花穂の声は震えていた。 「………………ごめん!!」 そういって耳から携帯を離すと、そのまま切った。 「ごめんあの、好きとか言われてもなんか、どうしていいかわっかんない!!」 顔を赤くして頭を押さえ、困ったように大介を窺
~幼馴染みのボクらの話 シリーズ 8~ 花穂は会話の邪魔になってはいけないとその場を離れて、その様子をわくわくと見守っているとふいに自分の携帯が鳴る。 あまりのタイミングの悪さに眉を顰め、一瞬無視してしまおうかとも思ったが、大事な連絡かもしれないと思い直し、渋々電話に出た。 「はい、もしもし」 しかし、先方からの返答がない。不審に思ってもう一度呼びかける。 「もしもし?」 「俺」 「はい?」 その声に花穂は素っ頓狂な声を出す。声の主は大介だった。 「ちょっと、なんであたしに
~幼馴染のボクらの話 シリーズ 7~ 「ったく。しっかり目覚ましで起きてよね!!」 「しゃーねーだろ? 俺ってば低血圧なんだから」 悪びれる様子もなく言ってのける大介に、花穂の目が吊り上がる。 「理由にならない!! 全くあんたって昔からそうなんだから!!」 今は夕方。学校が終わり二人して帰路についている。 相変わらず起きが悪い大介のせいで、今日も遅刻寸前だった。 叩き起こす仕事から解任されたいもんだわ。と花穂はつくづく思って目を眇める。 「あ」 「あ? どうした?」 花穂が
ある処に、嫌われ者のレモンくんがいました。 『レモンって、すっぱいからきらーい』 『葉っぱがとげとげしてるから、触ると痛いんだ』 みんな口ぐちに言い、レモンくんに近寄ってくれる人は一人もいません。 「ぼくはひとりぼっちのほうがいいんだ……」 レモンくんは次第に誰とも遊ばなくなりました。 ある日、レモンくんが道を歩いていると。 「ワンワンワンワン!!」 大きな犬が、これまた大きな声で吠えていました。 レモンくんがびっくりしてまたたきをしていると「うわわわわ!」という声が
~幼馴染みのボクらの話 シリーズ 6~ 「何よわからずや!!」 「あんだよこの石頭! そんなんだから、いくつになっても彼氏の一人も出来ねえんだよ! いい年して可愛くねぇ!! ちっとはしおらしくなれよな!」 あれから三年。無事に大学生となった彼らは、相変わらず音楽活動を続けていた。インディーズながらそこそこ人気のバンドになりつつある。 一定数のファンが付き、インディーズコーナーに置かれたCDが在庫を溜めずに売れてくれているというまだまだな状況だったが、まあまあ順調なバンド人
~幼馴染みのボクらの話 シリーズ 5~ 「……へー」 ある程度の説明を受けると、人事のように数人から呆然と声が漏れる。 「……へへっ、すっげえなあ」 「本当。こんな、凄いプロジェクトのマネージャーなんて、出来るかしら」 幸弥から驚きに声が漏れ、つられた花穂が少し自信なさ気につぶやく。 「大丈夫だよ。言葉とか文字にしちゃうと大仰だけど、実際経験しちゃえばあっという間だから。ね?」 と花穂の不安を取り去るべくテルが説明する。 「まあ、マネージャーとは言うけどね。僕らの手伝いをし
~幼馴染みのボクらの話 シリーズ 4~ 大きなホワイトボードが目立つ、無機質な部屋。 半分はバンドセットで埋め尽くされている。 「やあ、花穂ちゃん。よく来てくれたね。これからよろしく」 迎え入れたテルがにっこりと笑う。 「テルくん。あたしまだ、決めて無いんだけど?」 向けられた笑顔に花穂もにっこりと笑顔を返して、爽やかにそう返す。 「えぇ? 寂しいなぁ」 テルはその返答に、眉を下げつつ苦笑した。 「正直ここで断られると、ちょっと困っちゃうんだよね。近いうちにハウスを借りてラ
~幼馴染みのボクらの話 シリーズ 3~ 放課後、いつものように自分達のバンドのミーティングルームに向かう大介は、付いて来いと花穂を先導するように前を歩く。 「本来ならば女人禁制のミーティングルームなんだぞ」 何をそんなに嬉しそうに語るのかはわからないが、とにかく花穂は僅かに浮かれているように感じる背中に付いて行く。 そもそもまだマネージャーの件についてはOKは出していないのに、もうすっかり決定事項と捉えている大介に、もう諦めるしかなさそうだなと花穂は密かに腹を括る。 なに
~幼馴染みのボクらの話 シリーズ 2~ 今は七月で、北海道は短い夏だ。 半歩前を行く大介を見るともなしに見て、いつの間にこんなに背が高くなったのかと花穂は思う。 昔は私の方が高くて、つい最近まで同じくらいだったのに。 ちょっとずつちょっとずつ大きくなって、あっという間に追い越して。 今ではすっかり見上げる形を取らざるを得ないくらい、身長に開きが出てしまった事が悔しかった。 ちらりと、黙って横を歩く腑抜けた幼馴染を見やる。 背は抜かれたが、中身はあたしの方が上だし、まあそ
~幼馴染みのボクらの話 シリーズ 1~ 「大介! いつまで寝てんの!? 学校遅刻するよ!!」 入ってくるなりけたたましく喋りながら、花穂はベッドで眠る大介の掛布団を引きはがす。 「ったく、こうも毎日遅刻じゃあ、そのうち単位足りなくなって退学になっちゃうよ! 毎晩毎晩練習すんのは結構だけど、とばっちり食うのはいつもあたし」 「お前、俺達のマネージャーになれ」 「はっ?」 朝七時三十分。ベットから起き上がった寝ぼけ眼の大介は、小言をぶちまける幼馴染の言葉を遮って、開口一番そう
「お前、これ好きだったろう」 アルバムを見てた私に、父は一口サイズのチョコレートが詰まっている箱を差し出した。 そして私の横に座り、ただ黙ってアルバムに目を落とす。 いつもより寡黙な父に、ページを捲る音だけが響く。 「あ」 一枚の写真に思わず私は手を止めた。 肩車されて嬉しそうな私と父が、写真の中で笑っている。 『ねえ、女の人って結婚すると名字が変わっちゃうの?』 『え? なんだ急に?』 『だって、幼稚園のお友達が言ってたの』 『そうか。うん、そうだな……確かに変わるぞ』