事業再構築補助金 攻略の研究<第7回>
『事業再構築の必要性』についての論旨展開ができたら、いよいよ事業再構築の具体的取組の計画策定に取り掛かることになる。しかし、この補助金制度では、第5回で説明したように、いわば事業再構築への移行期間である補助事業期間と、準備が整って走り出す事業計画期間とに分かれている。今回の対象は前者だ。この移行期間に建物改修や設備導入・撤去あるいは販売促進などの経費がかかり、この経費の一部を補助されるわけだから、もっとも重要なセクションと言ってもいいだろう。
§7 事業計画策定のポイント(2)
あらためて今回の対象は次図の部分である。このセクションの目的は、事業再構築の具体的内容が当社に適切であり、補助金支出の妥当性を訴求することである。
補助金は、すべてこのセクションに記述された内容から発生する。そのため審査項目も多い。該当すると思われるのは下記だが、要するに、実現性(その計画は遂行できるのか)と実効性(その計画でうまくいくのか)を訴求しなければならないのだ。
(2)事業化点
① 本事業の目的に沿った事業実施のための体制(人材、事務処理能力等)や最近の財務状況等から、補助事業を適切に遂行できると期待できるか。また、金融機関等からの十分な資金の調達が見込めるか。
(3)再構築点
① 事業再構築指針に沿った取組みであるか。また、全く異なる業種への転換など、リスクの高い、思い切った大胆な事業の再構築を行うものであるか。
③ 市場ニーズや自社の強みを踏まえ、「選択と集中」を戦略的に組み合わせ、リソースの最適化を図る取組であるか。
④ 先端的なデジタル技術の活用、新しいビジネスモデルの構築等を通じて、地域のイノベーションに貢献し得る事業か。
審査はセクションごとに行われるわけではなく、事業計画全体を通して審査される。そのため上記項目の一部は次の「2.将来の展望」で述べることにして、ここでは補助事業(事業再構築への移行)の実現性に集中するのがいいと考えられよう。
(1)取組内容、こここそが本丸である。きわめて具体的に記述しなければならない。事業再構築の類型によって書くべき内容は異なるが、新製品や製造方法 / 提供方法の変更などの新しい取組みの説明には細心の注意を払いたい。たとえば次のような記述が求められる。
従来は・・・だった。しかし・・・である。
そこで当社の強みである〇〇〇を活かして、・・・を開発する / と変更する。これにより従来は不可能であった・・・を実現することを目指す。
<第3回>例2 中華料理店における餃子の無人販売
当店では従来より餃子の人気がきわめて高く、わざわざテイクアウトするために来店する顧客も多かった。しかし営業時間外であったり、テイクアウトだけのために飲食の場である店内に入るのを躊躇する顧客に対しては、餃子を提供できなかった。そこで自動販売機による餃子の提供を開始する。これにより無人販売、非接触販売、24時間販売を可能にする。
自動販売機で販売する餃子の種類は・・・で、価格帯は・・・とする予定である。
導入する自動販売機は〇〇社のもので、・・・の機能がある。設置場所として・・・を予定し、そのため店舗の一部を次図のように改修する。(図面) ストック商品の管理補充は・・・とする。
無人販売を開始するにあたっては、近隣世帯にチラシ配布するとともに・・・の販売促進を実施する。・・・
ここで重要なことは、補助金の対象経費はすべて記述されていなければならないということだ。上の例ならば、設備(自動販売機)、設置工事、店舗改修、販売促進が該当する。もし従業員に研修が必要ならば、それも記述しなければならないし、認定支援機関など専門家の指導を受けるならば、それも記述する。
とくに製造業の場合、新製品を開発したり製造方法を相当程度に変更する部分だけではなく、その製品をどのように売っていくかも考える必要がある。営業ツールとして新製品のパンフレットを作成したり、展示会などに出展して新製品を展示するならば、それも販売促進として記述する(出展を予定する展示会の特定が必要)。
(2)事業再構築指針との関係では、事業再構築の類型を特定して、事業再構築要件を満たしていることを述べる。これについては事業再構築指針の手引きにある例をまねればよい(それが推奨されている)。
(3)投資内容とスケジュールでは、補助対象経費になるかならないかと関係なく、事業再構築に必要な投資内容をすべてリストアップしておく。設備等は具体的な型番まで必要だ。名称(型番まで)/ 税込取得価格 / 税抜価格 / 補助対象の可否 を一覧にしておこう。取得価格については、なるべく相見積りを取っておくことをお勧めする。(税抜50万円以上のものは同一条件による相見積りが必要。ない場合には選定理由書など手続きが複雑になり、補助事業の開始が遅れる可能性が高い。)
また、工事や設備導入、販売促進、研修などのすべてをスケジュール化(補助事業期間)したものを示す。
(4)事業再構築の実施体制では、社内だけではなく、金融機関や認定支援機関(専門家)など関係者も含めて記述するとよい。事業再構築は一大プロジェクトであるから、しっかりとプロジェクトリーダーを決めておきたい。また社外も含めた構成だけではなく、進捗管理の仕組み(たとえば、社外関係者も含めて月一回の進捗会議を開催するなど、事業再構築のPDCAを回す仕組み)も決めておくとよい。
(5)事業再構築の効果では、2つの視点で記述するといいだろう。
1つは自社の競争優位性強化の視点である。上述の中華料理店の例ならば、同業他店だけではなくスーパーもコンビニも競合する。自動販売機による無人販売を開始することで、自店がどのように優位になるかを記述するのだ。つまり、餃子販売についての競合分析である。
視点のもう1つは顧客利便性向上の視点である。中華料理店の例ならば、非接触により高齢者や小さな子供連れの主婦も安心して買えるだろう。残業で帰りが遅くなった単身者も買えるだろう。このように地域住民にとって利便性を高められることを記述する。
以上により、事業再構築の具体的内容が当社にふさわしく、補助金支出が妥当であることを訴求する。この部分は補助金が関係するため条件が厳しく規定されている。そのため公募要領を熟読し、条件をいちいち照合しながら進めていくことを強くお勧めする。
2021/04/07 初稿
⇒ <第8回> 事業計画策定のポイント(2)
第1回 事業再構築補助金の狙いはどこにあるのか
第2回 どのような取組が「事業再構築」に該当するのか
第3回 具体例で理解を深めよう
第4回 事業計画策定の前に、構想を練る
第5回 事業計画の全体像
第6回 事業計画策定のポイント(1)