セールスフォースは20年連続20%成長を続けてるってよ。日本期待CRMの星、名刺のSansanの成長率は米国SaaS銘柄対比どんなもん?【分析:日米高成長企業の評価・統治・給料】
皆様こんにちは、本日はSaaS企業の草分けsalesforceを見ていきたいと思います。適宜、日本の高成長CRM企業Sansanで比較したいと思います。
概要
salesforceは世界一のCRM(Customer Relationship Management:顧客管理アプリ)企業です。
IPO以降のトータルリターンは上記ライバル達を圧倒しています。(salesforceはオレンジ)
出典:Seeking Alpha
↑は20%以上の売上高成長率を20年継続している米国企業はsalesforceだけという会社資料ですが、短期間でGAMAと呼ばれる世界の頂点に辿り着いたAmazonやGoogleは?と思うかもしれません。Amazonは2001年と2014年に、Googleは2019年に20%成長を逃しています。
IPO前年度以降の財務推移は↓です。
現在の市場評価
SaaS企業の特徴は↓だと思います。
①積極拡大投資により売上高成長率は高位
②反射として営業利益や当期純利益は損益0近辺もしくはマイナスになりがち
③上図salesforceあるいはSaaS企業ではないですがAmazonに見られる通り、意外とFCFは黒字になることもある(会計利益ではなくCF重視経営。ここでのFCFは営業CF-資本的支出)
成長企業はセクターの競争環境によっては売上総利益・EBITDA・営業利益・当期純利益・営業CF・FCFが赤字になることも多いので、統一的な株価・企業価値尺度は売上高との比較に制限されがちです。
また当期純利益やFCFが黒字でもSaaS企業のように長期的な成長率がざっくり15%を超えていると、割引率をr・成長率をgとした場合に1/(r-g)で表現されるPERやFCF倍率がとても高くなる(場合によっては100や1000を超える。理論的なrを超えてr-gがマイナスになりそもそも使えなくなる←価値が無限大に発散)ので比較に適さないということもあります。
私がウォッチしている米国SaaS120銘柄の企業価値(以下EV)/売上高(直近12ヶ月。以下TTM)と売上高成長率(TTM前年度比(以下YoY))の関係は↓です。
2020/7/8現在の結果は、EV/売上高=1.4+49.9x売上高成長率となりました。売上高が1年で2倍になる=売上高成長率が1(=100%)の時、EV/売上高が51.3倍になることを示しています。回帰の精度は↓でまずまずなのではないかと思います。
Multiple R 0.73
R Square 0.54
Adjusted R Square 0.53
Standard Error 10.16
Observations 120
売上高成長率・粗利率・営業利益率・当期純利益率・FCF率(いずれもTTM)で重回帰分析したところ、モデルのR SquareもStandard Errorもほとんど改善しませんでした。(ここで使用するFCFはCapital IQの定義による)
またBessemerというVCがEfficiency(投資成長効率。FCF赤字の場合がほとんどの非上場企業は売上高成長率/FCF率、黒字になることもある上場企業の場合は売上高成長率+FCF率)という指標とEV/売上高との回帰をしていますので私も実行してみたところ、回帰の結果及び精度は↓で、売上高成長率による回帰に精度で及びませんでした。
EV/売上高=1.6+31.8x投資成長効率
Multiple R 0.62
R Square 0.38
Adjusted R Square 0.38
Standard Error 11.72
Observations 120
EV/予想売上高と予想売上高成長率で回帰させると、TTM売上高よりも精度が多少上がるものの、全ての企業・部門でコンセンサス予想が入手できるとは限らないので、本マガジンでは今後、最初のEV/売上高(TTM)と売上高成長率(TTMのYoY)をベースに議論していきたいと思います。
さて、salesforceの売上高成長率は0.30(30%)です。EV/売上高=1.4+49.9x売上高成長率に入力すると理論EV/売上高は16.4になりますが、実際のEV/売上高は9.7で、その残差は-6.7、標準化残差は-0.66です。
この10年程度で出現した後続のホットなセクターの銘柄(例えばZoomやFastly、Datadog等)に比べると成長率対比では低評価となっています。
Sansanの売上高成長率(期末を一ヶ月超えた時点での自社による20/5業績予想で確度は高いと判断される為、当該数値採用)は31%なので理論EV/売上高は16.9になりますが、実際のEV/売上高は12.3で、その残差は-4.6、標準化残差は-0.45です。
Sansanとほぼ同時期に創業(2007)し同一CRMカテゴリーにあり売上高成長率が30%強程度のHubspotとZendeskのEV/売上高は各々13.9・12.2で、Sansanと同水準となっています。
ここで一点注意が必要なのは、salesforceの売上高成長率はここ4年程度安定していますが、EV/売上高は大きく変動しており(↓ご参照)、また現在は上限に近いバリュエーションになっていることです。
出典:Seeking Alpha
昨年末からの推移に関してsalesforceはさほどでもないですが、米国SaaS120銘柄のEV/売上高(TTM)と売上高成長率(TTM YoY)の関係は、直近が先程示したようにEV/売上高=1.4+49.9x売上高成長率なのに対して、昨年末はEV/売上高=3.4+29.3x売上高成長率と傾きが1.7倍と加熱してきております。
年間売上高サイズごとの売上高成長率
本noteの前半に掲載したsalesforceの売上高成長率チャートを見れば分かる通り、売上高が大きくなってくると当然売上高成長率は下がってきます。
↓は米国SaaS120銘柄の過去5年程度の売上高区分に応じた平均売上高成長率です。
Sansanは19/5期の売上高が概ね$100Mで売上高成長率が31%なので、米国SaaSと同等の、サイズに応じたまずまずの成長をしています。
もう少し精度を高めると売上高が$100-200Mの場合の中央値は34%となっています。
ちなみにsalesforceの売上高が$100M台程度だったFY2003・2004の売上高成長率は各々88%・83%でした。
収益性
salesforceはIPO以降一貫して、営業利益率・純利益率は小幅のプラスとマイナスを行き来している一方、FCF率は20%程度を維持しております(冒頭の概要セクションの財務推移チャートご参照)。FCFがプラスなので積極的なM&Aも可能となっています。
Sansanは19/5期まで営業利益率・純利益率・FCF率はマイナスでしたが、20/5期で営業利益率・純利益率はプラスになりました(FCFは今後開示)。
Sansanには今後積極拡大が必要になり営業利益・純利益がマイナスになる局面があるかもしれませんが、その時はsalesforce同様に会計利益に過度に囚われず突き進んでほしい所です。
ちなみに米国で成長株が集まるNASDAQ市場において現在、当期純利益を計上しているのは約44%(=1,184/2,692)で、約56%は当期純損失となっています。
安定企業が集まるNYSE市場においては、当期純利益を計上しているのは約67%(=1,387/2,064)で、約33%は当期純損失となっています。
統治・給料
salesforceの取締役は↓のとおりです。内部の取締役はCEOとCTOのみで、あとは社外取締役となっています。
社外取締役はほとんどが他社での重役経験者で、日本ではあまりケースとしてないのが軍人カテゴリーで、陸軍大将・国務長官を歴任したコリン・パウエル氏が任用されています。
salesforceはCEOが取締役会会長を兼ねているのでLead Independent Directorを指名して、取締役会におけるパワーバランスを取っています。
Financial Expertという独立のファイナンス専門家が監査委員会委員長を務め、会社の内部監査部を使いながらCEOの業務執行を常時監視するのは米国では普通となっております。
上記報酬委員会が作り上げたsalesforceの報酬体系は↓で、①現金給料②現金インセンティブ(売上高・営業CF・調整後営業利益と連動)③長期株式インセンティブ(ベンチマークとの相対株主リターン連動)、の三本立てとなっています。
ベンチマークとしているのは↓の企業です。
出来上がりのCEO報酬及び従業員報酬中央値は↓で、CEOは長期株式インセンティブが全体の大半を占めています。
今年のCEO/従業員中央値倍率は約155倍でした。
米国では企業統治の審判役の社外取締役ですが、salesforceでの報酬は約6-7000万円程度でした。
その他
創業者CEOマーク・ベニオフの新刊和訳が7月に発売される模様です。
本書では、創業者のマーク・ベニオフが、自らの生い立ちから、セールスフォースの起業、そして、企業文化を作り上げていく様子が率直に描かれている。そして同社では、社会への貢献がミッションとされており、著者がさまざまな社会課題と向き合う様子も描かれている。「善き行いと成功はビジネスの必須要素であり、バリュー(価値観)は世界を変えるための最も強力なエンジンになる。これを牽引するのが、トレイルブレイザー(開拓者)なのだ」
推薦
リチャード・ブランソン(ヴァージングループ創業者)
「世界でより高いミッションをめざすすべてのビジネスパーソンのための緊急かつ説得力のある一冊」
ボノ(U2のリードボーカル)
「誰が利益を得て、誰が損をするのか? ベニオフは、その概念をひっくり返した。答えは役員室の外にある。本書は初めて、バリューを原動力にすることの意義を教えてくれた」
何度でも噛み締めたいバフェット箴言
「信望を得るには20年かかり、信望を失うには5分とかからない。このことを考えれば、おのずとやり方は変わってくるはずだ」 “It takes 20 years to build a reputation and five minutes to lose it. If you think about that, you will do things differently”
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