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サンタクロースが一度もこなかった子どもは

子どものころ、サンタクロースは一度もこなかった。
(祖母の宗教上の理由からだったけど子どものころはわからなかった)

「どうしてうちにはサンタがこないんだ。あ、煙突がないからか!」

親にバレないように、こっそりベランダの鍵を開けて寝たこともある。それでもサンタクロースはこなくて、プレゼントのためにずらした枕が定位置に戻っていた。

嬉々として枕元に置いていた靴下は、いつのまにか出すこともしなくなった。


クリスマスの朝、学校はサンタクロースの話題でもちきり。何をもらったのか聞かれて、答えられなかったことは一度や二度ではない。

さりげなく話を逸らしたり、嘘をついたこともある。

私から見える世界は幸せであふれていたのに、私と世界の間には見えないボーダーが引かれていて、向こう側には行けないのだ。


「サンタクロースは、悪い子のもとには来ない」


そんなバカみたいな言葉が、意外と鋭く心に刺さると知った。


「お前が悪い子だから、サンタクロースがこないんだ」


そう言われたことはないのに、否定できる材料を持ち合わせていなかった。


自分だけなら、まだ我慢できた。
でも、やさしくて頼りになる兄たちのもとにも、やさしくて素直な妹のもとにも、サンタクロースはこなかった。

「プレゼントをもらったって嘘をついた」

悲しそうに、諦観したように言った姿が、今も忘れられないでいる。


街を幻想的に照らすイルミネーションと、空まで響きそうなクリスマスの音楽は、はりぼてでしかなかった。

大切な人たちが悲しむクリスマスは、世界で一番大嫌いな日になった。



大人になるにつれて、クリスマスは普通と変わらない日になった。
恋人がいても仕事ばかりして、好きなときに好きなだけ写真を撮ってた。


クリスマスの朝、高校生のときに生まれた末っ子の妹の動画が届いた。
3〜4歳くらいだったかな。実家の居間に飾られたクリスマスツリーの前でプレゼントを開けていた。

幸せな動画だった。昔ほしかった時間がそこにあって、まぶたが少しだけ熱かった。

私はもう大人だからサンタクロースからプレゼントはもらえないけど、サンタクロースにならなれると思った。

それから毎年、末の妹へクリスマスプレゼントを贈っている。
大きくなってサンタクロースの正体がわかった今も、私はせっせとプレゼントを渡す。


妹が結婚して、姪っ子が生まれてからはプレゼントをあげる人が増えた。
妹と、その旦那さんにプレゼントを贈ることも増えた。


元末っ子の妹は甘えることが上手なはずなのに、毎年プレゼントを前にどうしたらいいのかわからなさそうな顔をする。

その後に必ずはにかんで、大切そうにプレゼントに触れて、世界で一番かわいく笑うのだ。

何度もプレゼントを眺めては思い出したかのように笑う姿に、子どものころの彼女が重なる。


今年も、しあわせな時間を感じられただろうか。


サンタクロースになると決めた日、私のもとへ届いた動画は妹が送ってきた。数十秒の幸せの欠片。


お返しって言った私に「何かあげたっけ?」って首をかしげる妹に、多分、私は、きっとずっと言わずにいる。

プレゼントを独り占めする子どものように、いつまでも大事に、大事にしまっておくのだ。




サンタクロースがこなかったひねくれた子どもはサンタクロースになって、素直な子どもは3人の姉妹のママになった。

今、あのころからは想像もつかない未来にいて、それなりに満足している。

クリスマスが待ち遠しいと、終わるのは寂しいと感じるくらいには。


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