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ライアン・マッギンレーに学ぶ、写真セレクトの極意
今回は写真のセレクトについて考えます。
写真を選ぶということは、写真を撮るのと同じくらいに、あるいはそれ以上に重要なことです。
同じシチュエーションのカットでも、どの写真を選ぶかによって伝えたいことが180度変わってきます。選ぶことによって、作者の意図を反映できると同時に、表現したいことをコントロールすることになります。
また、アウトプットする場所によっても、セレクトの方法は変わってくると思います。大きく、仕事と個人の作品制作に分けられます。ファッションや広告等の仕事撮影の場合と、写真集や写真展等の個人のパーソナルワークでは写真のセレクトプロセスが変わってくるということです。
多くのフォトグラファーは、それぞれ独自のセレクト理論を持っており、仕事でもパーソナルワークでも両方にその理論をうまく適応させながら写真を選んでいると思います。
習うより慣れろ、的な側面が強く、自分で撮って選ぶという行為を繰り返す中でしか身につかないものだと思います。あるいはそのような方法しかまかり通っていないため、他人のセレクト方法を知る機会というのはなかなか無いのです。(だから写真家になるために、アシスタントという修行期間があるのかもしれません)
消去法的に選ぶ人もいるでしょうし、直感的に選ぶ人もいます。あるいは36枚撮りフィルム1本という制約の中で、写真の数自体を制限して選ぶなど、その方法・使用ソフトに至るまで、本当に人により様々です。機械的に「自分の好きなものを選び、あえてそれではない方の写真を生きにする」という人さえもいます。
ある程度長く写真をやっていると、独自の癖がついてしまうセレクトだからこそ、他の人の手法を知ることにより、写真を再考するきっかけになると考えました。
ライアン・マッギンレーの場合
Ryan McGinleyは2002年に、自ら制作したZINEをDAZEDやINDEX、そしてi-D等に送り華々しいデビューを飾った米国の写真家です。NYのパーソンズ・スクール・オブ・デザイン出身で、26歳で史上最年少でホイットニー美術館にて個展を開催したことでも話題となりました。アメリカ写真界のヒーローであり、現代写真界においても重要な作家です。↓4年前にこの記事を書いた時に比べ、写真集の価格が3倍ほどに上がっています。
彼のセレクト方法が、とあるインタビューで語られていたので、まとめてみます。
1,PCで何千枚の写真を20分位で→ざっくり数百枚に絞る。
2,絞った数百枚をゼロックスでマウント紙に全てプリントする。
3,その中から20枚を選んで、部屋の壁に貼る。
4,2週間くらい放置して、写真とともに生活する。
5,不要な写真は外していき、最終的に1枚を選ぶ。
以上。
このフローだけ見ても、かなりの労力と時間をかけているのが伺えます。どれだけ撮影しても、世に出せるのは、必ず一枚だけなのです。
ライアンはとにかく数を撮る写真家として知られています。初期のロードトリップのシリーズから、この手法でセレクトしていたと考えられます。デジタルに切り替えてからはキャノン5Dを5台ほど常備し、撮って撮って撮りまくります。ワンシーンで何千枚と撮影した写真の中から、上記の流れで一枚が決定されています。
数を撮り、ナイスショットの確率を上げ、その中から奇跡的な一枚を発掘するという方法です。
2週間眺める環境に置く、というのは最初からコレクションされることを意識した発想とも捉えることができます。コレクターが部屋に飾るのに耐えうる作品か、ギャラリーや美術館での鑑賞耐性をセレクトのプロセスで確かめているのです。
「自分で撮ったものに、驚くべき瞬間を見つけるのが好き」と言う彼の言葉の通り、セレクトをとても楽しんで行なっている感じがします。
作られた状況と環境を用意し、モデルには自由に動いてもらって、多く撮った中から選ぶ、というのは同時期のコンテンポラリーフォトグラフィーにおいてセットアップドキュメンタリーという手法として知られるようになりました。ドキュメンタリーに見えるけれど、実は完璧に作られたフィクションの世界でもあるのです。
ドキュメンタリーかフィクションなのか、曖昧な境界を狙うというのは、写真というメディアそのものを体現した表現であると言えます。そしてその世界の強度を高めているのは、まさにこのセレクト方法にあると考えられます。
その後のBody Loudというポートレートのシリーズや、アニマルズというシリーズにも、セットアップドキュメンタリーの手法が見てとれます。
ライアンの写真は、現在大判のプリントが300〜500万程で取引されています。
Tokimaruの場合
パーソンズも出ていなければ、ストリートカルチャーの体現者でもないトキマルタナカですが、実はライアン・マッギンレーに2度会っています。
さらにその一度は、ライアンに写真を撮ってもらっています。
某写真系企業が主催するイベントだったのですが、ピンクの上下セットアップスーツでスタジオに現れた彼は、その時はiPhoneだったのですが、いくつか言葉を交わしながら、やはり短時間で数多くシャッターを切りました。
その姿は友達がiPhoneを構える姿と、さほど変わりなかったのがとても印象的でした。そのスーパースターらしからぬラフさが、あのインティマシー溢れる写真を生み出すのだと、自分が撮られて妙に納得した記憶があります。
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ライアンのセレクト方法はアーティストとして、写真作品を制作している方には有効かもしれませんが、趣味や仕事のセレクト法としては不向きかもしれません。時間と手間がかかりすぎるのです。まあ、手間をかけて本気の写真を目指したいところではあるのですが、誰にでもフィットするものではないと思います。ゼロックスのレーザープリンタ必要だし。
そこで今回は、僕が実際に行っている方法を少し噛み砕き、写真を始めたての人も簡単に実践できる方法で書いてみます。
ポイントは二つ
1,レーティングとカラータグを活用する
2,一晩寝かせる
これだけです。
これを行うだけで、写真セレクトの精度と効率が格段に上がります。
順にみていきます。
レーティングとカラータグ
写真を少しかじっている方は、写真管理ソフトやアプリを使用していると思います。Lightroomやadobe bridge、Capture One、Aperture等様々なものがありますが、代表的なのはライトルームでしょうか。
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僕の場合は現在、仕事とプライベート/プロジェクトで、セレクトするソフトを使い分けるという複雑なやり方をしています。本当は一本化したいのですが、使用しているサーバーや仕事環境によって統合が難しい状況です。
使用しているのは、Captureone, Aperture, Lightroomの3つです。
*現在はライトルームCCを主に使用しています
どのソフトにも★をつけるレーティング機能と、色をつけるカラータグ機能が付いていると思います。これらを使うことで、セレクトされ、さらに仕事が完結したという目印になるのです。
星は大体5個くらいまで付けられると思いますが、僕はほとんど2つまでしか使いません。
手順をまとめます。
1,撮影したカットの中から、使用できるものに星を1つ付ける。同時に、ピントや表情、構図がNGで確実に使用できないものは☓で非表示/削除する。
2,星を付けたものだけを表示して、その中で決定カット、あるいはクライアントに納品するカットに星2を付ける。
3,仕上げて現像、納品。
以上のスリーステップです。
カラータグを使う時は、複数の人物を一度に撮影した時、日常あるいはパーティーなどのスナップ系写真で、納品先が複数生まれる時、また、第三者(クライアント・モデル・ディレクター・納品する相手等)によるセレクト判断が入る時などです。
つまり、自分の意思で選んでいる時は★のレーティングを付け、外部の意思が入る時はカラータグを付けるという使い分けです。
そのようにシンプルにルール化することで、再現像、納品等の場合が発生した時も、迅速に対応できますし、プロジェクトの場合も撮影から発表まで期間が空いた時のリセレクトや判断が容易になります。
星を1つ付けた段階で、次の「一晩寝かせる」を入れると、さらに精度が上がります。
一晩寝かせる
一瞬、料理の仕込みかよ、と思いましたよね?
でもそれと似たようなものです。
ファッションやウェブ媒体の撮影などは、その場で納品というのが常態化している現代ですが、自分のプロジェクトや時間の許される案件なら、第一セレクトが終了したら、ぜひ一晩寝かせましょう。
学部時代、僕の人類学の先生が「一晩寝かせるのが大事」と文章を書く時によく言っていたのを、写真を始めて改めて思い出しました。
もちろん先生は「文章」のこと言っていたのでしょうが(あるいは料理好きなので料理のことだったのかもしれない)、それが写真でも有効であることに気がついたのです。
写真を選ぶという行為は、本当に様々な要因が絡んできます。好き嫌いはもちろん、環境光、その日の天気、その時の気分、フェティシズム、お腹の好き具合、経験など、科学的に証明できないような事象が多いです。
だからこそ、一晩寝かせて、朝スッキリした状態で、もう一度その写真で良いのか、その写真が良いのかを判断します。
すると不思議なことに「こんなの選んでいたのか〜、ボツだろこれは」なんてカットが★になっていたりするのです。
疲れている状態だと、当然判断力は落ちますよね。
自分の方法を探し続ける
これらのセレクト法は、僕が9年程仕事をしてきて、至ったものです。★を2個までしか使わないとか、寝かせるとか、馬鹿じゃないのと思う方もいると思います。
誰ひとりとして同じ写真を撮る人がいないように、誰にでも万能なセレクト法というのは無いと思います。自分のスタイルや、心地よく思えるフローを見つけ出せると、写真がさらに楽しくなります。
それは撮って選んでを繰り返す中で、自ずと見つかるものだと思います。
皆様も風変わりなセレクト法をお持ちの方がいましたら、ぜひ教えてください。(逆立ちしながらディスプレイを眺めて決める、とか、目をつぶったまま指差し決定とか、近くにいらっしゃいませんよね)
それでは、また次回。
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