りんご・ローテーション🍎
今回のテーマ:秋といえば
by 福島 千里
今年も秋がやってきた。ということで、ニューヨークはただいまりんごの収穫最盛期でございます(わーい)。
ニューヨークとりんごの関わりは深い。りんご栽培は州の主要産業の1つでもあり、その生産量は全米2位(1位はダントツぶっちぎりでワシントン州)、州内には実に600もの商業リンゴ農家がいるという(USDA National Agricultural Statistics Service, annual Non-citrus Fruits and Nuts Summary調べ )。と、統計はさておき、とにかくニューヨーク市近郊にはりんご農園が多い。
りんご農園が広がる道路のすぐ脇には、ファームスタンド、もしくはロードスタンドと呼ばれる直売所があり、季節ごとに旬の野菜やフルーツが売られている。そして秋はりんごが直売所の主役となる季節。この時期、我が家ではりんご目当てに隔週の直売所通いが始まる。グローサリーストアや近場のマーケットでも購入できるりんごを、なぜわざわざ郊外で買うのか。それには理由がある。①値段が安くなる(直販でまとめ買い)、②ローテーション、そして③郊外ドライブはひたすら楽しい(気分転換!)、である。
①と③についてはご理解いただけると思うので、②について話そう。りんごの収穫期にはローテーションがある。りんごと一口に言ってもその種類は豊富。日本でもおなじみのふじ(Fuji)やむつ(Mutsu/Crispin)、大ぶりなガーラ(Gala)、食感よしの定番ハニー・クリスプ(Honey Crisp)、サラダと好相性のゴールデン・ジンジャー(Golden Ginger)、某企業を彷彿とさせるマッキントッシュ(Macintosh)、昭和生まれの私にはその名のインパクトが強すぎるピンクレディ(Pink Lady)、アップルパイに欠かせない青りんごのグラニー・スミス(Granny Smith)など、キリがない。これらの収穫時期はバラバラで、収穫され次第、ほぼ2〜3週間ごとに異なる品種が店頭に並ぶ。それゆえ、我が家は毎年この時期になると、その順番に従って直売所を目指すのだ。
とりわけリピート頻度が高いのは、マンハッタンから北へ車(マンハッタンからの直通バス有)で約1時間30分ほどの距離にある、ニューパルツ周辺の直売所。ニューパルツはその豊かな自然がキャンパーやハイカー、クライマーたちに人気の町で、同時にニューヨーク州立大学ニューパルツ校の学生街としても知られている。ダウンタウンをそぞろ歩けば、どことなく西海岸のヒッピーっぽい雰囲気が漂い、ちょっとした旅行気分が味わえるのも魅力だ。
この日、我が家はとあるご贔屓品種を想いつつ、ニューパルツを再訪していた。目当てはスナップ・ドラゴン。コーネル大学が地元生産者との協力を得て開発した州独自のハイブリッド・りんごで、数年前までは協力農家でしか直売しておらず、ニューヨーク市内ではほぼ見かけることはなかった。最近では生産量と販路が安定してきたのか、ホールフーズ・マーケットなどの大型店での販売も始まっている。
直売所に到着すると、すかさずりんご売り場へ向かう。ガタイのよいガーラの傍で、籠の中でちんまりとしている赤りんごの前に歩み寄る。控えめサイズながらも引き締まったフォルムが早々に期待感を高めてくれる、今年最初のスナドラだ(我が家ではスナップ・ドラゴンを略して勝手にそう呼んでいる)。その実を1つ、うやうやしく手に取ってレジで会計を済ませる。まずはガブリとひとくち。籠買い前の、品定め儀式である。
「ザクッ。じゅわわ〜っ」 (*注:脳内再生音)
みずみずしくシャープな食感(愛称はモンスター・クランチ=めっちゃ歯応え良い、といった感じか)の直後、従来のアメリカりんごにはないバランスのよい酸味と甘さが口いっぱいに広がる。さすがスナドラ。生食用りんごのホームラン王である(*個人の好みです)。
私が味の余韻に浸っていると、その傍で夫がさっさと大籠を抱えてレジへと向かう。2週間後の再訪時には、スナドラも別品種と入れ替わっているだろう。次のラインナップはハニクリとふじあたりか。ふじは断然生食だけど、ハニクリはアップルパイに、いやタルトの方がよいか・・・と、脳内シュミレーションが止まらない。ニューヨークの秋は始まったばかり。まっしろな雪が町を覆い尽くす前に、今秋も多彩なりんご・ローテーションを堪能することにしよう。
📷(トップの写真)りんご農園専用の荷台に揺られながら、りんご狩りの現場に向かう人々。ドナドナ気分が味わえる。
📷ニューヨーク市郊外にあるニューパルツの風景。のどか〜
📷間引きをしないためか、収穫時にはこぼれ落ちそうな状態で実ってます🍎
📷直売所でのもうひとつのお楽しみが、無濾過のりんごジュースを混ぜて作った優しい味わいのアップルサイダー・ドーナツ🍩 揚げたてが最高なのだ😋
◆◆福島千里(ふくしま・ちさと)◆◆
1998年渡米。ライター&フォトグラファー。ニューヨーク州立大学写真科卒業後、「地球の歩き方ニューヨーク」など、ガイドブック各種で活動中。10年間のニューヨーク生活の後、都市とのほどよい距離感を求め燐州ニュージャージーへ。趣味は旅と料理と食べ歩き。園芸好きの夫と猫2匹暮らし