マガジンのカバー画像

365日のてのひら話

617
200文字を基本に500文字までの物語。
運営しているクリエイター

2024年4月の記事一覧

2024/04/30 あやめ

ひたりと、死の足音がする。 かすむ視界の中で、紫があでやかに伸びる。夏まで持たないと言っ…

名野凪咲
6か月前

2024/04/17 「恐竜の日」

目の前にある……いや。いるのは恐竜のように見えた。骨ではなくて、肉と皮に羽毛付きの爬虫類…

名野凪咲
6か月前
1

2024/04/29 夜っぴて(よっぴて)

「よっぴて騒ぎ歩いてきたんだ」 耳慣れぬ言葉が同居人の口から出てきたような気がする。 「…

名野凪咲
6か月前

2024/04/16 「女子マラソンの日」

「体に気を付けてマイペースで走りましょう」 マラソン大会なんて絶対に完走できないし、無理…

名野凪咲
6か月前

2024/04/28 山吹(やまぶき)

「無言の花」 友人が黄色い丸い花を指してそう言った。あれはたしか『ヤマブキ』という植物だ…

名野凪咲
6か月前

2024/04/27 田を起こす(たをおこす)

とことことこ。 よくわからない機械……からくりが『田んぼ』にするはずの土地に持ち込まれた…

名野凪咲
6か月前

2024/04/20 「ジャムの日」

「ピーナッツクリームとイチゴジャムとママレードのどれがいい?」 そう聞くと同居人はポカンとした顔で「ママレードって何? ジャムって?」と聞いてきた。 「ジャム……えっと。果物を甘くしたパンに塗るあれ。ママレードはオレンジジャム」 ジャムが通じないとは思っていなかったので、必死に脳内から説明単語を引き出す。 それでも通じないので、実物をみせる。 「ああ。ペースト」 ぺーすとは確か、潰したものだったような。いや。私の理解もあっているか分からない。なにせ相手もその言語を母語と

2024/04/26 磯菜摘(いそなつみ)

異様な匂いがした。魚の干物か海藻のような潮の匂いだ。 ここは海から遠い。その辺りでわかめ…

名野凪咲
6か月前
1

2024/04/15 「遺言の日」

見知らぬ男が「伯父さんがあなたに遺産を残した」という事を伝えに来た。借金は要らないと答え…

名野凪咲
6か月前

2024/04/25 汐まねき(しおまねき)

くいくいっと大きなハサミを動かす姿は確かに『汐を招いている』ようだ。 じっとそれを見てい…

名野凪咲
6か月前

2024/04/14 「オレンジデー」

ころんとオレンジが足元に転がってくる。アニメなんかではこの後、大量のオレンジが……なんて…

名野凪咲
6か月前

2024/04/24 紋白蝶(もんしろちょう)

「白いキャベツ蝶」 そのまま読んだ私は首を傾げる。蝶に関する単語らしいという事はわかるけ…

名野凪咲
6か月前

2024/04/23 松の緑摘む(まつのみどりつむ)

松を見上げると北側の枝がばっさり無くなっているような気がした。 「これ、こんな形だったっ…

名野凪咲
6か月前

2024/04/13 「喫茶店の日」

「いらっしゃいませ。幻声店にようこそ」 店に入ると、緑の三つ編み少女が恥ずかしそうにつっかえながら、そう言った。 お盆を手にしているけれど、それで顔を隠していても真っ赤になっているのがわかる。店の隅ではオレンジ色の髪の目つきが悪そうな男の子がめんどくさそうに私を一瞥した。 店には私以外の客はいない。入ってきたのは間違いだったろうかと思ったが、テーブルにつく。白い丸いテーブルは綺麗だが、メニューらしきものはない。壁を見渡しても、メニューがない。 「あああ。ののの」 緑の髪