2024/04/13 「喫茶店の日」

「いらっしゃいませ。幻声店げんせいてんにようこそ」
店に入ると、緑の三つ編み少女が恥ずかしそうにつっかえながら、そう言った。
お盆を手にしているけれど、それで顔を隠していても真っ赤になっているのがわかる。店の隅ではオレンジ色の髪の目つきが悪そうな男の子がめんどくさそうに私を一瞥した。

店には私以外の客はいない。入ってきたのは間違いだったろうかと思ったが、テーブルにつく。白い丸いテーブルは綺麗だが、メニューらしきものはない。壁を見渡しても、メニューがない。

「あああ。ののの」

緑の髪の少女がつっかえながらも何かを言おうとしてるようだが、『あ』と『の』の連続で意味が掴めない。

店の脇でほうきを手にしていたオレンジ髪の少年がため息をつくと私に近づいてきた。

「いらっしゃいませお客様。この店ではメニューはありません。お好きなものを注文してください」
言葉は丁寧だが、態度はものすごく悪い。言い終わるとさっさと出ていけとばかりに扉をあけられてしまった。

「ちょっと。久々のお客を逃さないでよね」

店の奥からは白い髪の女性が出てきて、オレンジ髪の頭を殴ろうとしてやめた。
「めにゅーは……めにゅ。めめにゅは」
緑髪の少女はまだバグっている。

この店は何なのだろうかと首を傾げると、緑髪の少女に白髪の女性が何かを手渡した。

「まず、声を選んでください。私……ルカと店員のアキ、店長シウの声で対応します。次にセリフを選んでください。
飲み物が必要でしたら、そちらの機械でセルフサービスになっています。お代は声の分だけ頂きます」

なんだろう。指名制という事はキャバクラのような感じなのだろうか?
「声の喫茶店よ。キャバクラはお喋りでしょう。ここはあなたの選んだセリフを言うだけのお店よ」

店長だという白髪の女性が説明を加える。だが、そこでオレンジ髪がドアを指さした。

「あんたさ。場違いだから、帰りなよ。俺たちを自分と同じ人間だと認識してるだろ? 違うから」
「ちょっと、アキ!」
店長が慌ててアキという少年を店の奥に引っ張っていった。

残った緑髪の少女が私をじっと見つめる。しばらくそうした後で、ぺこりと頭を下げてきた。

「ごめんなさい。お客様に売れるものはないようなので、お帰り下さい」

先ほどまで隠していた顔は今ははっきり見えているし、声も流暢になっている。態度も毅然としていた。

「えっと。なんでなのかな?」

少女は悲しそうな顔で「おやすみなさい。いい夢を」と言った。その途端、私の足元が崩れる。

目が覚めると、スマホを握ったまま眠っていたようだ。画面には喫茶店の風景が出ている。そしてあの三人の姿がそこにはあった。

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