名野凪咲

名野凪咲(なのなさ) ゆったりと創作世界だけ、書いていく。

名野凪咲

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マガジン

  • 365日のてのひら話

    200文字を基本に500文字までの物語。

  • 時交叉の物語

    夢のお話し中心の短編集 ダークなお話し多め。 一話千文字前後。オリジナル小説

  • 悲しみの向こう側

    詩集。

  • オリジナル詩 過去作

  • メモリードール

    自分の事は何一つ忘れてしまった。 本当は何かを知っていたはずなのに。 気が付くと、記憶のすべてを失っていた少女。 青年に助けられた少女は自分の中に響く声に導かれる。 オリジナル小説。

最近の記事

2024/11/16 死霊風(しりょうふう)

ふわりと嫌な湿気とともに風が体にまとわりつく。一定に吹いている風というよりは漂っている空気の流れのようだった。 「おかえり……。お客さん?」 リビングに入るなり、同居人が不穏なことを言う。 「一人だけど……何が見えたの?」 私は後ろを振り返る。廊下があるだけで、人はいない。 「もうひとつ気配があるような気がしたんだけど……見えたっていうか……」 同居人が少し考えこんだ。 「足音がもう一つしたような感じ?」 「怖いよ。私、一人なのに」 そう言いながら、椅子に脱いだ上着をかけ

    • 2024/11/07 「ソースの日」

      「こっちのソースって甘いよね」 ソースが甘い? そう思って振り返ると同居人の手にはとんかつソースが握られていた。お皿にはコロッケ。油の匂いがすると思ったのはこれだったようだ。 「醤油はしょっぱいよ。あれがソースに入るのかはわかんないけど」 「醤油ソースも甘いよ」 同居人が訂正してくる。そう言えば、うちの醤油は甘めの味のものを使ってたなと思い出した。 あと少しの作業を早く終わらせようと手を動かしながら考える。 「うーん。そうだけど……」 「もう少し、酸味が欲しいよね」 酸

      • 2024/11/15 花暦(はなごよみ)

        「来年の暦?」 同居人が花だらけの暦を見て聞いてきた。 「少し違う。今年の。うちで咲いた花の写真をカレンダーに並べてみたの。咲いてない時期はほら、南天で埋まってる。雪の時期は南天しかないから」 中には真っ白や茶色の土しか写ってないものもある。写真を毎日撮らなかったから。空の写真もあるので、花の写真だけでもない。 「これ、花暦って言うんだっけ?」 「そうらしい……けど、真冬と真夏は厳しすぎるのよね。夏は朝顔、冬は南天……他の花はタンポポやバラも使いやすいよね。年中咲いてる

        • 2024/11/06 「アパート記念日」

          「これってアパートメント?」 同居人がテレビの中の江戸時代の長屋を指さしてそう聞いた。意味を私の中で再翻訳しようかとおもったけれど、諦めて調べる。 『アパートメント=集合住宅』 「そうだね。アパートメント」 「今もあるの?」 「この形のはない。建築基準法に違反するから」 板張りの家なんて今の時代には存在しないけれど、時々『時代劇にあるもの』が今も普通にあるのかと聞いてくるので、聞かれる前にくぎを刺しておく。 「それはそうだよね。燃えちゃうもの……あ」 同居人がしまったと

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        • 365日のてのひら話
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          28本
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        記事

          2024/11/14 厚物咲(あつものざき)

          まあるい菊が綺麗に咲き誇っている。 「あれは、ボールをつけてるの?」 同居人がそれを指さして聞いた。 「ボールの型をつけてるわけではなくて、ああいう品種だとは思う」 菊は小学校の時に育てたけど、綺麗に育てたわけではないので分からない。 「秋色だね」 白と黄色と橙は綺麗に立って青い空に映えている。 「秋だね」 私も同居人に同意した。

          2024/11/14 厚物咲(あつものざき)

          2024/11/05 「縁結びの日」

          コロコロと転がり落ちてきた五円玉を拾う。 「何してるの?」 同居人の手元にはたくさんの五円玉。そしてなぜか綺麗に五円玉の面が見えるように編んでいる。 「ご縁には五円玉のネックレスがいいって聞いたから」 何かが間違っている。悪友の一人がおかしなことを吹き込んだらしい。 「そういう迷信はさすがに無いかな。お賽銭……えっと。お布施、寄付に五円玉はいいかもしれないけど」 「寄付なのに5円だけ?それとも、五円玉で寄付なの?」 同居人が手を止めて、顔を上げた。 「お賽銭……。神

          2024/11/05 「縁結びの日」

          2024/11/13 吾亦紅(われもこう)

          移りゆく日々の中で、風が冷たくなる。 「寒いね」 同居人が風に舞う葉っぱを見ながら言った。その中であまり目立たない花が揺れている。実のようにも見えたけど、近づくと小さな花が集まっているのがわかる。 家の中から見ると『実』にしか見えない。もう、寒いからかその実も小さい。 「そうだね」 同居人に答えながら、ゆらめく『実』を見ていると同居人が首を傾げた。 「あれは、食べられるの?」 「無理だったと思う。お芋、焼こうか」 同居人が頷くので今日のおやつは焼き芋になった。

          2024/11/13 吾亦紅(われもこう)

          2024/11/04 「いいよの日」

          「いいよ。それ、やってみよう」 それは小さな提案だった。ただ、『道具のネームプレートを付ける』というだけの提案。それが通ったことに少し驚く。だってここは、小さな会社でわざわざ『道具の名前』を書かなくても各人が覚えればいいだけだから。 実際、一年前に提案した時は通らなかった。 それが変わったのは上司が変わったからだった。不思議な人で、人の意見を一度は「いいね。それ」と面白がる。それから、問題点を洗い出したり、改善策を練ったりと色々と手を加える。結果、どう頑張っても無理な意見

          2024/11/04 「いいよの日」

          2024/11/12 神送風(かみおくり)

          この時期はどの土地でも神が送り出されるという。 「ねぇ。聞きたいんだけどさ。イズモって場所に神様が行っちゃったら、他の土地には神様がいないってことになるの?」 神無月というのも出雲に神様が集まるからだというのは聞いたことがある。 「神様はそんな俗物的なものじゃないと思う。なんていうんだろ……精霊みたいな。どこにでもいるみたいなもので『向こうにいるから、ここにはいない』ってものじゃないの。『向こうにいて、ここにもいる』のが神様」 そんな説明で通じるだろうかと思ったけれど

          2024/11/12 神送風(かみおくり)

          2024/11/03 「文具の日」

          ガシガシと消したつもりの消しゴムの痕は真っ黒になっていた。 「こういう消しゴムは使わない方がいいよ」 真っ黒な解答用紙と共に先生はそう言った。私は黙って頷いた。 そして、ガシガシと消していく。黒く黒く染まる紙。 「他に消しゴムはないの?」 真っ黒なノートを返しながら先生は聞いた。 「ありません。これがいいんです」 私はそう答えた。 ガシガシ。 黒くなる消しゴムは嫌われている。でも、私はこれが好き。 ガシガシ。 「これ、使いなさい」 先生が使いかけの消しゴムを私に渡して

          2024/11/03 「文具の日」

          2024/11/11 水粒(みつぼ)

          水粒がたたんと跳ねた。 ビニール傘は面白いほど水の行方が見える。それを眺めてると、人にぶつかりそうになってしまった。 驚いた声と共にその人が振り返る。 「大家さん……」 同居人だった。背景に混ざりそうな緑のレインコート。そこにも水粒が沢山伝っている。 「帰り道?」 緑だけどマーブルというのか微妙な色の変化がある。何かの絵には見えない。 「うん」 「レインコート、どこで買ったの?」 「お店。変わったものがいっぱいあった」 「雑貨屋さん?」 「……。そう、それ」 同居人が

          2024/11/11 水粒(みつぼ)

          2024/11/02 「書道の日」

          かすれた文字が紙に浮かぶ。かすれてるだけではない。歪んでいる。 「はぁ」 盛大なため息とともに半紙を丸める。 「こらっ。何やってんだ」 ……モットヤル気をダセ。 後半の言葉は音と意味がずれて頭に入る。 やる気は出ない。筆はご機嫌斜めで墨を吸ってくれず、紙はご機嫌斜めに歪んでいる。そして私の手首もご機嫌斜めで過剰な力が入りすぎて太くなるか、かすれるかを繰り返してる。 また紙を丸めようとしてちらりと先生の方を見る。こちらを見てない様で、視線の端がまだここにある。半紙を折り

          2024/11/02 「書道の日」

          2024/11/10 菊の雫(きくのしずく)

          その雫は長寿を与えるという。 「迷信よ。菊の雫なんて」 そんな声にその古木の様な皮膚が動いたような気がした。 そのミイラがなぜここに祭られているのか誰も知らない。けれど、菊の雫を与えると未来を語るという。一説にはそれは過去だという人もいるけれど、そのミイラが語る『未来』は一年以内に起こる災厄だった。 何もない年は何も語らない。 それが崩れたのは三年前。何も語らず、人々がホッとしたその年に地震が起こり多くの人が死んだ。二年前は大火が起き、今年もミイラは何も語らなかった。

          2024/11/10 菊の雫(きくのしずく)

          2024/11/01 「点字の日」

          ぽつぽつと指先でその文字をなぞる。もちろん、読めない。私の目は見えている。だから、目を使って母音だけを読む『おあえ』 私の手の中のそれは缶チューハイ。つまり答えは『おさけ』 「うー。わからん」 そう言いながら、缶を開ける。 「何が?」 「点字。久しぶりに読んでみようかなと思ったけど、母音しか思い出せない……それも、怪しいけど」 同居人がノンアルを手にテーブルにつく。今日は大したものはない。ご飯と唐揚げ。あとはサラダとゆで卵ぐらいだ。 「まだ、仕事が残ってる?」 同居

          2024/11/01 「点字の日」

          2024/11/09 狐の提灯(きつねのちょうちん)

          薄っすらとしたもやの中、そこだけが光っているように見える。 「ああいうのを狐の提灯って言うんだって」 そっと彼女はそう言った。寒さに震えながら少しだけその光を見て、彼女の足は早まった。寒すぎてここにいるのは耐えられない。私もそれに続いた。 家に帰りついてから、「狐って寒いのは平気なのかな」と聞いてみた。 「毛深いから、平気なんじゃない?」 適当な答えが返ってくる。 なんでも狐のせいにしたがるお国柄か……。ただそれを言うなら、私が住んでた国も何でも妖精のせいだったと思い出

          2024/11/09 狐の提灯(きつねのちょうちん)

          2024/10/31 「天才の日」

          「君はテンサイだ」 そう言われて、私の中では災いの言葉が浮かぶ。 「テンサイですか? 嵐は起こせませんが」 そう言って、一枚の絵を見せる。嵐をイメージして書いたものだがぐちゃぐちゃの線で意味が分からないと以前は言われた。 「そうそう。こういうのも面白いね」 この人の目は悪いのだろうか。それともお世辞か。この後で膨大な金を吹っかけて来るのだろうか。警戒して相手を見るとニコニコと次の絵を手に取ってる。全部で15点の絵を見終えて、彼は言った。 「面白いね。画集をつくろう」

          2024/10/31 「天才の日」