見出し画像

親に失格制度があると思うなよ

"母親失格"という言葉がある。
「子どもにスマホで動画ばかり見せてしまった、大きな声で怒鳴りつけてしまった。自分はなんてダメな母親なんだ。もう母親失格だ」というような使われ方をする。

多くの母親たちが一度は感じたことがあるのでは?と思うのだけど、例に漏れず、私も先日母親失格だと感じる出来事があった。娘に粉薬を飲ませるときのことである。

口に水を含み、上を向いてそこに粉薬を入れて飲み込む、ということがまだできないため、娘は牛乳に溶かして飲んでいる。

ただ、この薬、溶かすために作られていないから、何せ溶けにくい。

コップに少量入れた牛乳に薬を入れ、ティースプーンで混ぜる。溶け残りが無いよう、ときどきコップを傾けて底の様子を見ながらかき混ぜる。激しく混ぜすぎたせいで溢れてズボンが濡れることもある。

丹念に混ぜたから、さすがにもう溶け残っていないだろう。

「一気に飲み。」そう言い、コップを渡した。

娘は一気に薬入り牛乳を飲んだ後、「溶け残ってる。」と言った。

うそだ、あんなに丁寧に底の溶け具合を確認しながら混ぜたのに。
夫からも混ぜが足りなかったんちゃう?と言われる始末。

寝る準備は整っているから、溶け残りさえなければこのまま布団に入れるのに。

底に残ったオレンジの薬に、イライラしてきた。

そんな私の様子を見て、娘はスプーンで残りの薬をすくい、口に含んだ。

娘「全部飲めたよ。」

ちょっとの手間を面倒がったその一瞬を娘は敏感にキャッチし、苦い薬を我慢して飲んだ。

あぁ、今わたしは娘に気を遣わせてしまった。

私「娘に気を遣わせるなんて、母親失格やわ。」
夫「親に失格制度があると思うなよ。」

親に失格制度がある/ない、なんて、考えたことがなかったけど、確かにそうだ。娘から直接「あなたは母親失格です。」と言われない限り、わたしはこの子の母親であり続ける。

ドーピングした陸上選手がバレて失格になったり、体重オーバーの柔道選手が失格になったり。「失格」かどうかはその大会の委員会が決めることで、本人が決められることではない。

わたしは"母親"という選手で、娘はそれを見張る"委員会"の人だ。

部屋に新聞やチラシ、服、鼻をかんだティッシュが散乱していようと失格にはならない。夜ご飯を作るのが面倒で納豆と卵かけご飯にしたって、失格にはならない。

なかなか失格にならないから油断してしまうけれど、いつ言い渡されるかは分からない。

おそらく一発アウトではない。じわじわと娘の中に積み重なったジェンガがグラグラし、倒れたときに「アウト」となるのだ。そのジェンガはわたしには見えないから、どうすることもできない。

見えないからこそ、溶け残りにイライラするようなことは極力減らさねばと思っているのだけど、なかなか難しい。

延命を図るために、次からは娘が"カルピス"と呼んで愛する、シロップのお薬にしてもらおう。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集