「変わる組織」はどこが違うのか? 47
KPIは目的に直結しているか?
KPI (Key Performance Index) は多くの企業で採用されるようになりました。しかしよく見ると、事業の目的に直結していなかったり、遅行指標で、結果を見ているだけに過ぎないものだったりします。
この KPI を見直す上で参考になるのが、大谷翔平選手が今年もNo.1を獲得した OPS(出塁率+長打率)です。
OPS がどのようにして生まれ、球界に浸透する上でどのような抵抗にあったのかという歴史は、よい KPI を設定し、組織に活かしていく方法を考える上でとても参考になります。
この経緯を知るうえで、とてもいい本があります。ノンフィクション作家マイケル・ルイスが著した「マネーボール」です。日本語の翻訳も文庫本になっているので手軽に読めます。
それでも読みたくないという人のために簡単にポイントを紹介しておきましょう。
【まずOPSがなぜ生まれたか?】
野球で勝つためには、相手より多く得点することが必要です。当たり前ですよね。
より多く得点することが攻撃の目的であるはずなのに、1980年代までのバッターのランキングは打率順で、四死球や長打を評価しない傾向がありました。
しかし分析してみると、チームの総得点と平均打率の間の関係性は薄いのです。これに気づいた3人(ビル・ジェームズ、ディック・クレイマー、ピート・パーマー)が 1984年 に生み出したのが OPS です。つまり、打率じゃだめだ。もっと目的(得点)に直結した指標はないかと、彼らが疑問を持ったことによって生まれたわけです。
【今もあるOPSへの抵抗】
OPSへの抵抗、と書きましたが、もう少し広く、統計的なデータ解析を重視したセイバーメトリックスへの抵抗です。1984年に提唱されているのに、それを使って成果が挙がったのは、なんと2000年代のことです。オークランド・アスレチックスという弱小チームのゼネラルマネージャーだったビリー・ビーンが、球団の資金力がないためにセイバーメトリクスを重視したチーム編成を敢行し成功を収めます。要するに、打率は低いが OPS が高い注目されていない選手を安く採用したわけです。
その改革を描いたノンフィクション小説が上記の「マネーボール」。大ヒットしたので、その後ブラッド・ピット主演で映画化もされ(2011)、映画もヒットしました。それでようやくセイバーメトリックスが普及し始めたというわけです。
なぜ、そんなに時間がかかったのかって? その理由の一つは、野球のプロたちの常識と異なることがあるからです。たとえば、打率は重要じゃない。バントや盗塁の得点への寄与度は低い、といったこと。プロならずとも、眉唾に聞こえますよね。
もう一つは、セイバーメトリックスの提唱者たちが本格的な野球経験がなかったこと。ビル・ジェームズはライターだし、ディック・クレイマーとピート・パーマーは野球好きのエンジニア―でした。
「野球はデータではなく人間がやるもんだ」という信念を持つ人には長く受け入れてもらえなかった、いやいまも受け入れてもらえていないというわけです。
わかりますよね、その気持ち。でもね。イノベーションは、異分野の専門家から生まれるものでもあります。「聴く力」大切です。