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詩など書きたくない人のための100のソネット
T.S.エリオット『荒地』の翻訳です
きょうは朝からあなたが好きと言っていた黒いワンピースを着て出かけるのです。もちろんあなたに会いに行くために。あまり細身ではないわたしの身体が少し見えすぎてしまうこともあまり気にしなくなりました。あなたが連れて行ってくれるお店でキスをするのも随分慣れました。世間の目なんて気にすることはないということをあなたは教えてくれました。あなたはわたしの美しいところをたくさん教えてくれました。あなたはいままでであった男のひとが言わなかったようなことをたくさん言ってくれるので、なんだか幸福な
真の孤独をさがしている。そういう意味で私はまだ孤独ではない。
何度も氷のなかに出した 生ぬるい快楽の告白とともに 軽すぎる酒は 欲望を掻き立てるからよくない 酔いに任せて いつまでも言葉を覚えているから 未熟な詩が生まれるのだ あるとき遊歩道に風が渡り 季節の始まりを思わせる この雨がいつ止むのか 今はアプリが教えてくれるらしい ただ この雨がいつ降り始めたのか 誰も知らない
季節を想うことで問題の半分は解決している。
私は私を愛せ。それは一つの祈りとして。
詩を書くためには生きることそして傷つくこと。
あなたを救うのは芸術だけだと知る夜がある。
あなたは悲しみと 悲しみのあいだに泳ぐ 魚 また水が 動く 私なら ひらひらと 落ちる葉 水彩で ひとすじの 空を 描いて そこに 落ちていこうとする 迷子になる迷路を 見失う いくつかの波の 白さを 夜の 暗さを あなたを
飲みたい人と飲むのは 幸福の一つに違いない 賢明な友人に そんな飲んでばかりいて寂しいんですね と言われてから寂しさを考えている 恋の傷を恋で埋めるのは 未熟な人間のすることだったはずだ あなたが最後に言った 私のこともう書かないでね という別れ言葉にただ感動している 空飛ぶ鳥の気持ちという 不可知論に加担する気はない 現に飛んでいる鳥に 気持ちをきくな
ソネット30まで来ました。あと70…
心が書いてあると困るので ひとの詩を読むのをやめた 今日の昼食は 自分を傷つけるために ひとの声を聞いているような 味がして微笑んだ 人間を始めると やめられないので始められない きみに使ったやさしさを いつか返してもらうために どこまでも追いかけていくような 無意味さをソースにして 明日も生きようとか 言うはずもない
もういい。一言も語るな。過剰……
秋もなく冬が来る これで私は秋のうたを うたわなくてよくなった バーボンとスコッチの違いを ネットで調べたところで すぐに忘れてしまう 大半のことはそのように 忘れてしまうのがよいだろう 恋と愛のちがいについては バーボンかスコッチか もはやどちらでもよい 泥酔の詩人がささやく 悲しくならないならやめてしまえと そんなことはきいていない
耳に残るピアノ曲の曲名が思い出せずに煩悶しているとふいにその曲に出会うときがある。私たちは理解し合うために何度も泣いたはずだった。あるいはまったく理解を拒絶するためだったのかもしれない。私は私ではないなどという妄言にだまされて無意識が誰かに語りかけている。そのように女性に出会うと必ず痛い目にあう、というのは私の歴史感覚であなたにはどうでも良い話だろう。この前、行きつけのスポーツバーの若い店員を飲みに誘ったらカジュアルに行きますというので心がざわついた。じゃあ明日何時にここでと
悲しいことをあきらめたら 夜が短くなる 見えていたものが見えなくなって これを人間の成長というのだろう 想い人は 砂時計のなかにしまわれ 永久運動を与えられるから笑える 残されたピアスの復讐が 誰に向けられているのか わからずに 永遠を見失っている ただ私は赤い労働を繰り返して 神様のように あなたが見えない
振り返れば振り返るほど 夜はくらくなる 詩が レトリックにすぎないのと同様 あなたもレトリックにすぎない 一行一行に 何を込めるのか 愛か 苦しみか そんなものもただの言葉だろ 今日も 音楽が鳴り響く わかってる今日も われわれは 「音楽が鳴っているあいだは 踊り続けなければならない」